弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

「明日から来なくていい」の法的な意味-続報

1.解雇? 合意退職?

 以前、

「『明日から来なくていい』の法的な意味-曖昧な言葉を事後的に都合よく解釈する手法への警鐘」

という記事を書きました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/08/15/000113

 この記事の中で、「明日から来なくていい。」という多義的な言葉について、解雇とみることにも合意退職の契機とみることにも消極的な判断をした裁判例をご紹介しました(津地判平31.3.28労働判例ジャーナル89-32伊勢安土桃山城下街事件)。

 この記事の控訴審判決が近時公刊された判例集に掲載されていました。名古屋高判令元.10.25労働判例1222-71「みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる」(旧商号:伊勢安土桃山城下町(株))事件です。

2.「みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる」事件

 控訴審でも一審に引き続き、被告会社・控訴人会社が原告ら・被控訴人らに伝えた

「明日から出社しなくてよい」

との発言の法的な意味合いを、どのように理解するのかが問題になりました。

 この問題について、控訴審は、次のとおり述べて原審の判断を変更し、所掲の発言は解雇だと判示しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人らは、解雇の意思表示はなかった旨主張し、控訴人作成の平成29年8月8日付けの被控訴人らに係る退職証明書・・・には、退職理由がいずれも『退職勧奨』と記載されている。しかしながら、(被告・控訴人の人事部長 括弧内筆者注)は、上記各面談において、被控訴人らに対し、それぞれ明日から出社しなくてよい旨を最終的に明示しており、その発言に至る面談の内容が、被控訴人らが退職勧奨に応じるか否かのやりとりとなっていたことや、被控訴人X1については退職勧奨の条件となっていた給与の1か月分の支払が併せて告げられていること、出社しなくてよい日数や期間等について何も述べられていないことを踏まえると、上記発言の趣旨が、単なる出勤停止を告げるものではなく、確定的・一方的に被控訴人らとの間の雇用関係を終了させる意思表示であったことは明らかというべきである。控訴人が平成29年7月25日に口座振込の方法で支払った金額のうち被控訴人らの各1か月分の月額給与に相当する金額が、同月分の給与の明細書・・・で『その他支給→解雇予告手当1ヶ月分』と記載されていることは、控訴人において被控訴人らに対する解雇の意思表示をしたことを推認させるものであり、他方、上記退職証明書で退職理由がいずれも『退職勧奨』と記載されていることは、控訴人において被控訴人らが対外的に使用することもある退職証明書に『解雇』と明示することを避けたものとして理解可能であるから、解雇の意思表示があったとの認定を妨げるものではない。」

「したがって、平成29年6月30日に被控訴人らに対する解雇の意思表示がされたと認められる・・・」

3.結局、解雇無効が認められはしているが・・・

 以上の判示に続け、控訴審は、被告会社・控訴人会社による解雇について、客観的合理的理由・社会通念上の相当性を欠き無効だと判示しています。そのため、原告ら・被控訴人らの地位確認請求を認める結論自体は維持されています。

 しかし、

「明日から出社しなくてよい」

との発言を解雇の意思表示とみること自体を否定した原審の判断は、変更されてしまいました。解雇の枠組みに誘導されるのであれば、実務的にそこまで問題視するような裁判例ではないのかませんが、原審の画期的な認定が否定されてしまった点は、やはり残念というほかありません。