弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

体罰(傷害罪)で有罪になった教員の定年後再任用

1.体罰で有罪になった教員の定年後再任用

 ネット上に、

「体罰で傷害罪→定年→再任用→また体罰 そんな先生を教壇に立たせる、県教委の言い分は?」

という記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190711-00000012-jct-soci

 記事には、

「大分県内の中学校で体罰事件を起こした60代の男性教師が、定年後に再任用されたのちにも体罰を繰り返して、県教委に疑問の声が相次いでいる。」

「教師は、傷害罪で大分簡裁から罰金20万円の略式命令を受けた。県教委も、1か月間、減給10分の1とする懲戒処分にしている。その後、19年3月に定年退職したが、希望して県教委に再任用されていた。」

「なぜ再任用したのか、今回の処分はどうなるのか、県教委に話を聞いた。」

「大分県教委の教育人事課は11日、この教師を再任用した理由について取材にこう説明した。」

「懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりしたら、再任用できないということにはなっていません。希望があれば、勤務実績や健康状態などを見て、再任用するかを決めています。ただ、今回のことがありましたので、今後どうするかは考えないといけないと思っています」

などと書かれています。

2.定年後再任用の場面で行政に認められている裁量は広い

 確かに、懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりしたからといって、自動的に再任用できないということはないと思います。

 しかし、懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりした教員であっても、自治体は再任用しなければならないというわけではありません。

 再任用の拒否の適法性を考えるにあたっては、最一小判平30.7.19労働判例1191-16が参考になります。

 これは、在職中に卒業式又は入学式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の職務命令に従わなかった教職員に対し、東京都教育委員会が定年後再任用を行わなかったことの適否が問題になった事件です。

 この事件の教職員らは、職務命令違反を理由として、戒告や減給の懲戒処分を受けていました。

 最高裁は、次のように述べて、東京都教育委員会による再任用拒否は適法だと判断しました。

「再任用制度等は、定年等により一旦退職した職員を任期を定めて新たに採用するものであって、いずれの制度についても、任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定めはなく、また、任命権者は成績に応じた平等な取扱いをすることが求められると解されるものの(地方公務員法13条、15条参照)、採用候補者選考の合否を判断するに当たり、従前の勤務成績をどのように評価するかについて規定する法令等の定めもない。これらによれば、採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられているものということができる。
「そして、少なくとも本件不合格等の当時、再任用職員等として採用されることを希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできない。このことに加え、再任用制度等は、定年退職者等の雇用の確保や生活の安定をその目的として含むものではあるが、定年退職者等の知識、経験等を活用することにより教育行政等の効率的な運営を図る目的をも有するものと解されることにも照らせば、再任用制度等において任命権者が有する上記の裁量権の範囲が、再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない。

「任命権者である都教委が、再任用職員等の採用候補者選考に当たり、従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことを被上告人らに不利益に考慮し、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが、その当時の再任用制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない。
「以上によれば、本件不合格等は、いずれも、都教委の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。」

3.再任用の拒否は可能であったのではないか

 最高裁は再任用の可否の判断について、行政にかなり広範な裁量を認めています。

 特定の職務命令違反を、他の個別事情のいかんにかかわらず、特に重視すべき事情として位置づけることを可能としているうえ、不合格等の判断は「著しく合理性を欠く」ような場合でなければ違法にならないかのような書きぶりをしています。

 東京都と大分県とでは定年後再雇用の制度設計自体が相違している可能性もありますが、大分県も体罰で刑事処分や懲戒処分を受けたことを特に重視すべき事情として位置づけたうえ、再任用拒否の判断をすることは、可能だったのではないかと推測されます。

 最高裁は職務命令違反による

「学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用」

を問題にしましたが、体罰による生徒への身体的・精神的な被害が、式典の秩序や雰囲気に劣後するということはなさそうに思います。

 不適切なことをした教職員を機械的に再任用の枠組みから排除することが適切と考えているわけではありませんが、生徒への体罰や暴力は軽視されて良い事情ではないはずです。勤務実績をどのように評価して再任用を可としたのかに関しては、大分県教育委員会から、もう少し詳しい説明があってもいいのではないかと思われます。