1.特定の取引先に依存しているフリーランスの方は多い
平成30年3月30日に公表された「雇用類似の働き方に関する検討会」報告書に、
JILPIT『独立自営業者の就業実態と意識に関する調査(ウェブ調査)」(速報)概要
という資料が添付されています。
これによると、1年間の仕事の取引先数について、専業の独立自営業者の40.3%の方が「1社」と回答しています。
特定の取引先に依存した事業活動を行っている方が相当数いることが窺われます。
2.約束通りに仕事を発注してくれないことは死活問題
このような方にとっては、契約当初の見込み通りに取引先が継続的に仕事を発注してくれるのかが死活問題になると思われます。
3.初期投資費用を回収し、採算を維持することができるよう配慮すべき注意義務
近時、約束通りに仕事を発注してくれなかったという事案において、画期的な裁判例が公刊物に公表されました。
東京高判平29.11.30判例時報2397-14です。
これは、子ども服の生産委託を受けていた会社が、発注義務違反や、不測の損害を与えることのないように配慮すべき契約上の付随義務違反などを主張して、契約締結過程で目安とされていた発注量に満たない発注しかしなかった委託元に対し、損害賠償を請求した事件です。
裁判所は、発注義務を負っていたことは否定したものの、被告からの要請で工場を再稼働が決まり設備投資や従業員の雇用が行われたことや、契約締結過程において事業規模や採算ラインについてかなり具体的な話が行われていたことなどを指摘したうえ、
「被控訴人(被告 括弧内筆者)は、年間六万枚、一億五〇〇〇万円の水準の生産委託規模を目安として、これが合理的な理由なく著しく下回らないように発注し、少なくとも当初の契約期間である三年間においては、控訴人がM工場の再稼働に伴う初期投資費用を回収し、採算を維持することができるよう配慮すべき契約上の付随義務を負う。」
と判示しました。
そして、被告が
「初期投資費用及び営業損失の積極的損害を賠償すべき義務」
を負うとの判断を示しました。
本件では契約書上に、
「被告は、原告が負担する工場設備に対する先行投資費用や従業員の雇用に伴う責務等に考慮し、信義誠実に従い、継続契約に配慮する」
との条項が記載されていました。
そうした下地のもとであったとしても、事業者間の取引において、一方が他方に初期投資及び営業損失を埋め合わせる義務を負うと判示した点は、かなり踏み込んだ判断をしたなと思います。
4.フリーランスの労働問題を考える上で活用できる可能性
仕事の発注が約束されたうえで独立自営業者になるというパターンは、相当数あるのではないかと思います。
例えば、勤務先の独立支援制度を利用し、現勤務先からの仕事の発注を期待して独立するというパターンがあると思います。また、現勤務先の取引先から「仕事を発注するから」と声がかかって独立するというパターンもあると思います。
こうした言葉を受けて設備投資して独立したものの、契約締結過程で話をしていたとおりに仕事を発注してくれない、上記の判決は、そのようなお悩みを抱えている方にとっての救済法理となる可能性があると思われます。