弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

ハラスメントを継続的不法行為として構成する時のポイントは主観面?

1.ハラスメントを理由とする損害賠償請求

 ハラスメントを理由として損害賠償を請求する時、

単発の不法行為がたくさんあるものとして構成する方法

と、

一個の継続的不法行為として構成する方法

があります。

 例えば、不法行為を構成するA事実、B事実、C事実があるとして、

A事実に基づいて慰謝料α円が発生する、B事実に基づいて慰謝料β円が発生する、C事実に基づいて慰謝料γ円が発生する、よって、α円+β円+γ円を払え

というのが前者の構成で、

A事実、B事実、C事実は、一個の継続した不法行為である、この継続した不法行為を理由として慰謝料をδ円払え

というのが後者の継続的不法行為構成です。

 この二つの法律構成のうち、どちらが有利なのかに関する実証研究は見たことがありません。ただ、継続的不法行為として構成した場合、最後の事実から消滅時効が進行すると理解できる可能性があります(なお、これは飽くまでも「可能性」です。時折、誤解と思われる記事が散見されますが、継続的不法行為であれば即ち最後の事実から消滅時効が進行するというわけではありません。例えば、土地の不法占有のようなケースでは、日々新しい不法行為に基づく損害として各損害を知った時から別個に別個に事項が進行するものと理解されています。継続的不法行為の場合、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)の時点が個別事案に応じて慎重に検討されるというだけです(我妻榮ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』〔日本評論社、第6版、令元〕1565頁参照)。その結果として、最後の不法行為の時点から消滅時効が起算されることがあるというのが正確な理解だと思います。)。

 そうしたこともり、特にハラスメントが長期間に渡る場合には、慰謝料の考慮要素とされる事実をより古くまで遡れるため、継続的不法行為として構成する例が実務的には多いのではないかと思います。

 しかし、原告側で継続的不法行為の構成で訴訟提起したとしても、判決になると、裁判所が勝手に、A事実ではα円、B事実ではβ円、C事実ではγ円といったように、各不法行為・ハラスメントを分解して損害論を組み立てることがあります。

 裁判所が、継続的不法行為をそのまま一個の不法行為として扱う場合と、勝手に分解してしまう場合とで、何か法則性・規則性がないのか、ずっと気になっていたところ、近時の判例集に、一つの示唆を与えてくれる裁判例が掲載されていました。那覇地判令元.12.24労働判例ジャーナル98-28 国立大学法人琉球大学事件です。

2.国立大学法人琉球大学事件

 これは琉球大学大学院医学研究科の講師が原告となって、研究科の教授P2及びP3から違法な退職勧奨を含むパワーハラスメントを受け、精神的苦痛を被ったとして、大学及びP2、P3に対して慰謝料を請求する訴えを起こした事件です。

 本件は、平成28年にP2、P3個人に対する訴えが先行して提起され(第1事件)、その後、平成29年に大学が被告として追加される(第2事件)という変則的な経過が辿られています。

 原告がパワーハラスメント行為として挙示した事実のうち、最も古いものは平成26年1月10日のものでした。しかし、被告大学に対する訴訟提起が平成29年12月8日であったことから、被告大学との関係では、一部事実に基づく損害賠償請求権が消滅時効(3年)にかかっているのではないのかが問題になりました。

 裁判所は、次のとおり述べて、被告大学の消滅時効に係る主張を排斥しました。

(裁判所の判断)

「被告大学は、被告個人らによるハラスメント行為が日時・場所を異にする別個の不法行為であることを前提に、平成26年12月7日以前に行われた行為に基づく損害賠償債務について消滅時効を援用するが、・・・原告に対するハラスメント行為は、被告P2の原告を退職に誘導しようとする同一の意思に基づく一連の行為であるということができ、その終了時まで消滅時効期間が進行を開始することはないというべきであるから、被告大学に対する第2事件の訴え提起の日である平成29年12月8日の時点において、不法行為の終了の日から3年が経過していたと認めることはできず、被告大学の消滅時効の主張には理由がない。」

3.主観面がポイントになるのか?

 国立大学法人琉球大学事件の裁判所は、

「退職に誘導しようとする同一の意思に基づく一連の行為」

であることを、消滅時効期間の起算点が一連の行為の終了時になるとする根拠として指摘しました。

 行為の一連性を主張しても勝手に分解されてしまうケースは結構あるため、個人的には、ポイントになったのは主観面なのかという印象を持っています。

 主観的要件を主張、立証したからといって、直ちに継続的不法行為として構成した主張が分解されなくなるわけではないと思いますが、分解されにくくするための一つの工夫として、主観的な意図を強調することは、考えられてもよいのだろうと思います。