弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

裁判官の懲戒と国家公務員一般職の懲戒

1.ツイッターでのツイートを理由とする裁判官への懲戒処分

 報道等で既に有名になっている事件ではありますが、裁判官がツイッターでのツイートを理由に懲戒処分を受けた事案があります。

https://www.asahi.com/articles/ASLBK5WTVLBKUTIL04W.html

 当該裁判官は、特定の民事裁判について、

 「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、

 もとの買主が名乗り出てきて、『返して下さい』

 え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・

 裁判の結果は・・」

というツイートをしたことを理由に戒告処分を受けました。

 その決定文が判例タイムズという雑誌の3月号に掲載されています(最大決平30.10.17判例タイムズ1456-39)。

2.純然たる私的行為であっても、懲戒の対象になる

 裁判所法49条は、

「裁判官は、職務上の義務に違反し、若しくは職務を怠り、又は品位を辱める行状があつたときは、別に法律で定めるところにより裁判によつて懲戒される。」

と規定しています。

 この「品位を辱める行状」の理解について、裁判所は、

「職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう」

との判断を示しました。

3.国家公務員一般職の懲戒処分の運用(公務外非行)

(1)法律の解釈

 内閣総理大臣や国務大臣などの特殊な職以外の国家公務員は、「一般職」として括られています(国家公務員法2条1~3項参照)。

 国家公務員法は、一般職の国家公務員が懲戒処分を受ける場面として、

一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

の三つを挙げています(国家公務員法82条1項)。

 「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」

の理解については、

「必ずしも違法な行為に限定されるものではない。また、収賄等が本号に該当することはいうまでもないが、純粋に私行上の行為であっても、例えば、傷害行為等が全体の奉仕者としてふさわしくない非行として本号に該当することがある。」

とされています(森園幸男ほか編『逐条国家公務員法』〔学陽書房,全訂版,平27〕725-726頁参照)。

(2)実際の運用

 ただ、人事院が定める「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職―68)で懲戒処分の対象として定められている私行は、いずれも基本的には何等かの法律に違反するものになっています。

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

 具体的に言うと、懲戒処分の対象となる「公務外非行」は、放火、殺人、傷害、暴行・けんか、器物損壊、横領、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、賭博、麻薬等の所持等、酩酊による粗野な言動等、淫行、痴漢行為、盗撮行為と列挙されています。

 「公務外非行」という括り以外にも、「飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係」という懲戒対象行為がありますが、ここで対象とされているのも、飲酒運転や過失運転致傷など何等かの形で法に違反する行為です。

 国家公務員の一般職に関しては、基本的には法に触れない私行が懲戒対象になることはないという発想がとられているのではないかと思われます。

4.裁判官の懲戒対象行為は広い

 これに対し、問題の裁判官の行為は、それが品位を辱めるかはともかくとして、法律に違反しているわけではないかと思います。

 本件は、裁判官の懲戒対象行為が、一般職の国家公務員に比して、より広いということを実証する事案として位置づけられるのではないかと思われます。