弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

公益通報-不正な目的で通報したと言われないためには、どのような目的で通報したと言えば良いのか?

1.公益通報 公益通報者保護法で保護される公益通報であるといえるためには、 「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」 ではないことが必要になります(公益通報者保護法2条)。 この「不正の目的」の解釈について、消費者庁…

役職又は職位の引き下げに伴い、労働契約上の定め(就業規則等の定め)なく賃金を減額することはできないとされた例

1.役職又は職位の引き下げ 一般論としていうと、役職又は職位を引き下げることは「就業規則等の具体的な根拠規定がなくとも、人事権の行使として」することが可能です。 ただし、「役職・職位を引き下げる降格が有効とされる場合であっても、それに伴う賃…

監査役に就任したら自動的に退職したことになるのか?

1.監査役と労働者性 以前、 取締役に就任したら退職するという就業規則-これにより自動的に退職したことになるか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。この記事の中で、就業規則に「取締役に就任したら退職する」と定められている会社…

個人のアカウントで会社の物品を購入した際に発生したポイントの私的使用による解雇が認められた例

1.金銭的不正行為を理由とする解雇 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。客観的合理的理由、社会通念上の相当性の有…

勤務間インターバルが短かったことが業務起因性の判断にあたり考慮された例

1.勤務間インターバル 勤務間インターバルとは、 「1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するもの」 をいいます。 「労働者が日々働くにあたり、必ず一定の…

使用者側が不就労控除を主張する時には、どの程度の事実の特定が必要なのか?

1.不就労控除 労働者が欠勤、遅刻、早退等により就労しなかった時間に相当する賃金を給料から差引くことを「不就労控除」といいます。 使用者側がこの不就労控除を主張する際、どの程度の事実の特定が必要になるのでしょうか? 賃金請求権についていうと、…

反省は付随的なものであるとして、過度に重視することが戒められた例

1.反省はどこまで重視されることが許されるのか? 懲戒処分の効力を争う時、使用者側から重い処分量定を科した理由として「反省していないからである」と主張されることがあります。 反省していないから、またやるかも知れない、 またやるかも知れない以上…

生理休暇中に墓参りに行ったり商業施設に行ったりしたら、生理休暇を不正取得したことになるのか?

1.生理休暇 労働基準法68条は、 「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」 と規定しています。これを生理休暇といいます。 「生理日の就業が著しく困難」とは、「生理日において下腹…

定年後再雇用嘱託職員に年末年始休暇・夏季休暇を付与しないことが違法とされた例

1.正規・非正規職員の労働条件格差 労働契約法20条に、 「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件…

電車内で女性客に迷惑行為をしている相手方に注意をして蹴られたことによる負傷に労災は適用されるのか?

1.通勤災害と通勤の中断 労働者災害補償保険法1条は、 「労働者災害補償保険は、業務上の事由、・・・又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、・・・又は…

管理監督者に相応しい待遇を判断する際の視点-非管理監督者の最上位が同程度の残業をしたらどうなるか?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

管理監督者性の判断にあたっては残業代請求期間の働き方をみること

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

復職にあたり労働者に不当な要求をしたとのことで、復職合意に基づいて復職するまでの間の賃金請求が認められた例

1.復職にあたっての不当な条件設定にどう対応するか? 休職していた労働者が復職するにあたり、勤務先があれこれと条件を付けようとしてくることがあります。保証人をつけろだとか、労働条件の不利益変更を了承しろだとか、そういったことが典型です。 し…

業務成果等を理由として賃金を減額することに法的な根拠がないとされた例

1.使用者による一方的な賃金の減額 使用者が労働者の業績等を理由に一方的に減額することも、できないわけではありません。ただ、そのためには、一定の厳格な要件が充足されている必要があります。 例えば、水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第…

「給料泥棒」「役立たず」「無能」「会社の寄生虫」などと言いながら退職を勧告された場合の慰謝料

1.退職勧奨の適法/違法の分水嶺 退職勧奨については、 「基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に辞職を求める…

僧侶・修行僧の労働者性(肯定)

1.僧侶・修行僧の労働者性 一般論としていうと、住職たる地位の確認を求める訴えの提起は認められません。具体的な法律関係に関する問題でなく、法規の適用によって終局的に解決すべき法律上の争訟に当たらないと理解されているからです(芦部信喜 著 , 高…

感情を荒らげることなく淡々とした口調で話していても、アカデミックハラスメントが成立するとされた例

1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパ…

派遣社員として短期の派遣を繰り返しても、就労意思は失われないとされた例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

ベーカリーで販売期限の切れたパンを持ち帰ったり、害虫を発見して咄嗟に殺虫剤を散布したりすることが解雇理由になるか?

