弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

60歳定年後も働く人たちの労働条件

1.60歳定年後も働く人たちの現状

 ネット上に「年収は半減?60歳定年後も働く人たちの現状」という記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16395702/

 記事には下記のデータが記載されています。

(以下引用)

 継続雇用後の仕事の内容の変化:定年前と変化はない、が約8割 ・全く変化はない……45.9%(59.7%)
・あまり変化はない……21.2%(29.9%)
・半分以上の変化があった……11.7%(3.9%)
・全く別の仕事内容になった……11.3%(6.5%)
*( )内は女性。以後も同じ。

・・・中略・・・

 給与水準(定年時の給与を100%とする):50~75%が5割弱定年時の50~75%に減少は48.1%、25~50%未満に減少は29.4%。反面、定年前よりアップした人が6.1%います。

・100%以上……6.1%(14.3%)
・75~100%未満……12.6%(24.7%)
・50~75%未満……48.1%(36.4%)
・25~50%未満……29.4%(16.9%)
・25%未満……3.9%(7.8%)

(引用ここまで)

 約8割の方が仕事の内容にあまり変化がないと回答する一方、賃金が50%未満に下がった方が、33.3%(29.4%+3.9%)もいるようです。

2.極端な賃金の切り下げに対しては、損害賠償請求できる場合がある

 定年後再雇用の場面で、極端に賃金を切り下げることに対しては、損害賠償請求することが可能な場合があります。

 問題する方法に関しては、主には2つのアプローチがあります。

(1)労働契約法20条からのアプローチ

 労働契約法20条は、

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

と規定しています。

 定年後再雇用によって会社と有期労働契約を結んだ方にも、労働契約法20条が適用される可能性はあります。

 定年の前後で、職務の内容や配置の変更の範囲に違いがある場合、かなりの幅の労働条件の切り下げが許容された例はあります(例えば、東京地裁立川支部平30.1.29労判1176-5学究社(定年後再雇用)事件は「定年退職前の正社員の賃金の30パーセントから40パーセント前後が目安」となる定年退職後の再雇用契約を労働契約法20条に違反しないと判示しています。)。

 しかし、事業所が一つで配置転換が有り得ず、職務の内容が全く変わらない場合に、定年後再雇用の有期労働契約であることを理由に、どこまでの賃金の減額が許容されているのかは、それほど良く分かっていません。

 定年前後の労働条件格差が問題となった事案に最二小判平30.6.1労働判例1179-34があります。

 この事案では定年前後で職務の内容や配置の変更の範囲に変更はありませんでした。長澤運輸事件では、嘱託乗務員(定年後再雇用者)の賃金は、定年退職前の79%程度となることが想定されていた事案でした。

 長澤運輸事件では、能率給や職務給、種々の手当の合法性が議論されましたが、基本賃金(基本給)の差異は判断の対象に含まれていません。定年後の原告らの基本賃金はむしろ上がっていたからです(11万2700円~12万1500円から12万5000円に上昇)。

 職務内容及び配置の変更の範囲に全く変更がない場合に、定年後再雇用の局面で、基本賃金をどこまで減らすことが許容されるのかは、未解明な部分が多く、積み残しの課題といっても良いのではないかと思います。

 その意味で、単一の事業所で、定年後再雇用で有期労働契約を締結し、同じような仕事をしているにもかかわらず、極端に基本給を引き下げられている方がおられましたら、法的措置をとってみても良いのではないかと思います。

(2)一般不法行為理論からのアプローチ

 労働契約法20条違反が認められないようなケースであったとしても、あまりにも無茶な労働条件の引き下げが行われるケースでは、不法行為を構成する場合があります。

 例えば、福岡高裁平29.9.7労働経済判例速報2347-3九州惣菜事件では、定年前に33万5500円の月額賃金をもらっていた労働者に対し、時給900円・月収ベースで月額賃金8万6400円になるような給与水準を示すことの適否が問題になりました。

 この事案で裁判所は、

「再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有する」

「月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。」

などと判示し、不法行為の成立を認め、被告会社に慰謝料100万円の支払いを命じています。

 ネット記事のデータによると、給与水準が25%未満に下がった方は3.9%いるとのことです。こうした方々に関しては、労働契約法20条違反が認められなかったとしても、別途、不法行為に基づく慰謝料請求によって救済される可能性があります。

3.おかしいと思ったら弁護士に相談を

 単一の事業所で仕事の内容が全く同じなのに賃金を切り下げられた、そうでなくても、生活できないような水準の労働条件を提示された、こうしたお悩みをお抱えの方がおられましたら、声を上げることができないかを、一度弁護士に相談してみても良いだろうと思います。