弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

フリーランスの中には労働者性の認められる方が混ざっている

1.擬似労働者の問題

 ネット上に、

「フリーランスや自営業者にも休業補償…政府が支援対象拡大へ」

という記事が掲載されています。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200304-00050158-yom-pol

 記事には、

「菅官房長官は4日午前の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一斉休校を巡り、子どもの世話で仕事を休んだフリーランスや自営業者にも支援措置を講じる考えを示した。」

「政府が2日に創設を発表した新たな助成金制度は、企業に対し、正規か非正規かを問わず1人当たり日額8330円を上限に、保護者の休暇中の賃金全額を支給するもので、自営業者らは対象外だった。菅氏は支援について「可能な限りの対応をやりたい」と述べた。」

「安倍首相も3日の参院予算委員会で『フリーランスを含む個人事業主の声を直接うかがう仕組みを作り、しっかりと対策を講じる』と答弁していた。」

と書かれています。

 フリーランスへの議論の在り方を考えるにあたっては、誤分類と呼ばれる擬似労働者の存在を考えておく必要があります。誤分類・擬似労働者というのは、形のうえではフリーランスや個人事業主に該当していても、実質的には雇用されている労働者に等しいと言われている方々を言います。フリーランス・自営業者とされている人の中には、労働者性を争えば認められそうなものが相当数含まれています。

 近時公刊された判例集に掲載されている令元.10.24労働判例ジャーナル95-24イヤシス事件もそうした事例一つです。

2.イヤシス事件

 本件で被告とされたのは、リラクゼーションサロンの経営等を目的とする有限会社です。

 原告らになったのは、被告の運営する店舗施術等を担当した方です。自分達は労働者であるとして、未払い割増賃金等の支払いを求める訴えを起こしました。

 これに対し、被告は、原告らと締結した契約は労働契約ではなく、業務委託契約であると主張し、原告の請求の棄却を求めました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告らの労働者性を肯定しました。

(裁判所の判断)

-業務従事時間の拘束性-
「原告らの業務従事時間については、本件各契約書に「委託時間は1日8時間から10時間を目途とする」と記載され・・・、原告らに送付されたスタッフハンドブックにも『10分前出勤を徹底』、『休憩は8時間勤務で1時間』、『(※休憩中でも施術に入らなければいけない場合あり)』等の記載がある・・・。なお、被告代表者の陳述書・・・にも、店舗運営上原告らの面接時にできるだけ8時間はいてもらいたい旨伝えたとの記載がある。加えて、本件店舗に配置されたスタッフは、3名ないし4名であり、そのシフトにおいて、各日の労務を提供するのがそのうち2名又は3名であるところ、本件店舗においてスタッフ不足を理由に閉店できないから、休日の希望日が重なれば、どちらか一方が業務に従事せざるを得ない。また、例えば、2人体制の日にシフトで割り当てられた業務従事時間中に中抜け(休憩や私用等の都合のために一時的に業務から外れること)すると、本件店舗の業務従事者が1人になる。このような人員体制の状況を考えると、原告らが自由に中抜けすることも困難である・・・。他方で、被告が原告らの休日希望日が重なった場合に他の店舗から従業員を応援に出すなど原告らの自由に休んだり、中抜けしたりできる体制を構築していたことを認めるに足りる証拠もない。さらに、原告らは、被告に対し、売上兼出勤簿において、客の人数や売上のみならず、出退社時間も報告していた・・・。そうすると、仮にEが原告らに対し、業務従事(出勤)を明確には指示していなかったとしても、原告らは、被告によって業務従事時間の拘束を受けていたといわざるを得ない。」
-報酬の労働対価性-
「原告らの報酬は、歩合制であったけれども、1日当たり6000円又は5000円の最低保証額が定められており、しかも原告らの業務従事時間が8時間に満たない場合には減額されていたのであるから・・・、原告らの報酬は労働の対価と評価せざるを得ない。」
-諾否の自由、業務の内容・遂行方法に対する指揮命令、業務従事場所の拘束性、事業性等-
 そのほか、原告らが顧客の施術の依頼を自由に断れるわけではないこと・・・、被告が運営する店舗として他の店舗と同等のサービスを実施してもらう必要があった、、、こと(そのための研修を受けてもらう必要もあること)は被告も認めていること、原告らが被告に対し、イヤシスデータや売上兼出勤簿等によって業務報告をしていたこ、原告らの業務従事場所が本件店舗と定められていたこと・・・、本件店舗自体及びその備品を被告が提供していたこと・・・、後述のとおり、原告らの報酬がほとんど最低保証額であって最低賃金を下回るものであり、被告の他の従業員に比して高額なものであったとはいえないこと、本件各契約書には、労働契約書を修正等して作成されたためとはいえ、原告らが指摘するように『遅刻』や『始末書」』労働契約を前提とした文言が記載されていること・・・、本件各契約を業務委託とすることは、結果として、本件店舗の新規開店に伴うリスク(これまで展開してきたビジネスモデルと異なり、本件店舗での経営状況を計れなかったこと、周辺の他店舗との競争が激しいこと)をリラクゼーション業務の経験が乏しい原告らに負担させることとな「原告らに酷な状況であったこと・・・からすれば、本件店舗には原告らと同様に委託契約を取り交わした者以外には店長を含む被告の従業員が配置されていなかったこと、原告らと被告の従業員(労働契約を締結した者)とで業務従事時間の管理や報酬、評価制度の有無等異なった取扱いがされていること等被告が指摘する点を考慮しても、原告らは、労基法上の労働者に当たると認められる。」

3.フリーランスの実体

 フリーランスというと労働者と対置される概念として理解されがちですが、その地位は労働者と連続的であるように思われます。

 フリーランスとは銘打っていても、実体を分析してみると労働者と同様であったり(疑似労働者)、仕事を発注してくれる特定の一社に経済的に従属していたりすることは珍しくありません。

 所得補償などの貧困問題を考える政策を考えるにあたっては、フリーランスと呼ばれる人の中に、被用者と大差ない生活を送っていることが意識される必要があります。しかし、フリーランスの中で支援を必要としている人としていない人とを仕分けすることは、極めて困難です。救済の必要がある方を洩れなく救済することを試みようとする政府の方針は、フリーランスの実体を踏まえた適切な判断だと思われます。

 イシヤス事件のように、時間的・場所的に強く拘束されていて、最低賃金を割るような報酬水準・支払条件で働かされている人は少なくないだろうと思います。

 労働者かどうかは、契約の表題などの形式で決まるわけではなく、稼働の実体を見て判断されます。

 契約の表題が業務委託契約になっていたとしても、雇われているのと変わらないのではないか? という疑問を感じている方は少なくないと思います。こうした方は、一度、弁護士のもとに相談に行ってみるとよいと思います。労働者性が認められれば、残業代の請求など、労働基準法に根拠のある種々の権利行使の途が開かれることになります。