弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

整理解雇の規制は本当に厳しいのだろうか

1.整理解雇の規制

 整理解雇の可否は、①人員削減を行う経営上の必要性、②使用者による十分な回避努力、③被解雇者の選定基準及びその適用の合理性、④被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続、という4つの観点から判断されるとされています。

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/10/90.html

 解雇規制を緩和すべきとする論者から、この規制は厳しすぎるのではないかという問題提起がなされることがあります。また、追い出し部屋のような現象が生じるのは、整理解雇の基準が厳しすぎるからだといった指摘がなされることもあります。

 しかし、整理解雇に関する規制は、それほど極端なルールではありません。会社が潰れそうにならなければ解雇できないというのは完全な誤解ですし、追い出し部屋の免罪符に使われるようなものでもありません。特に、事業部門の廃止に伴う整理解雇の場合、かなり柔軟な運用がされているのではないかと思います。

 近時の公刊物にも、そのことを象徴するような裁判例が掲載されていました。

 東京高判平30.10.10労働経済判例速報2391-33新井鉄工所事件です。

2.新井鉄工所事件

(1)事案の概要

 本件は油井管製造事業を主要事業としていた被告・被控訴人が、同事業を廃止することに伴い、同事業に従事していた従業員を整理解雇したところ、解雇された従業員達(原告・控訴人)から訴えられたという事案です。

 原告・控訴人らは、

「整理解雇が有効であるための4要件は、本来厳格な要素で考慮しなければならないところ、本件の特殊性(①被控訴人が約118億円もの余剰資産を有している上、年間2億円以上の継続的な賃料収入があること、②単なる製造部門の廃止であって、被控訴人には清算の予定がないこと、③控訴人らの従事していた業務は特殊であり、その技能や経験を生かすことのできる分野はほとんどないため、再就職が非常に困難であること)を考慮した上で、厳格な要件の当てはめをすべきである。」

「不動産管理業務への配転可能性があったのであるから、解雇回避努力義務に違反している。」

などと主張して解雇の効力を争いました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は次のとおり判示して、整理解雇の有効性を認め、原告の請求を棄却した一審判決を支持し、控訴を棄却しました。

「原判決は、本件解雇の効力の判断枠組みについて、人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性及び解雇手続の相当性の存否及びその程度を総合考慮して労働契約法16条所定の場合に当たるか否かを判断するのが相当であると説示しているのであって、上記の点を重要な考慮要素を類型化したものであると考える立場(厳格な意味での要件であると考える立場(いわゆる4要件説)とは異なる。)を採ったものと解されるところ、当裁判所も上記のような判断枠組みを相当と思料する。そして、控訴人らが主張する本件の特殊性については、①は、『会社に膨大な資産があり、継続的な収入がある以上、赤字が見込まれる事業であっても維持しなければならない』ということであれば、会社の経営の自由を侵害するものであるから不当であるし、②は、清算の予定がなければ整理解雇が認められないことにはならないというべきである。また、③についても、再就職が非常に困難であるとしても、そのことを理由に他の要素いかんにかかわらず雇用を維持し続けなければならないというものでもないから、いずれもそれを殊更特別なものとして考慮すべきであるとまではいえない。

不動産管理会社が行うのと同程度の管理業務を控訴人らに新たに担わせるとなれば、相当の知識・経験を習得させる必要があることは容易に想定されるところ、不動産管理業務が主たる事業ではない被控訴人にそのような業種の転換を半ば強要するようなことを認めるのは、正に経営の自由を不当に侵害するものであって相当ではないから、被控訴人の賃料収入が多額に上っていることは否定できないとしても、被控訴人が控訴人らに上記知識・経験を習得させるのに要する手段やその費用などを検討していないからといって、それが解雇回避努力義務を尽くしていないことになるものではない。」

3.実際にはかなり経営の自由が尊重されている

 上述のとおり、裁判所は潰れるまで整理解雇はダメといったことは言っていません。赤字部門の事業継続を強いるわけでもありません。この事件の原告・控訴人は7名ですが、118億円余剰資産があり、2億円超の継続的な賃料収入があっても解雇は可能だとしています(本件は上告、上告受理申立がされましたが、最高裁でも高裁の判断は支持され、棄却・不受理の結論が出されています。最高裁平成31年(オ)第211号、平成31年(受)第259号)。

 本件では労働組合との間で21回にも渡る団体交渉が実施され、会社は資料開示に応じながら説明を重ねるなど、比較的誠意のある対応をとっていました。

 きちんとしたプロセスさえ踏めば、本当に必要な整理解雇が認められないことはないので、追い出し部屋のような問題のあるリストラの方法をとる必要はありません。