1.有期労働者と無期労働者との間の基本給の格差が違法とされた事例
公刊物に、有期労働者と無期労働者との間の基本給の格差を違法だとした判決が掲載されていました。
福岡高判平30.11.29労働判例1198-63 学校法人産業医科大学事件です。
労働契約法20条は、
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」
と規定しています。
要するに、有期労働者と無期労働者の労働条件の間に、職務の内容や配置の変更の範囲等の事情を踏まえ、不合理な格差があってはならないということです。
本件で、裁判所は、
「正規職員である対照職員と臨時職員である控訴人との間では、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)に違いがあるということができ、さらに、両者は、その可能性だけではなく、実際上も職務の内容及び配置の各変更の範囲において相違があるということができる。」
と職務内容と配置の変更の範囲に相違があることを認定しながら、なお基本給の格差を違法だと判示しました。
有期労働者と無期労働者とでは、職務の内容や配置の範囲は異なるのが普通です。職務の内容や配置の範囲が異なれば基本給が異なるのも当然のこととして是認されやすい傾向があります。
職務の内容や配置の範囲が異なるにもかかわらず、基本給の格差が違法だというのは、極めて異例なことです。
2.異例な判示がなされたのは、何が考慮されたからか?
異例な判示がなされたのは、本件の有期労働者(臨時職員)の方が、30年以上もの長きに渡り契約を更新しながら勤務を継続してきたことが考慮されたからです。
裁判所は、労働条件格差の不合理性を判断する考慮要素となる「その他の事情」として、これを考慮することを明らかにしています。
具体的には、
「1か月ないし1年の短期という条件で、しかも大学病院開院当時の人員不足を補う目的のために4年間に渡り臨時職員として採用された有期労働契約者が、30年以上もの長期にわたり雇い止めもなく雇用されるという、その採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう『その他の事情』として考慮されることになる事情に当たるというべきである」
と判示しています。
そのうえで、基本給の相違の不合理性に関し、
「臨時職員と対照職員との比較対象期間及びその直近の職務の内容並びに職務の内容及び配置の各変更の範囲に違いがあり、控訴人が大学病院内での同一の科での継続勤務を希望したといった事情を踏まえても、30年以上の長期にわたり雇用を続け、業務に対する習熟度を上げた控訴人に対し、臨時職員であるとして人事院勧告に従った賃金の引き上げのみであって、控訴人と学歴が同じ短大卒の正規職員が管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず、現在では、同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができるもめであり、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」
と判示しました。
3.勤務期間が長期化すると労働条件格差の不合理性を認定しやすい?
以前、5年以上勤務期間が継続して無期転換権を得た有期労働者は、無期労働者との間での労働条件の不合理性を主張しやすいのではないかとする記事を書きました。
https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/05/29/155451
学校法人産業医科大学事件も、契約期間の長期化と労働条件格差の不合理性との関連性を承認する系譜に属するものといえます。
有期雇用契約が反復更新され、勤務期間が長期化してる人は、思い切って法的措置をとってみることも一考に値すると思います。