弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

追い出し部屋(退職勧奨を拒否したことに対する報復)

1.追い出し部屋

 ネット上に、

「東芝系社員、退職拒み単純作業 『追い出し部屋』と反発」

との記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190615-00000005-asahi-soci

 記事には、

「東芝が100%出資する主要子会社にこの春、新しい部署ができた。そこには希望退職に応じなかった社員らが集められ、社内外の多忙な工場や物流倉庫で単純作業を命じられている。東芝は『適切な再配置先が決まるまでの一時的措置』だと説明するが、社員からは『退職を促す追い出し部屋だ』との反発が出ている。」

新部署は、発電所向けの設備をつくる東芝エネルギーシステムズ(川崎市)が4月に設けた『業務センター』。東芝や関係者によると、所属する約20人は、それまで技術管理や営業、事務などの仕事をしていた。同システムズは火力や原子力など発電所の需要低迷を理由に、勤続10年以上で45歳以上を対象に3月末での希望退職を募集。上司に応募を促されながら拒んだ社員らが配属されたという。」
「複数の社員によると、4月中は研修として社外の人材コンサルタントらの講義を受け、経営環境の厳しさを理解し、配属を前向きに考えるよう求められた。自分を省みて変えるべき点を同僚に表明し、作文にもまとめたという。」

と書かれています。

2.退職勧奨を拒否したことに対する報復としての配置転換は無効

 記事に書かれているような追い出し部屋は、これまでも問題になったことがあります。

 配置転換の適法性に関しては、

「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」

との判断基準が用いられています(最二小判昭61.7.14労働判例477-6東亜ペイント事件)。

 退職勧奨を拒否したことに対する報復としての配置転換は、動機・目的の不当性の観点から問題にすることができます。

 大阪高判平25.4.25労働判例1076-19新和産業事件は、大阪営業部に勤務していた総合職の従業員に対する大阪倉庫への配転命令の効力が問題となった事案において、

「①一審原告は営業担当の総合職としての適性を欠いておらず、一審被告は、従前、一審原告の営業成績をことさら問題視していなかったにもかかわらず、平成22年11月30日、一審原告に対し、突然退職を勧奨したこと、②一審被告は、その後約2か月にわたり、一審原告に対し退職勧奨を繰り返したが、一審原告がこれを拒否したため、本件配転命令をしたことが認められる。そして、大阪倉庫には2名の従業員を配置することが必要なほどの業務量はなく、一審原告が大阪倉庫において行うべき業務はほとんど存在しないこと、本件配転命令は、一審原告の職種を総合職から運搬職に変更し、これに伴い、賃金水準を大幅に低下させるものであることをも考慮すると、一審被告は、一審原告が退職勧奨を拒否したことに対する報復として退職に追い込むため、又は合理性に乏しい大幅な賃金の減額を正当化するために本件配転命令をしたことが推認される。そうすると、本件配転命令は、業務上の必要性とは別個の不当な動機及び目的によるものということができる。

と退職勧奨を拒否したことに対する報復は、動機・目的において不当なものであるとの認識を示しています。

 記事の事案でも、賃金の低下が伴っているか、倉庫で行うべき業務が存在するのか、といった点は要検討だと思いますが、そうしたものがなかったとしても、それまで勤務成績を問題視していなかった社員に対し、退職勧奨を行い、これが断られるや倉庫要員に回す、といった配置転換が行われているとすれば、その適法性を問題にできる可能性は十分にあるのではないかと思います。

3.教育訓練に名を借りた嫌がらせは問題

 教育訓練の合法性に関しては、仙台高裁秋田支判平4.12.25労働判例690-13JR東日本(本荘保護線区)事件が、

「職場内教育訓練を含めて控訴人会社が社員に命じ得る教育訓練の時期及び内容、方法は、その性質上原則として控訴人会社(ないし内規等により実際にこれを実施することを委任された社員)の裁量的判断に委ねられているものというべきであるが、その裁量は無制約なものではなく、その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもない。かかる不合理ないし不当な教育訓練は、控訴人会社(ないしこれを実施する社員)の裁量の範囲を逸脱又は濫用し、社員の人格権を侵害するものとして、不法行為における違法の評価を受けるものというべきであるが、右裁量の逸脱、濫用の有無は、当該教育訓練に至った経緯、目的、その態様等諸般の事情を考慮して判断すべきものと解するのが相当である。」

との規範を示しています(上記判示は最二小判平8.2.23労働判例690-12で維持)。

 経営環境が厳しいのは個々の従業員の責任ではないでしょうし、退職勧奨を拒否したことによる報復的配置転換を前向きにとらえるように考えを変えろ、省みろと言われ、作文を書かされているのだとしたら、そのような研修の在り方は、不合理・不当な教育訓練として違法だと言える可能性が出てくるのではないかと思います。

4.追い出し部屋に入れられたら一人で悩まず相談を

 業務上の必要性は言おうと思えば何とでも言えますし、動機・目的といった主観面の立証は決して容易ではありません。賃金減額などの分かり易い労働条件の不利益変更がない場合、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が生じていることを論証することも簡単な作業ではありません。

 記事には書かれていませんが、東芝規模の企業が何のロジックも組み立てずに配置転換・研修を実施しているとは思われません。紛争になる可能性は折り込み済みで、何かあった時の反論は既に用意されているのだろうと思います。

 配置転換は労働者側にとって勝訴の難しい紛争類型の一つです。

 追い出し部屋に入れられてしまったら、一人では悩まずに、弁護士などの法専門家に相談することをお勧めします。