弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

飲み会の帰りの事故と会社の損害賠償責任

1.内定飲みの帰りの事故

 ネット上に、

「『内定飲み』の帰りに事故で大けが 会社の責任や労災は認められる?」

との記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_5/n_9888/

 記事は、

「『内定飲み』のあとで大ケガをしたら、会社に責任はあるのかーー。FNNが報じたところによると、女子大生(21)が、就職が内定した会社の会合でお酒を飲み、帰宅途中だった6月15日午後6時半ごろ、列車と接触して両足を折る全治3カ月の重傷を負ったという。」

「場所は、名古屋市内の地下鉄鶴舞線「いりなか駅」。女子大生はホームでふらつき、一番後ろの車両と接触したのちに、右足がホームと列車の間に入りこんで転んだという。」

という設例のもと、

「内定先であった酒席のあとに大ケガを負うと、会社に何らか責任は生じるのだろうか。また入社後だったら考え方は変わるのだろうか。」

という問題を設定しています。

 これに対し、回答をしている弁護士の方は、

「今回のケースで、会社に賠償責任は発生しないと考えます。」

との結論を導いています。

 しかし、もう少し事情を聴かなければ、会社に損害賠償責任が発生するのかを判断するのは難しいのではないかと思います。

2.飲み会の責任者に安全配慮義務が認められることはある

 飲み会の責任者に安全配慮義務が認められることはないわけではありません。

 大学生が漕艇部の新入生歓迎コンパで飲酒し、急性アルコール中毒で死亡した事件があります(福岡高判平18.11.14判例タイムズ1254-203)。

 この事件で、裁判所は、

被控訴人一色は、漕艇部の部長として、本件歓迎会についても最高かつ最終の責任を負うべき立場にあるものであり、被控訴人四谷は、同部のキャプテンとして、学生側の最高責任者としての責任を負うものである。
「そして、同被控訴人らにおいて、早飲み競争をさせるなどして新入生を酩酊させるというような意図があったとは認められないことは、既に見たとおりであるが、二次会において現に早飲み競争が行われるなど、いささか羽目を外した飲酒の仕方がまかり通っていたことも事実である。それ故に、被控訴人四谷及び同三井らのように、そのような二次会における飲酒の在り方に危惧を抱いていた上級生もいたし、被控訴人一色においても同様の危惧を抱いていたものである。そこで、被控訴人四谷は、本件歓迎会当日に行われた練習後ミーティングの際に、新入生に対して注意を喚起し、同様に、被控訴人一色は一次会の終了時にわざわざ二次会における飲酒の在り方について注意を与えたのである(上記(1)ウ)。しかしながら、被控訴人四谷の注意は専ら新入生に向けられたものであるし、被控訴人一色のそれも主としては新入生に対するものであって、その意味において、これらの注意は不徹底なものであったといわなければならない。真に上記のような危惧を払拭したいということであれば、むしろ新入生に酒を勧める側の上級生らにこそ注意を促すべきであるし、より根本的には早飲み競争とそれに伴う一気飲みそのものを禁止すべきだったのである。然るに、被控訴人四谷及び同一色の折角の注意も上記のような不徹底なものにとどまったため、二次会においては、従前どおり、早飲み競争が当然の如くに行われ、それについて制止や格別の注意が与えられることもなかったのである。もちろん、新入生らは、このような場を通じて、自己の酒量の限界を身をもって知り、節度ある飲酒の仕方などを身に付けて行くという側面もあることが考えられるから、羽目を外した飲み方をすべからく否定したり、禁止すべきであるとも言い難いのであるが、そのような乱暴な態様の飲酒を伴う場を提供した者としては、それによってもたらされる新入生らに生じることのあるべき危険性に十二分に思いを巡らせ、およそ飲酒による事件事故が発生することのないよう万全の注意をもって臨まなければならないものというべきである。上記のとおり、本件歓迎会に最終的かつ最高の責任を負うべき被控訴人一色及び同四谷には上記のような意味における注意義務があるものといわなければならない。」

被控訴人一色、同四谷、同二宮、同三井、同五木、同七瀬、同八代、同六田については、一郎の死という結果に対し安全配慮義務違反があったものとして、責任を負うべきこととなる。

と判示しました。

3.ポイントになるのは、「内定飲み」の実体、事業関連性、女子大生の酩酊度、酩酊の経緯、酩酊と事故の因果関係

 従来の裁判例との関係で、飲み会の主宰者に安全配慮義務違反が認められることは、有り得ないと即断して良いことではありません。

 敢えて飲ませて酔わせようという意図を持っていなかったとしても、羽目を外しすぎた飲み会が行われていたような事案では、飲酒による事件事故が発生しないように注意すべき義務があったと認定される可能性があります。

 本件で的確な判断をするためには、飲み会の実体や、女子大生の事故当時の酩酊度、酩酊に至るまでの経緯、酩酊とふらつきとの関連性などを丹念に聴き取り、調査して行く必要があるのではないかと思います。

 例えば、真昼間から午後6時ころまで一気飲みが横行しているような飲み会に参加させられ、先輩社員から勧められて足元が覚束なくなるまで酩酊し、ふらふらになったところ、付き添いも付けられずに一人帰宅させられ、その途中で事故に遭ったといったようなケースでは、飲み会の主宰者に安全配慮義務違反が認定されても、それほどの違和感はありません。

 また、飲み会だからといって、直ちに会社とは無関係だということにはなりません。

 例えば、業務途中の歓送迎会参加・帰社時の交通事故死の業務起因性が問題になった事案において、最二小判平28.7.8労働判例1145-6国・行橋労基署長(テイクロ九州)は、

「本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。

と判示しています。

 飲み会の性質・内容によっては、会社の事業活動に密接に関連するものと評価されることも有り得ます。

 そして、飲み会が事業活動に密接に関連している場合、会社に対して飲み会の主宰者としての安全配慮義務違反や、飲み会に参加していた社員の使用者としての責任(民法715条)を追及する余地は、それなりにあるのではないかと思います。

4.同じ事案でも法律家によって異なる見方がされることはある

 私自身の経験上、セカンド・オピニオンを求められて事案を検討していると、相談者が最初に相談・依頼した弁護士と異なる見解を持つことは、珍しくありません。

 同じ事案でも法律家によって異なる見方がされることはあります。一度消極的な回答を受けたとしても、別の専門家のもとに相談に行くと、また違った答えが返ってくるかも知れません。

 納得いかない、諦められないという場合には、セカンドオピニオン、サードオピニオンくらいまでは求めてみても良いだろうと思います(流石に3人の実務家が検討してダメだという結論になる事案は、本当にダメである可能性が高く、それ以上弁護士を渡り歩いても費用が無駄になることが懸念されます)。