弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働者向け個人法律顧問契約の使い方

1.事務所開設1周年

 昨年12月20日、労働事件を重点的に扱う事務所として、師子角総合法律事務所を設立しました。事務所設立から本日で1周年を迎えます。開所以来、設立の趣旨に従った形で、順調に事務所を運営することができましたが、これも、ひとえに皆様のご支援とご厚誼の賜物と深く感謝しお礼申し上げます。

2.労働者向け個人顧問契約

 当事務所の特徴の一つに、個人向けの法律顧問サービスを提供していることがあります。それなりに好評を頂けていることもあり、本日は、労働事件における個人顧問契約の使い方について、お話しさせて頂きたいと思います。

3.労働者向け個人顧問契約が活かされる場面

 当事務所での個人顧問契約が最も活かされるのは、会社から目を付けられてはいるものの、まだ事件化しにくいという場面です。

 例えば、

復職和解が成立したものの、依然として労使間にわだかまりが残っている場面、

使用者側が労働者を排除する布石として、文書での注意・譴責・戒告などの具体的な実害とは結び付きにくい軽い措置をコツコツと積み上げてきている場面、

要請をしたわけでもないのに、使用者側から妊娠を理由とする軽易作業への転換をしつこく提案(強要といえる域には達していない)されている場面、

などが該当します。

 こうした場合に労働者を守るにあたっては、本来的には労働組合が重要な役割を持ちます。しかし、中規模・小規模の事業所には、労働組合がないことが少なくありません。そうした場合、労働者個人は、生身で使用者の力に対峙することになります。普通の人にとっては、これが、かなりのストレス因になります。

4.そもそも労働法があるのは・・・

 そもそも労働法があるのは、労使関係を労働者個人-使用者との私的自治に委ねておくと、力関係の格差から、歪な関係が形成されてしまうからです。つまり、労働者は、労働法を活用できて初めて、使用者と対等に渡り合うことができます。

 しかし、労働法は、数ある法領域の中でも専門性の高い分野であり、法専門家以外の方が駆使するのは非常に困難です。

 何らかの理由で使用者から目を付けられている方は、それだけでも職場で孤立しがちです。そうした状況のもと、専門的な知識もなく使用者に対峙することを強いられては、強いストレスが生じるのも当然のことです。

5.顧問契約で可能なこと

 使用者から目を付けられて、嫌味な扱いを受け続けると、仕事を辞めたくなってしまう方は少なくありません。しかし、その一方で、理不尽な扱いを受けて悔しい、絶対に自分からは辞めたくないと、ストレスに耐えながら働き続ける方もいます。個人向け法律顧問契約は、そうした方が受ける心理的な負荷を和らげることができます。

 具体的に言うと、労働契約が存在する以上、使用者から直接業務上の指揮命令を受ける関係に介入することまではできません。しかし、個人向け顧問契約を締結して頂き、代理人になることができれば、ハラスメントに対して逐一声を上げたり、懲戒権の濫用に対して異議を述べたり、労働条件の変更に関する交渉の窓口を務めたりすることができます。こうしたことを通じ、使用者から良く思われていない中で働くというストレスフルな状態は、幾分かは緩和することができます。

 また、使用者側が譴責・戒告などの軽微な懲戒処分をカジュアルに打ってきたりするのは、それだけでは弁護士に依頼するような経済的合理性が発生しないため、何もしてこないと高を括っているという面もあります。逆に言うと、弁護士を介入させ、経済合理性を無視しでも懲戒処分の効力を争うという気勢を見せることにより、ハラスメントが沈静化することもあります。

6.外部の労働組合への加入と並ぶ選択肢の一つとして・・・

 顧問契約を結んだとしても、ハラスメントが収まらなかったり、職場から排除されたりして、結局、訴訟事件化するという場面では、別途、訴訟委任契約を結んでいただく必要はあります。

 しかし、紛争は前提事実の形成段階から弁護士を関与させた方が勝ちやすくなるのは確かですし、前提事実を把握していれば、まっさらな状態で受任する場合と比べて着手金をディスカウントすることも可能になります。

 勤務先に企業別労働組合がない場合、地域ユニオンなど外部の労働組合に加入するという選択もあるかとは思いますが、それと並んで、弁護士と個人顧問契約を結ぶことも、身を守りながら働き続ける方途の一つとしてご検討頂けると嬉しく思います。