1.夫が愛人に入れ込んだら・・・
ネット上に、
「高齢の義父が『離婚して、恋人と一緒になる』家族は騒然 財産を守る方法は?」
という記事が掲載されていました。
https://www.bengo4.com/c_4/n_9854/
記事は、
「単身赴任していた高齢の義父が、突然、妻に離婚届を突きつけたーー。こんな相談が・・・寄せられました。」
「数カ月前から連絡が取れない状況が続いていた義父でしたが、ある日、義母の元に離婚届が届きました。探偵に調査依頼したところ、どうやら不倫をしているようです。さらに、義父は不倫相手に『全ての財産も相続させる』と、遺言を作成したといいます。
女性は『単身赴任の夫を長く支えてきた義母に、ここにきて突然このような仕打ちがあるとは予想もせず、義母が可哀想でなりません』と嘆いています。」
との設例をもとに、
「義母のために何ができるのだろうか」
と問いかけをしています。
回答者となっている弁護士の方は、
「遺言は無効であるとの判断がなされる可能性が強い」
としたうえ、
「万が一、遺言が有効と判断されてしまう」
場合でも、
「相手の女性に対して、遺留分侵害額請求によって、『概ね』遺産の4分の1(『遺留分侵害額』を算出するに当たっては、生前贈与の有無や額等で変わってくる複雑な計算が必要で、必ず遺産全体の額の4分の1になるとは限らないので『概ね』という理解でいて下さい)に相当するお金は確保することはできます。」
との見解を示しています。
そして、
「是非とも注意していただきたいのは、決して義父から要求されている離婚には安易に応じてはならないということです。」
「離婚してしまったら、義父から財産分与と慰謝料は貰えますが、相続人ではなくなるので、義父が死去したときに遺産は全く取得できません(遺留分もありません)。」
「例えば、それこそ義父の全財産(あるいは大半の財産)を財産分与として渡して貰うことを条件として離婚に応じるという戦い方もありますが、義父は、全財産を不倫相手に遺贈するという遺言を書いているような人ですから、上記のような条件は受け容れないでしょう。」
「不倫をしたという有責配偶者である義父からの離婚請求はそんなに簡単に認められるものではない、義父の一方的な都合、身勝手な気持ちだけで、長年にわたって築き上げてきた夫婦関係を易々と終了させられるものではないことを義父には悟らせるべきです。」
と離婚に消極的な見解を示しています。
しかし、設例のような事案において、離婚は、それほど不合理な選択ではないと思います。安易に離婚を勧めるつもりはありませんが、財産を守ることを考えた場合、離婚は視野に入れるべき選択肢の一つになると思います。
2.夫は死亡するまでの間に財産を浪費し尽してしまうかも知れない
離婚をそれほど不合理でないと考えるのは、夫が死亡するまでの間に財産を浪費しつくしてしまう可能性があるからです。
例えば、現時点で夫が2000万円の預貯金を持っていたとします。
今離婚すれば、財産分与+慰謝料で1000万円プラスアルファの財産的給付を確保する目算が立ちます。
しかし、人が何時死亡するかは分かりません。
設例からは夫の年齢は不明ですが、仮に65歳であるとした場合、厚生労働省の平成29年簡易生命表によると、平均余命は19.57年あります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/index.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/dl/life17-06.pdf
近時、老後資産2000万円不足するかもしれないという金融庁の報告書が話題になりました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46021700S9A610C1I00000/
幾ら現在資産を持っていたとしても、夫は、死去するまでの間に、愛人と一緒に資産を使い尽してしまうかも知れません。
夫の死亡時に、遺言が無効になろうが、遺留分侵害額請求権を行使できようが、肝心の遺産がなければ、取得できる財産はありません。
「全財産を不倫相手に遺贈するという遺言を書いているような人」であれば、自分亡き後の妻に財産を残そうという発想にならないことは、ある程度予想がつきます。
そのように考えると、夫婦共通財産の折半プラス慰謝料で離婚することも、それほど不合理な選択でないこと言えるのではないかと思います。
3.相手に資力があるうちに財産を確保しておくのも一つの選択
配偶者の死亡時期はコントロール可能な問題ではありません。配偶者が持っている財産の浪費も、止めようと思って簡単に止められるものではありません。
元々、夫婦共通財産の半分は配偶者のものですし、設例のような事態に直面したら、自分の分の財産と相当額の慰謝料を確保し、早々に見切りをつけてしまうのも、財産確保のための合理性のある選択の一つなのではないかと思います。