弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

フィーリングによる面接が否定された事例(雇止め)

1.面接・面談の恣意性

 採用面接や人事考課面談では、しばしば、評価者による恣意性が問題になります。面接担当者や上司によって対象者に対する評価が全く異なったものになるという話を聞くことは、個人的な経験の範囲内でも少なくありません。

 こうした問題に対処するため、各企業では面接による評価を客観化し、面接を有意義にするための工夫が模索されています。

 しかし、旧態依然として、フィーリングに近い形で面接による評価を実施している企業も、決して少なくないように思います。

 近時公刊された判例集に、こうした前時代的な面接の在り方が否定された事例が掲載されていました。山口地判令2.2.19労働判例ジャーナル98-20 地方独立行政法人山口県立病院機構事件です。

2.地方独立行政法人山口県立病院機構事件

 本件は雇止めの有効性が問題になった事件です。

 被告になったのは、病院を運営する地方独立行政法人です。

 原告になったのは、被告との間で有期雇用契約を繰り返していた看護師の方です。

 地方独立行政法人の発足以降、原告の方は、被告との間で、期間1年の有期雇用契約を繰り返していました。

 しかし、無期雇用ルール(有期労働契約が更新されて契約期間が5年以上になった場合、労働者に契約の無期転換権が生じるルール、労働契約法18条参照)が平成25年4月1日以降の労働契約に適用されることになった関係で(平成24年8月10日法律第56号附則第2項、政令第267号「労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」参照)、被告の就業規則に、

「平成25年4月1日を起算日とする有期常勤職員の通算雇用期間は、『理事長が特に必要と認めたとき』を除き、原則として5年を超えない範囲内とする」

との更新上限条項が設けられることになりました。

 そして、「理事長が特に必要と認めたとき」に該当するか否かは、面接試験と勤務評価を総合して判断される仕組みになっていました。

 平成30年4月1日以降も契約が更新されることを望んだ原告は、面接試験を受けました。

 しかし、被告は総合評価の結果、「理事長が特に必要と認めたとき」に当たらないと判断し、平成30年3月31日をもって原告を雇止めにしました。

 これに対し、原告の方が、雇止めの効力を争って、地位確認等を求めて被告を訴えたのが本件です。

 本件の争点の一つになったのは、面接試験の合理性です。

 本件の面接試験は、次のように位置付けられていました。

「本件面接試験は、2名以上の試験委員(1名を各病院の事務部職員とし、1名を当該職員の所属の正規職員とする。)が、受験者の面接状況により、次の4段階の評語で判定を行い、各評語を点数化し、試験委員全員の評価の平均がC(雇用継続をためらう)以下の場合については、欠点として、不合格とする。
A(ぜひ雇用継続したい)12点
B(雇用継続したい)8点
C(雇用継続をためらう)4点
D(雇用継続したくない)0点」

 この仕組みに対し、原告は、

「本件面接試験には、統一的な評価基準がなく、公平な評価が行われているとは言い難いし、そもそも反復継続して契約更新されてきた実績を持つ原告の勤務成績、態度、能力について、客観性のない短時間の本件面接試験により評価することに合理性があるとはいえない。」

と主張しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、本件面接試験は合理性に欠けると指摘し、雇止めの効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件就業規則上、有期常勤職員の6年目以降の雇用継続の要件は『理事長が特に必要と認めたとき』と定められているところ、その具体的な判断基準は明らかではないが、・・・有期職員の中には有期労働契約が更新されることについての合理的期待を有する者がおり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない雇止めは許されないのであるから、理事長の人事権に当然に内在する制約として、その判断は公正に行われなければならないと解すべきである。したがって、本件雇用継続審査については、評価の公正さを担保できる仕組みが存在し、設定された評価基準自体が合理性を有することを要すると解するのが相当である。

「本件面接試験については、その評価対象は明示されていないものの、総合評価における雇用継続決定基準が『業務に支障はなく、本人に要求される水準に達している』か否かであることから、その評価の対象も、当該有期職員の担当業務の遂行に必要な能力の有無であると認められる。」

「しかるに、前記前提事実及び証拠・・・によれば、本件面接試験においては、『業務内容』、『意欲』、『性格』及び『自己アピール』などの質問項目が例示として定められているのみで、評価項目及び各項目毎の評定尺度の基準の定め、各項目毎の評定結果と総合評価との関連付けについての定めはなく、2名の試験委員が、15分程度の面接時間内に行われた質問に対する回答を踏まえて、直接4段階の総合評価を行うものとされていたこと、各評価段階を区別する指標は、『ぜひ雇用継続したい』、『雇用継続したい』、『雇用継続をためらう』、『雇用継続したくない』という、主観的な表現が用いられているのみであって、試験委員が評価の根拠を明らかにすることも予定されていなかったことが認められる。

以上によれば、本件面接試験には、合理的な評価基準の定め及び評価の公正さを担保できる仕組みが存在せず、本件雇用継続審査における判断過程は合理性に欠けるものといわなければならない。

したがって、本件雇止めには合理的理由を認めることができず、社会通念上相当であるとは認められない。

 3.流石に採用基準が「ぜひ雇用したい」(理由は言わない)は不適切であろう

 流石に、採用基準が「ぜひ雇用したい」(理由は言わなくていい)という面接では、合理性がないと切って捨てられるのも仕方ないだろうと思います(個人的には、こんなものは、単なるフィーリングの表明にすぎず、面接の体を為していないと思います)。

 ただ、そういった極端な事案であったこと、無期雇用ルールの脱法を図ったことが疑われる事案であること、雇止めという比較的使用者の裁量を制約し易い局面であったことなどの諸々の事情を考慮したとしても、面接に、

「合理的な評価基準の定め及び評価の公正さを担保できる仕組み」

が必要であると判示した点は、画期的な判断だと思います。冒頭で述べたとおり、単なる好き嫌いで評価しているのではないかという疑義のある面接は、私が個人的に見聞きする範囲でも、決して少なくないからです。

 本件は、面接による主観的・恣意的な評価に悩んでいる人・苦しんでいる人にとっての救済のツールとして機能する可能性があります。

 こうした裁判例もあるので、中身が全く分からないまま、面接で不当な評価をされて不利益を受けた、そのことに納得のいかない方は、一度、対応を弁護士に相談してみてもよいのではないかと思います。