弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

有給休暇の取得方法-代表者の机上への前日提出、金曜のFAXで月曜から休むとの連絡は問題ないか?

1.有給休暇の取得方法

 労働基準法39条5項は、

使用者は、・・・有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」

と規定しています。

 この規定の理解については、

「年次有給休暇の権利を取得した労働者が、その有する休暇日数の範囲内で休暇の時季指定をしたときは、使用者による適法な時季変更権の行使がないかぎり、指定された時季に年次休暇が成立する」

と判示した判例があるため(最二小判昭48.3.2労働判例171-10 国鉄郡山工場賃金請求事件)、有給休暇を取得したい労働者は、使用者に対して時季指定を行うことで有給休暇を取得することになります。

 それでは、この時季指定の方法に何らかの制限はないのでしょうか?

 例えば、

有給取得の前日、代表者が不在の時を見計らって代表者の机上に有給届を出す、

金曜にFAXして週明け月曜から有給休暇を取得することを通知する、

といった方法で時季指定を行うことは許されるのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、こうした方法で時季指定を行うことの適否が問題となった裁判例が掲載されていました。大阪地判令2.6.11労働判例ジャーナル104-52 御堂筋鑑定事件です。

2.御堂筋鑑定事件

 本件で被告になったのは、損害保険の損害調査及び鑑定業務等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の元従業員であった方(a、b二名)です。

 原告らは、平成30年1月15日、同月16日から同月17日を期間とする有給届を提出しました。

 また、同年1月19日(金)には、同月22日(月)から退職日まで有給休暇を使用することをFAXで通知しました。

 被告はこのような時季指定を権利濫用だと主張し、賃金の支払義務を争いました。

 この問題について、裁判所は、次のとおり判示し、時季指定の権利濫用性を否定しました。

(裁判所の判断)

「被告の主張によっても、原告らによる平成30年1月15日及び19日の有給休暇の時季指定・・・に対し、被告が時季変更権を行使した事実はない。この点、被告は、原告らの有給休暇の時季指定が、被告代表者が被告の事務所にいない間を見計らって被告代表者の机の上に有給届を置いておく方法で行われるなど被告が時季変更権を行使する機会を与えずに行われており、権利の濫用に当たる旨主張するが、対面でなくとも被告が電話や書面の郵送により時季変更権を行使することが可能であるから、原告らが、被告代表者が事務所にいない間に有給休暇を申請したからといってそれが権利の濫用に当たるものではない。

3.元々時季変更が許容されない場面であったが・・・

 元々、退職予定日を超えての時季変更権の行使は行えないとされています(昭和49年1月11日 基収5554号参照)。そのため、本件が時季変更権の行使の困難な事案であったことは確かだと思います。

 しかし、それを措くとしても、前日出しや、金曜のFAXで月曜から有給休暇を取得することに特段の問題がないとされている点は、注目に値します。

 退職妨害やハラスメントが問題となる事案においては、ある程度強引に有給休暇を取得せざるを得ないことがあります。そうした事案で、前日出し、翌週からの有給取得のFAX通知といった手法をとるにあたり、本件は時季指定の適法性の根拠として使える可能性のある裁判例だと思います。