1.ホテルの備品の持ち帰りの可否に関するネット記事
「弁護士に聞いた!ホテルの備品で持ち帰りOKなもの、持ち帰ると罪になるもの」という記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16375592/
記事は、
「小分けされているシャンプーや歯ブラシ、カミソリ、スリッパなどは使い捨てであり、消耗品なので持ち帰りOKですが、その他の備品は、基本的にNGと考えてよいでしょう。ですが、消耗品とはいえ、ボトル入りのシャンプーを別の容器に移し替えたり、ティッシュの箱の中身を持ち帰ることはNGです。ホテルや旅館の名入りタオルなど、1回のみの使用を想定しているような物はOKでしょうが、クリーニングして再利用をしているような厚手のものはNGでしょう」
などと持ち帰りの可否に関する弁護士の見解を紹介しています。
2.弁護士に聞くよりもホテル(所有者)に聞いた方がいい
しかし、持って帰っていい備品とそうでない備品は、ホテルや旅館の経営方針によって異なる可能性があります。一般論を議論しても、あまり意味がないですし、「常識」や「合理的意思解釈」を汲み取れといわれても、基準が曖昧で実践的な助言にはならなそうな気がします。
私が同じ質問をされたとすれば、
「ホテル(所有者)に確認して、持って帰っていいと言われたものが、持ち帰りOKなものです。」
と回答すると思います。
3.弁護士の法解釈を信頼したところで犯罪の成立は妨げられない
なぜ、このようなことを記事に書くかというと、弁護士の法解釈を信頼したと言ったところで、犯罪の成立は妨げられないからです。具体的な事実関係を前提とした個別的なアドバイスであればともかく、一般論として述べられたにすぎない見解に依拠して行動することは危険だからです。
刑法38条1項本文は、
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」
と定めています。
しかし、
「弁護士が問題ないと言った。だから持って行ったのであり、窃盗罪を犯す意思はなかった。」
という弁解が通るかといえば、通りません。
この点に関しては、随分古くから判例が出ています。
大審院昭9.9.28大審院刑事判例集13-16-1230は、邸宅侵入の事案について、
「人の看取する邸宅なることを認識しながら看取人の意思に反し侵入するに於いては仮令(たとえ)弁護士の意見に依り其の行為が罪とならざることを信じたりとするも刑法第130条の犯罪を構成す」
との判断を示しています(「判決要旨」部分を引用。ただし、括弧内は筆者。また、カタカナ部分や旧字体の部分は平仮名・新字体に改めました)。
要するに、弁護士が「罪にならない」と言い、その意見に従ったところで犯罪は成立するという趣旨です。
刑法の逐条解説も、上記大審院の判決を引用したうえ、
「私人の意見を信頼した場合は、それが法律の専門家によるものでないときはもちろん、弁護士や法律学者であっても、その法解釈を信頼するについて相当の理由があるとはいえない」
と、弁護士の意見に従っただけだとしても「罪を犯す意思」がなかったことにはならないとの趣旨を示しています(前田雅英編集代表『条解 刑法』〔弘文堂,第2版,平19〕141頁参照)。
4.リスクを冒すよりも、ホテルに聞いた方が早いし安全
弁護士に聞いたことをもとに備品を持ち出すのはリスクが高いです。判断を誤れば窃盗になりかねません。
反面、「これは持って帰ってもいいものですか。」とホテルの従業員に聞くのは、時間もかからず簡単です。しかも、「持って帰ってもいい。」と言われたものを持ち帰るわけですから、後でホテルから「窃盗だ。」などと言われるリスクも回避できます。
所有者の意思を確認せず、自己判断で物を持ち帰ることは、リスクの高い行為であり、私はお勧めしません。