1.公務員は安定している?
公務員は安定していると言われます。余程の不祥事でも起こさない限り、クビにならないという意味合いで使われることが多い言葉だと思います。
公務員の身分は法律で保障されています。
国家公務員を例にすれば、国家公務員法75条1項が、
「職員は、法律又は人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。」
と身分保障を定めています。
不祥事を起こした場合に懲戒処分として免職される可能性のあることは法律で規定されています(国家公務員法82条)。懲戒免職になるのは法律自身が認めている身分保障の例外にあたります。
懲戒免職になるほどの不祥事はある程度限定されており、
https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html
この点では確かに安定していると思います。
2.身分保障の例外としての分限
しかし、身分保障には懲戒と並んで分限という例外があります。
「分限」は日常生活では馴染みの薄い用語だと思います。
これは「公務能率を維持するための官職との関係において生ずる公務員の身分上の変動で職員に不利益を及ぼすもの」とされています(森園幸男ほか編著『逐条国家公務員法』〔学陽書房,全訂版,平27〕645頁参照)。分限には意に反する免職などの処分も含まれます。
分限は懲戒とは異なり、本人に非があることを前提としません。つまり、本人に責任が全くなくても、公務の能率維持の観点からクビ(免職)になる可能性があるということです。
3.組織変更に対しては不安定
分限が問題になる場面の一つに組織変更が挙げられます。
官公庁の組織再編に伴って余剰とされた人員が整理される場面です。彼らは公務の能率維持の観点から、分限免職という形で公務員としての地位を失ってしまいます。
組織再編に伴って分限免職処分の適法性が争われることは、それなりにあります。
近時も、日本年金機構の設立に伴う社会保険庁の廃止により分限免職処分を受けた方が、その処分の適法性等を争って起こした訴えの控訴審判決が公表されました(高松高判平30.12.17労働判例ジャーナル38頁 国・愛媛社会保険事務局長事件参照)。
この裁判では国が分限処分を回避する努力を行ったのかが争点の一つとなりました。
裁判所は、
「社保庁長官等とともに厚労大臣も、分限回避努力義務を負う」
と分限回避努力義務があること自体は認めました。
しかし、
「分限回避努力義務について、法律上、最大限のものが要求されると直ちに解することはできず、同義務の履行の有無については、同義務を負う者がその権限の範囲内で相当な努力を行ったか否かという観点から決すべきである。」
と判示し、結論として分限免職回避努力義務への違反を否定し、分限免職処分の適法性を承認しました。
裁判所の判決の中では、省庁横断的配置転換を講ずべき義務があるとの原告・控訴人側の主張がことごとく否定されています。所属官庁が消滅してしまう場面では、配置転換しようにも限界があるため、省庁横断的措置を講じる義務まではないとなると、分限免職処分の適法性を争える場面は、かなり限定されてくるのではないかと思われます。
本人に責任が全くなかったとしても、法令の改廃・組織変更という個々の公務員にコントロール不能な外在的事情によって、一方的に身分を奪われる可能性があるという点においては、公務員の立場は安定しているとはいえません。もちろん、組織変更はそれほど頻繁に行われることではありませんが、個々の職員へのインパクトという意味では、リストラされた私企業の従業員と大差ないかも知れません。
公務員は民間との比較で優遇されていると思われがちですが、その法的地位を子細に検討してみると、そうでもないと思わされることも、しばしばあります。