弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

短時間パートと給食手当・食事手当、正社員との格差の許容性

1.短時間パートと給食手当・食事手当

 ネット上に、

「短時間パートだけ、今年から『手当カット』 これってあり?」

という記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_5/n_9912/

 記事は、短時間パート労働者とフルタイムの労働者との間の手当の有無について、

「もともと差があった場合は、どうなりますか。」

という問題を設定しています。

 これに対し、回答者となっている弁護士の方は、

「問題になる場合もあれば、問題にならない場合もあります。」

「2014年に改正された短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)8条では、フルタイムとパートの待遇に差をつける場合は、業務内容やその責任の程度(以下「職務の内容」といいます。)、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して『不合理と認められるものであってはならない』と規定されています」

「手当の性質・目的が何かを確認する必要があります。」

「例えば、『通勤手当』や『給食手当』であった場合、これらは、職務の内容や職務の内容及び配置変更の範囲とは無関係に、全ての労働者にその必要性が認められる性質の手当であるので、その相違は『不合理である』と評価されるものと考えられます。」

との見解を示しています。

 しかし、短時間パート労働者とフルタイム労働者との間で、給食手当・食事手当の有無において差を設けることを、不合理・違法と言い切ることには、少し慎重になった方が良いのではないかと思います。

2.同一労働同一賃金ガイドライン

 平成30年12月28日に「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」という厚生労働省の告示が出されています(厚生労働省告示第430号)。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf

 これは一般に、同一賃金同一労働ガイドライン と呼ばれているものです。

 記事でも言及されている今後施行予定の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の解釈の指針となるものです。

 ガイドラインは平成32年4月1日から適用されるものではありますが、待遇の格差が不合理と認められるか否かを判断するにあたり、現行法の解釈の参考にもなります。

 これによると、以下のような場合は、食事手当の有無で差異を設けても問題にはならないとされています。

「A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事手当を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者であるYには支給していない。

3.短時間労働者と有期労働者とは違う、給食手当・食事手当との関係は注意が必要

 正社員と有期労働者との間では、給食手当の有無で差を設けることを、不合理な労働条件格差として違法とした最高裁判例があります(最二小判平30.6.1労働判例1179-20ハマキョウレックス(差戻審)事件)。

 しかし、最高裁が格差を不合理であると認定したのは、給食手当を、

「勤務時間中に食事をとることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものである」

と位置付けたうえでの判断です。

 短時間労働者の場合、午前だけ、あるいは午後に部分的に働くといった形態で稼働している人も珍しくありません。

 そのため、短時間労働者の関係を念頭に置いた場合、給食手当・食事手当を「全ての労働者にその必要性が認められる性質の手当」と表現するのは、少し誤解を招く可能性があるのではないかと思われます。