1.加圧シャツを対象とした措置命令
先月22日、消費者庁が
「着るだけで圧力によって体が『痩せる』『筋肉が付く』とうたう男性向けの『加圧シャツ』の広告は科学的根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、販売会社「イッティ」(東京・渋谷)など9社に再発防止命令を出した。」
との記事が掲載されていました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42787090S9A320C1CC1000/
2.根拠資料を提出した会社は1社もなかった
記事を見た時に私が一番驚いたのは、
「消費者庁は合理的な根拠を示す資料を求めたが、提出した社はなかった。」
という部分です。
法務は機能していないのか? と疑問に思います。
3.資料を提出できなければ、法違反があったものとみなされてしまう
景品表示法は優良であると誤認されるような表示を禁止しています(景品表示法
5条1号)。
景品表示法5条1号への該当性に関しては、特有のルールがあります。事業者の側で合理的な根拠を示す資料を提出できなければ、法律に違反したものとみなされてしまうというルールです。
(景品表示法は7条2項)
「内閣総理大臣は、・・・事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。」
4.法務は何をしていたのだろうか?
本件の特殊性は、資料の信憑性が問題になったわけではなく、そもそも資料を提出することすらできなかったことです。
特定の効能を謳った商品を販売するにあたり、本当にそのような優良な効果があるのかは極めて重要な問題です。もし、そのような効果がなかったとすれば、景品表示法違反どころか、下手をすれば詐欺だと言われかねないからです。
したがって、もし、私が当該商品への販売について顧問弁護士として意見を求められていたとすれば「科学的根拠を説明することは可能なのでしょうか?」「科学的根拠があることを裏付ける合理的な根拠資料はあるのでしょうか?」ということを確認し、資料をきちんと保管・アップデートしていくことを助言していたと思います。
これは景品表示法の構造を理解していれば当然のことです。
合理的資料が提出できなければ、問答無用で自動的に法律に違反していることにされてしまうからです。
この点を見逃したのが1社や2社ではなく、9社もあったというのはかなり衝撃的でした。
5.法律違反の予防コストは小さい、法律違反の代償は大きい
一般論として言うと、法律違反の代償は、法律違反の予防コストよりもずっと少ないです。
優良誤認表示をした(景品表示法5条1号に違反した)となると、記事にあるような措置命令(景品表示法7条)だけではなく、「一定の例外的場合を除き、政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額」の課徴金納付命令(景品表示法8条)も来ます。
法の執行状況は消費者庁のホームページで公表されています。
https://www.caa.go.jp/notice/enforcement/2019/
社名が出てしまった場合のイメージダウンも考慮する必要があります。
法律違反の代償は大きなものです。
対して、紛争を防止するためのコストはそれほどではありません。景品表示法との関係は弁護士であれば誰でも思いつく程度の論点であり、1時間程度の法律相談の枠内でも、資料がないことのリスクは指摘できていただろうと思います。
法務部を自前でそろえるよりも、法律顧問契約をした方が安上がりであるのが一般ではないかと思います。
紛争予防にご関心のある企業関係者の方がおられましたら、お気軽にご相談頂ければと思います。