弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

細切れでの短期雇用契約と年次有給休暇

1.年次有給休暇の継続勤務要件

 年次有給休暇について、法律は、

「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」

と規定しています(労働基準法39条1項)

 法文の規定から分かるとおり、年次有給休暇を取得するためには、6か月間継続して勤務していることが必要になります(継続勤務要件)。

 それでは、5か月雇われた後、1か月ほど空白期間を置かれ、また4か月雇われ、2か月ほど空白期間を置かれる、このような形で、細切れでの短期雇用契約を繰り返してきた方には、年次有給休暇は取得できないのでしょうか?

 この点が問題になった事案が、公刊物に掲載されていました。

 東京地判平30.11.2労働判例1201-55 学校法人文際学園(外国人非常勤講師ら)事件です。

2.学校法人文際学園事件(外国人非常勤講師ら)事件

 この事件で原告になったのは、外国語専門学校の複数の講師の方です。

 いずれの講師も、4月中旬から9月中旬までの前期学期、10月初旬から翌年2月中旬までの後期学期ごとに、有期雇用契約を締結してきた方です。

 何年にも渡って勤務を継続した後、年次有給休暇の取得を申請したところ、年次有給休暇の取得要件(継続雇用要件)が満たされていないとして、学校側から有給休暇の取得を拒否されてしまいました。

 有給を取得したかった日に欠勤したところ、その日の分の給与が支払われませんでした。講師の方は、払われなかった分の給与の支払いを求め、訴えを提起しました。

 裁判所は、

「被告は、講師契約存続中に、次学期の講師契約を締結するか否かを判断した上、被告として次学期の講師契約を締結すると判断した者に対してアベイラビリティ・シートを交付しており、アベイラビリティ・シートの交付を受けた者のうち被告の都合で次年度の講師契約が締結されなかった者がいないことを考慮すれば、講師契約存続中に、事実上、次学期の講師契約の締結に向けた素地が整備されているものと評価でき、現に原告X1及び原告X2は、最初の講師契約以降、途切れることなく毎学期講師契約を締結してきている。また、原告X1及び原告X2は、講師契約締結以降、主としてECSという英語の講義を担当しており、同種の業務を継続的に担当しているものと評価できる。」
被告が指摘するとおり、前期と後期との間には約半月、後期と次年度の前期との間には約2か月の期間があるものの、これは日本外国語専門学校が専門学校であることから、各学期間に講義が行われない期間が存在し、講師契約の性質上、この間も契約関係を存続させておく実益が極めて乏しいことによるものであり、上記のアベイラビリティ・シートの運用を併せ考慮すると、少なくとも本件においてこれらの期間が存在することを重視することは相当でない。

と判示し、講師が年次有給休暇を取得していたことを認め、学校側に欠勤として控除した分の給与を支払うよう命じました。

 なお、判決文に出てくる、アベイラビリティ・シートとは、

「非常勤講師が次学期に授業可能な時間を記入する表が印字されており、注意事項として、要望に沿えない場合があること、記入内容を担当授業として保証するものではないこと等が記載されている」

シートのことを言います。

3.細切れでの短期雇用契約が重ねられていて有給がとれない方へ

 年次有給休暇が認められていれば控除されなかった賃金は、一般論として、それほど多額になるわけではありません。

 しかし、労働契約関係は長期間に渡って存続することが珍しくありませんし、一人が取得した判決でも職場全体に影響力を持つことがあります。

 そう考えると、請求額が少ないからといって、声を挙げることが直ちに割に合わないという評価に繋がるわけではありません。

 自分自身のこれからのことや、従業員全体のことを考え、不合理な労働条件を是正しておきたい、そうした考えのもと、年次有給休暇の取得について、声を挙げて行きたいとお考えの方がおられましたら、ご相談をお寄せ頂ければと思います。