弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

ブラック再雇用の違法性

1.ブラック再雇用

 ネット上に、

「『ジャマだジジイ!』ブラック再雇用の酷すぎる現状」

という記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190619-01580233-sspa-soci

 記事には、

「賃金が急降下する定年再雇用。『ご褒美再雇用は役員クラスの一握りのみ。中にはバイト並みに下げられることも……』と話すのは、社労士の平田純一氏だ。」

と書かれています。

 そして、

「定年を迎えた人が“望めば”必ず65歳までは継続雇用するという制度で、契約賃金は会社に委ねられています。最低賃金並みの時給制で、社会保険や厚生年金の加入が不要になる週20時間以内労働という契約も。国から支給される高年齢雇用継続給付を加えても、月10万円程度の人もいます」

との社会保険労務士の言葉を紹介しています。

 しかし、「契約賃金は会社に委ねられています。」との言葉が、賃金を会社が自由に決定できるとする意味合いで使われているとすれば、それは適切ではない理解だと思います。

2.到底受け入れ難いような労働条件を提示することには違法性がある

 定年後再雇用の場面で大幅な労働条件の切り下げを行うことの可否が問題になった事事案に、福岡高判平29.9.7労働判例1167-49九州惣菜事件があります。

 この事件では、定年前に33万5500円の月額賃金をもらっていた労働者に対し、時給900円・月収ベースで月額賃金8万6400円になるような給与水準を示すことの適否が争われました。

 裁判所は、

再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有する
「その判断基準を検討するに、継続雇用制度(高年法9条1項2号)は、高年齢者の65歳までの『安定した』雇用を確保するための措置の一つであり、『当該定年の引上げ』(同1号)及び『当該定年の定めの廃止』(同3号)と単純に並置されており、導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ、後二者は、65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり、当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち、当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており、仮に、当該定年の前後で、労働者の承諾なく労働条件を変更するためには、別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となる

「有期労働契約者の保護を目的とする労働契約法20条の趣旨に照らしても、再雇用を機に有期労働契約に転換した場合に、有期労働契約に転換したことも事実上影響して再雇用後の労働条件と定年退職前の労働条件との間に不合理な相違が生じることは許されないものと解される(同法3条所定の労働契約の諸原則もそのような解釈を補強するものである。)。」
例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要である
「本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。」
「月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。」

と判示し、会社に対し、原告への慰謝料100万円の支払いを命じました。

 この判決は、平成30年3月1日に上告棄却判決、上告不受理決定が出されたことにより確定しています(最一小平30(受)29号、同平30(オ)26号、同平30(受)28号)。

 福岡高裁の判示の趣旨からすれば、高年齢雇用継続給付を併せて月収が10万程度にしか満たない労働条件を提示することには、違法性が認められる可能性があります。

3.再雇用の条件が酷すぎる場合、慰謝料を請求することも視野に入れてはどうか

 記事には、

「そんな賃金契約でも、すがりつきたいのが定年世代の本音。」

と書かれています。

 しかし、適切な報酬が払われない作業にすがりつくことに、果たして本当に意味があるのかどうかは、よく考えてみてもいいように思われます。

 到底受け入れ難いような労働条件を提示された場合、会社に媚びたりせず、慰謝料を請求するのも、一つの選択ではないかと思います。