弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

社宅の賃貸借契約の特殊性

1.社宅と借地借家法

 借地借家法26条1項は、

「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」

と規定しています。

 同項2項は、

「前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。」

と規定しています。

 また、同法28条は、

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

と規定しています。

 そして、上述したよりも賃借人に不利なルール設定は、その効力を否定されます(借地借家法30条)

 社宅をめぐる法律関係について、上述のような借地借家法の定めるルールの適用があるのかが争われることがあります。

 争われ方としては、

① 対償が低廉だから賃貸借契約ではない、

② 特殊な賃貸借契約だから借地借家法のルールはストレートには適用されない、

といった二つのパターンがあります。

 近時の公刊物に後者の類型とみられる裁判例が掲載されていました。

 東京地判令元.7.11労働判例ジャーナル93-32・関電工事件です。

2.家電工事件

 本件で被告になったのは、電気設備工事等を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の従業員です。被告が原告を社宅から退去させたことが賃貸借契約上の使用収益させる義務の不履行であると主張して、被告に対して損害賠償等を求める訴えを提起したのが本件です。

 裁判所は使用関係が賃貸借契約であることを前提としながら、次のとおり述べて原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「原告が本件社宅を退去した時点で既に社宅管理基準が定める居住期間の5年間が経過していたところ・・・、被告が居住期間の延長をしたと認めるに足りる証拠はない。」
「そして、社宅管理基準6条2項の規定振り(『居住期間は・・・延長することができる』)に照らすと、同項は居住期間を延長するか否かを被告の裁量に委ねているものと解される。
「・・・原告は、平成26年2月頃に過去の漏水調査の際の業者に対する自らの言動等を原因として被告が賃貸人から本件賃貸借契約の更新拒絶の申入れを受けたことを認識していたにもかかわらず、平成29年7月27日以降空調機の不具合に関して管理会社等に対して自己中心的かつ不合理な要求をするなどし、これが原因の一つとなって本件賃貸借契約が解除されるに至ったものであって、本件賃貸借契約の解除に至った原因は専ら原告の言動にあるというべきである。このことに鑑みれば、被告において社宅の居住期間の延長の決定を明示的にしておらず、居住期間経過後は事実上居住期間を延長する運用をしていたこと・・・を考慮しても、被告が原告の社宅の居住期間を延長しないこととしたことが不合理又は不当であるとはいえず、その裁量の逸脱、濫用があるとはいえない。 」

3、普通の賃貸借契約であれば、延長が裁量に委ねられていることはないが・・・

 借地借家法の適用のある普通の建物賃貸借契約の場合、いわゆる正当な理由がなければ契約が一方的に解除・更新拒絶されることはありません。正当な理由もなく、その裁量で更新拒絶等を決められるとしたところで、借地借家法30条があるため、そうした定めが法的な効力を有するかには疑義があります。

 しかし、社宅のける賃貸借契約では借地借家法を緩和する方向でのルール設定が、一定の限度で許容されているように見えます。

 社宅は賃料が安価に設定されることも多く便利ではありますが、社宅を利用している・利用を検討している方の場合、普通に家を借りることとの比較いおて居住する権利がそれほど強く保障されているわけでないことは意識しておく必要があろうかと思われます。