弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

脱サラしてフランチャイズ契約を結ぶ方への情報提供義務

1.ビジネスセミナーでの起業の勧め

 サラリーマンを対象に起業を勧めるセミナーが行われることがあります。

 セミナーでは、フランチャイズ契約を結べば、簡単に高収入が得られるなどとして、独立・起業が勧められます。

 これを真に受けて会社を辞め、高額の加盟金等を払ってフランチャイズ契約を締結したものの、全然儲からないで後悔している、そのような相談が寄せられることがあります。

 こうした場合に、正確な情報を提供しなかったことを理由に、高額の加盟金の返還や、会社勤めを続けていれば得られたであろう収入の賠償を求めることはできないのでしょうか。

2.情報提供義務違反に基づく損害賠償等の請求事件

(1)事案の概要

 この問題を考えて行くにあたっては、東京地判平31.3.14LLI/DB判例秘書登載が参考になります。

 この事件で問題となったのは、放置自転車回収業でのフランチャイズ契約です。

 被告会社Y1の代表取締役Y3は、セミナーで、

「放置自転車を10億にした男 Y3のプロフィール(スライド番号2)」

「有料による自転車撤去は、ライバルが見当たらないオンリー1を確立大学の放置自転車撤去においても業界NO.1の地位を確立」

「誰もが稼ぐことが出来る仕組みを考え出した 撤去ノウハウと仕組みを使えば誰でも稼げる 仕入れ、在庫、売る苦労もない方法!」

「年収500万円→年収700万円→さらなる展開可能 毎月48万円手元に残る 年間576万円手元に残る その他年間で見込まれる年収169万円 576万円+169万円=745万円」

などと書かれた資料(本件資料)を示しました。

 原告になったのは、このセミナーに参加していた方です。原告は加盟金313万950円を支払って会社とパートナー契約を結びました。

 しかし、その後、本件事業のパートナーの大半が赤字であるとの情報に接するなどしたことから、加盟金の返金を求めました。

 また、勤務先を退職してしまったため、得られたはずの収入を喪失したとして損害賠償を請求しました。

(2)判決要旨

 裁判所は、次のように述べて、加盟金の返金と損害賠償請求(給料の10か月分)を認めました。

「本件パートナー契約は、本件事業への参加を希望する者が被告会社から本件事業のノウハウの提供を受けること等を内容とするものであるところ(前記前提事実(3))、このような契約ないし事業においては、被告会社は、本件事業に関し十分な知識と経験を有し、本件事業の現状や今後の見通しについて豊富な情報を有している一方で、本件事業に関する知識も経験もない参加希望者が被告会社と契約することで、知識や経験を補完することが想定されているのであって、そのような参加希望者が本件パートナー契約を締結するか否かを判断するに当たっては、被告会社から提供される情報に頼らざるを得ない。そして、本件事業の売上、収益に関する事項は、参加希望者が本件パートナー契約を締結して被告会社の事業に参加するか否かの意思決定をするに当たって極めて重要な意味を有するのであるから、被告会社が提供する上記事項に関する情報は、参加希望者が的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報でなければならない。したがって、本件において、被告会社及びその代表取締役である被告Y3は、原告に対し、本件事業の売上、収益に関する客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていたというべきである。

被告Y3及び被告Y2は本件セミナーにおいて本件資料を用いて専業の場合に年収700万円は実現可能である旨説明しているところ(前記認定事実(2)ア)、加盟者はこのような数値に依拠してパートナー契約を締結するか否かを判断するのであるから、このような数値が裏付けを欠く不合理なものであってはならないのであって、本件資料のシミュレーションが抽象論、一般論であるとの被告らの上記②の主張によっても、被告Y3及び被告Y2の上記情報提供義務違反を免れることはできない
「原告は・・・被告Y3及び被告Y2の前記2の情報提供義務違反がなければ本件パートナー契約を締結して被告会社に加盟金を支払うことはなく、B社を退職せずに同社から給与を受領することができたと認められる。」
「そうすると、加盟金313万9500円については被告Y3及び被告Y2の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認められる。
「他方、B社からの給与については、退職後である平成26年6月から原告が英会話の教授により生計を立てるようになる前の平成27年3月まで(前記認定事実(5))の10か月分が被告Y3及び被告Y2の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当であり、原告がB社から受領していた給与は、概ね月65万円であるから(前記前提事実(4))、これの10か月分である合計650万円が情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認められる。」

3.仕事を辞めることには慎重になった方がいい

 常識的に考えれば分かることだと思いますが、誰でもできる仕事は新規参入が簡単なので、すぐに市場が飽和状態になります。

 そのような仕事で高収入を得ることは極めて困難です。

 セミナー等に参加して、耳障りの良い言葉で独立・企業を勧められたとしても、勤務先を退職することには、慎重になった方が良いと思います。

4.仕事を辞め、多額の加盟金を払ってしまった場合でも、救済の可能性はある

 ただ、仕事を辞め、多額の加盟金を支払ってしまったとしても、被害の回復を図れることがあります。

 本件のように、きちんとした裏付けもなく、楽観的な収益の見込みが伝えられていた場合、情報提供義務違反を根拠に、加盟金や得られたはずの一定期間分の給料の損害賠償を請求できる可能性があります。

 不正確な情報を鵜呑みにしてフランチャイズ契約を結んでしまい、後悔している方は、損害賠償請求が可能かどうか、一度、弁護士に相談してみても良いかも知れません。