弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

企業組合の組合員の労働者性

1.企業組合

 企業組合という組織があります。一般の方はもちろん、法律専門職にも、それほど良く知られている仕組みではないと思います。

 企業組合は、中小企業等協同組合法という法律に根拠があり、中小企業等協同組合の一類型として位置づけられています(中小企業等協同組合法3条4号)。

 それでは、この「企業組合」という組織は、どのようなものなのでしょうか。

 経済産業省の関東経済産業局のホームページでは、次のように説明されています。

「この組合は、独特の協同組合の形態であり、その組合員は自己の資本と労働力とのすべてを組合に投入し、企業組合自体が1個の企業体として事業を行うものです。
 したがって組合員は、組合の経営に参画するとともに、原則として組合の事業に従事して報酬を受ける勤労者的存在となるものです。このように、この組合の活動は、外見からは会社に類似していますが、内部的には協同組合の原則によって運営されます。このような企業組合は、小規模事業者が企業合同により、その経営単位を拡大して、経済的地位を向上するための組織として、利用されるとともに、創業・新事業挑戦のための多様なパートナーシップ組織として利用されているものです。
 企業組合が行う事業は、商業、工業、鉱業、運送業、サービス業、その他組合の定款で定める事業です。」

https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/kumiai/index.html

https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/kumiai/data/kumiaigaiyo.pdf 

 この仕組みの興味深いところは、組合員が事業者としての性質を維持しながら、労働者に準じた法的保護を受ける可能性が開かれているところです。

 例えば、企業組合と同じく中小企業等協同組合法に基づく協同組合の一つに、事業協同組合という仕組みがあります(中小企業等協同組合法3条1号)。

 事業協同組合は、

「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」

を行うことができ(中小企業等協同組合法9条の2第1項6号)、

「事業協同組合・・・と取引関係がある事業者・・・は、その取引条件について事業協同組合・・・の代表者・・・が政令の定めるところにより団体協約を締結するため交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもつてその交渉に応ずるものとする」

とされています(中小企業等協同組合法9条の2第12項)。

 簡単に言えば、事業者の集合体でありながら、労働組合のように団体交渉ができるということです(ただし、労働組合による団体交渉ほど強力な権利性・救済手段は与えられておらず、労働組合と同じようにと言うと語弊があります。この点は誤解なきように注意してください。)。

 近時、フリーランスの方など、労働者の定義からはみ出た人が、労働法の枠外で交渉力格差のある企業と向き合わなければならないことが問題となっています。こうした人達を保護する仕組みとして活用することができないか、個人的に注目している仕組みです。

 ただ、この仕組みは個々の組合員に事業者性があることを前提にすることから、脱法スキームとしても利用可能なものです。実質的には理事長ら上層部が意思決定を行い、他の組合員を指揮命令しているにもかかわらず、各組合員に事業者性があることを理由に労働法上の義務を遵守しないといったようにです。

 それでは、企業組合の組合員の労働者性については、どのように判断すればよいのでしょうか。企業組合という形式をとることが、一般的に採られている労働者性の判断枠組みに何等かの影響を与えることはあるのでしょうか。

 この点について、目を引く判断を示した裁判例が公刊物に掲載されていました。

 東京高判令元.6.4労働判例1207-39企業組合ワーカーズ・コレクティブ轍・東村山事件です。

2.企業組合ワーカーズ・コレクティブ轍・東村山事件

 この事件は企業組合の組合員の労働者性が問題となった事件です。結論としては、労働者性を否定していますが、興味深いと思ったのは一審(東京地立川支判平30.9.25労働判例1207-45)を含めた以下の判示です。

当該法人が形式的にワーカーズ・コレクティブ『であるという』一事のみでは、これを事業者性を肯定する事情とみることはできないのであって、組合契約の本質に照らせば、当該組合の事業全体にわたって、主体的に、組合員が実質的な協議を行ってこれを決定しているか否かが重要な要素であると解され、形式的には組合員が決定しているようでも、実質的な協議や決定がされず、理事者の提案ないし決定を単に追認しているにとどまるような場合(例えば、組合員の人数が多数に及ぶ場合には、実質的な協議決定はおよそ期待できないし、組合員の人数が少数であったとしても、組合員間に同質性がなく、理事者ら一部の組合員の発言力が強く、あるいは組合員が全体として協議決定に無関心で、およそ組合員による実質的な協議決定が行われていないといえる場合等がこれに当たると解される。)には、およそ事業者性を肯定する事情とすることはできない。

(中略)

被告においては、理事長を含むメンバー全員が拠出金とトラックドライバーとしての労働力を提供し合って活動しており、理事長ら役員と原告を含むその他のメンバーの地位との間に大きな差はなく、メンバーの全員が、同等の立場で、多数決により被告の運営に実質的に関与しており、その組合員は、主体的に出資し、運営し、働き、共同で事業を行っていたものといえるから、原告は組合員として事業者性が肯定され、その労働を他人の指揮監督下の労働とみるのは困難である。」

※ 『』は高裁の改め文で補正された文言で置き換えた箇所・内容です。以下の『』も同様です。

3.本来的な利用方法と脱法スキームとの違い

 以上の判示は「労働者性の判断を補強する『その他の要素』」と題された項目の中での判断であり、労働者性を否定する判断が出た後での傍論的な判示です。

 しかし、健全な協同組合と脱法スキーム的な協同組合とを区別するうえでの指標を示したものとして、かなり重要な意味があるように思われます。

 近時、労働法の規制を免れるため、従業員を個人事業主化するという動きが危惧されるようになっています。協同組合の仕組みは、フリーランスの方を保護する方策になる一方、労働者を事業者として働かせるという脱法スキーム的な利用も可能なもので、どのような利用がなされて行くのかは、今後とも注目されるところです。