弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

妊活パワハラⅡ

1.妊活パワハラ

 昨日、

「許せない『妊活パワハラ』 上司に話すも、忙しい業務を担当させられる」

とのネット記事が掲載されていたというお話をしました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/05/08/122650

http://news.livedoor.com/article/detail/16420863/

 この記事で回答者となっている弁護士の方は、

「忙しい業務を命じる場合の他に、妊活について過度に立ち入った発言をしたり、配慮のない暴言『いつできるの』『早くしてよ』などもパワーハラスメント行為といえます。」

との回答をしています。

2.パワハラというよりセクハラの問題ではないか?

 厚生労働省は平成24年3月15日付けで「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」という資料を公表しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025370.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025370-att/2r9852000002538h.pdf

 回答している弁護士の方は、「いつできるの」「早くしてよ」などの発言が「提言」でまとめられているパワハラの類型のうち「個の侵害」(私的なことに過度に立ち入ること)に該当することを意識しているのではないかと思います。

 これも間違ってはいないと思います。

 しかし、不妊治療をしている女性に「いつできるの」「早くしてよ」などと言うことは、

パワハラというよりも寧ろセクハラに近い、

又は、

パワハラであると同時にセクハラにも該当する、

といった評価になるのではないかと思います。

3.セクハラの定義

 厚生労働省は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成 18 年 厚生労働省告示第 615 号 最終改正:平成 28年8月2日 厚生労働省告示第 314号)という文書で、

「職場におけるセクシュアルハラスメントには、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの(以下「対価型セクシュアルハラスメント」という。)と、当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるもの(以下「環境型セクシュアルハラスメント」という。)がある。」

としています。

 このうち、環境型セクシュアルハラスメントは、

「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」

と定義されています。

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00004330&dataType=0&pageNo=1

4.「いつできるの」「早くしてよ」の環境型セクシュアルハラスメントへの該当性

 職場の上司が「いつできるの」「早くしてよ」などということは、私の感覚では「性的な言動」に該当します。

 簡単にネットで検索してみたところ、越前市がホームページで

「『結婚はまだか 子どもはまだか』など、意図的に恋愛経験、結婚、出産のことを頻繁に尋ねる。」

ことを環境型セクハラの典型例として例示していました。

http://www.city.echizen.lg.jp/office/010/130030/danjokyodosankakushitsu/sekuhara-dv.html

 これとの比較においても「(子どもが)いつできるの」「早くしてよ」などの言動が性的な言動にあたるというのは、あながち独自の感覚というわけではないだろうと思います。

 記事で相談者が受けている体外受精には多額のお金がかかります。

 内閣府のホームページに掲載されている資料によると、中央値で1回あたり30万円だとのことです。

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/promote/se_6/sanko.html

 また、厚生労働省の研修資料によると、体外受精の通院日数の目安は、数時間のものが4~10日で、半日~1日のものが2日程度となっています。しかも、日程調整の可否に関しては「決められた日の通院が望ましい」とされています。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/30.html

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30j.pdf

 必ず妊娠するとも限らない中、多額のお金をかけて、一生懸命仕事上のスケジュールをやりくりして通院をしている人の立場からすれば、「いつできるの」「早くしてよ」などといった言葉を浴びせられるのは不快でしょうし、ストレスで能力の発揮にも重大な悪影響が生じてくるのではないかと思います。

5.なぜ、セクハラと言った方が適切なのか?

 私がセクハラの問題だと言った方が適切なのではないかと思うのは、セクハラの方が法的保護が手厚いからです。

 男女雇用機会均等法11条は、セクハラに関し、

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

と規定しています。

 法務の機能している会社であれば、セクハラに対しては相談窓口や、適切に対応するために必要な体制が整備されていますし、一定の経験も蓄積されています。

 他方、パワハラに関しては、近時、衆議院で防止に係る法案が可決されたとの報道はありましたが、現行法令に男女雇用機会均等法11条に対応する規定があるわけではありません。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44127710U9A420C1PP8000/

 セクハラからの法的保護の方が手厚いため、パワハラであると同時にセクハラにもなりそうな時は、セクハラにも該当するとの指摘が必要ではないかと思います。

 記事の問題に関しても、聞かれたのはパワハラなのかということだと思いますが、寧ろセクハラの問題ではないかという指摘もあって良いような気がします。