1.社会生活や家庭の事情への配慮が不足していた配転命令等
社会生活や家庭の事情への配慮が不足していた配転命令等の適法性が争われた事案が判例集に掲載されていました(東京高判平31.3.14労働経済判例速報2379-3)。
この事案では、結論として、配転命令や配転内示の違法性が否定されています。
しかし、その判断過程では、興味深い事項が判示されています。
具体的に言うと、労働者に配置転換案を示すにあたり、社会生活や家庭の事情等に配慮すべきであることが示唆されている点です。
2.社会生活や家庭の事情等に配慮する必要性
裁判所は、
「労働契約法は、労働契約の締結又は変更に当たり仕事と生活の調和にも配慮することを要求しており(労働契約法3条3項)、転居を伴う配置転換は労働者の社会生活に少なからず影響を及ぼすところ、・・・一審被告が平成27年4月に計画した人事異動は専ら営業成績の向上を意図したものであり、一審原告乙1らに配偶者や子がないことを考慮したことのほかには、同一審原告らの社会生活、特に家庭の事情等に配慮した形跡はなく、自己申告書に介護を要する祖母がいる旨記載した一審原告乙2についてすら、異動の可否について社会保険労務士に相談したというのみで・・・、本件配転内示に先立ち所属長(神奈川支局長)のNと協議するなどして介護の必要等に関する最新の情報を入手しようとしたことを認めるに足りる証拠もないなど、転居を伴う遠隔地への配置転換が一審原告乙1らの社会生活に与える影響や仕事と生活の調和に配慮した様子はうかがわれず、同一審原告らが事実上配置転換を拒絶した後に改めて打診された配置転換案では、一審原告乙1は神奈川支局、同乙2は埼玉支局、同乙3は栃木支局、同乙4は旭川支所が各異動先とされていること・・・をも踏まえると、一審原告乙1らにおいて、一審被告が異動先としてあえて遠隔地を選択したとの疑念を抱くことには相応の理由があるといわざるを得ない。」
「また、一審被告が、専ら自己の事情によって平成26年末に異動に関する自己申告書を提出させないまま、本件配転内示を行ったことについて、広域異動を伴う本件配転命令によって一審原告乙1らに負わせる負担についてやや配慮に欠ける面があることは否定できない。」
と判示しました。
3.配置転換に関する広範な使用者の裁量が制約される可能性
結論として、配転内示・配転命令の違法性は否定したものの、東京高裁が、労働契約法3条3項を根拠として、配置転換にあたり、社会生活や家庭の事情に配慮すべきことを明示した点には、大きな意義があると思います。また、最新の情報の入手に努めるよう示唆している点も注目に値します。
近時、配置転換、特に転居を伴う配置転換に対し、使用者が広範な裁量を持つことには、疑問の声が出されるようになっています。
労働者敗訴の事案ではあるものの、配置転換に関する裁判所の判断の厳格化を示唆する一例として、参考になるのではないかと思われます。