1.食料品店の販売期限切れ商品の持ち帰り 食品を扱う店では、従業員に期限切れの商品の持ち帰りが認められていることがあります。しかし、関係性が悪くなってくると、こうした持ち帰りが非違行為にあたるとして、トラブルになる例が少なくありません。 し…

シフト制の労働者に勤務させないと告げて交わされた退職合意の錯誤取消が認められた例

1.シフト制 「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を定めず、一定期間ごとに作成される勤務表や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定する形態」を「シフト制」といいます。シフト制の労働者の方からは、しばしば、 想定よりも…

「可愛いところあるやんか」「女性はかわいいとか、やさしさとかあるやん」-性別役割分担意識に基づく女性を持ち上げる言動がセクハラとされた例

1.セクシュアルハラスメントと性別役割分担意識 セクシュアルハラスメントというと「ハラスメント」という言葉の響きからか、相手が嫌がっていることを知ったうえで、敢えて嫌がらせを行うことをイメージされる方が少なくありません。 この捉え方は、あな…

歓迎会二次会のカラオケで行われた男性の脱ぎ芸が、女性参加者に対するセクハラ(不法行為)を構成するとされた例

1.セクシュアルハラスメント 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるセクシュアルハラスメ…

障害ではなくても履歴書で求めていた身体的不具合への配慮について、障害者雇用促進法の求める合理的配慮に準じる扱いが相当とされた例

1.障害者雇用促進法と合理的配慮 障害者雇用促進法に次のような条文があります。 (第三十六条の二) 「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用…

労災の不支給処分に不服がある場合、処分庁に資料の開示を請求したりせず、速やかに審査請求を

1.労働者災害補償保険法の審査請求の期間制限 労働者災害補償保険法38条1項は、 「保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることがで…

精神障害等級の認定を受け、通院して服薬治療を受けていることのみを理由とした退職勧奨は違法-自由な意思を阻害しなくてもダメ

1.退職勧奨の適法/違法の分水嶺-自由な意思 退職勧奨については、 「基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に…

労災に被災したら、自宅療養せず速やかに病院へ

1.精神障害と労災 業務に起因して精神障害に罹患した場合、被災者は労働者災害補償保険法に基づいて療養補償給付、休業補償給付などの各種保険給付を受給することができます。 近時公刊された判例集に、この保険給付との関係で、実務的に注意しておかなけ…

職場で行われる陰口が、労働者に対するハラスメント(不法行為)にあたるとされた例

1.労働者本人がいないところで言われる揶揄・侮辱 労働者本人がいないところで言われる揶揄や侮辱は、ハラスメント(不法行為)を構成することがあり得るのでしょうか? 当人が知らないのであれば、揶揄や侮辱があったとしても、精神的な苦痛(損害)は発…

スポーツ指導者によるセクハラ

1.労働契約が存在しなくても性的言動は不法行為を構成する? 「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること…

競輪の師匠によるセクハラ発言「彼氏と遊んでセックスばかりしやがって」の慰謝料が僅か10万円とされた例

1.慰謝料に冷淡なのはセクハラも同じ 一昨日、 従業員を何度となくバカと罵ることが業務の範囲を超えないとされたうえ、多数回頭を小突く・足を蹴とばすなどの身体的暴力の慰謝料が僅か5万円とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きまし…

「残業時の休憩時間」なる時間の労働時間性

1.残業時の休憩時間 時間外勤務手当等を請求する事件で就業規則を見ていると、時折「残業時の休憩時間」といった言葉を目にすることがあります。「残業する時は、○時~○時を休憩時間とする」といったようにです。 しかし、労働者は可能な限り早く家に帰り…