弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-01-01から1年間の記事一覧

IDとパスワードを使って従業員であれば誰でもアクセス可能な情報の営業秘密該当性

1.営業秘密の侵害 営業秘密は不正競争防止法で保護されています。 例えば、「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為」は不正競争行為として、差止や損害賠償の対象となります(不正競争防止法2条1項4号、3条、4条参照)。 …

残業代請求-管理監督者性を誤信していた場合にも時間外勤務等の「容認」の論理は使えるか?

1.時間外勤務等の「容認」 残業が許可制になっている会社などでしばしば見られることですが、時間外勤務手当等を請求すると 「勝手に残業していただけであって、業務を指示していない」 という反論を寄せられることがあります。 しかし、「規定と異なる出…

残業代を除いた賃金が6割以上増額(21万円⇒34万円)されていても、管理監督者として相応しい待遇であることが否定された例

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

訴えの追加的変更が時機に後れた攻撃防御方法の却下の対象にならないとされた例

1.時機に後れた攻撃防御方法の却下 民事訴訟法157条1項は、 「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、…

社会保険労務士から管理監督者にすれば残業代を支払わなくてよいといわれ、労働者を管理監督者にした代表取締役に重過失が認められた例

1.残業代の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 残業代を払ってもらえない労…

考課対象期間の満了日の経過をもって、賞与の金額が具体的に確定したとされた例

1.賞与を具体的な権利として請求するためには・・・ 「会社の業績等を勘案して定める」といったように具体的な金額が保障されていない賞与は、算定基準の決定や労働者に対する成績査定が行われて具体的な金額が明らかにならない限り請求することができない…

支給日在籍要件の効力の否定例(死亡退職の場合)

1.支給日在籍要件 賞与の支給について、支給日に会社に在籍していることが要件とされていることがあります。これを支給日在籍要件といいます。 就業規則や賃金規程、賞与規程に定められている支給日在職要件は、基本的には有効であると理解されています。 …

私生活時間確保配慮義務

1.信義則上の配慮義務 信義則上、使用者には、労働者に対する種々の配慮義務があります。 その中には「①労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する安全配慮義務や健康配慮義務・・・、②労働者の人格が損なわれないよう働きやすい職場環境を整える職…

特段指示されていなかったものの、昼休み中にかかってきた電話への対応に要した時間の労働時間性の立証が認められた例

1.昼休みの電話対応 昼休み中にかかってくる電話に対し、電話番を設けることなく、手の空いた従業員が対応している会社は少なくありません。こうした電話対応の方法は、しばしば上長からの明確な指示によることなく、自然発生的に行われます。 それでは、…

過半数代表者が適正に選出されていないとして1年単位の変形労働時間制が無効となった例

1.1年単位の変形労働時間制と過半数代表者との協定 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮…

歩合給か否かの区別-自助努力が反映されない賃金は歩合給とはいえない

1.出来高払制その他の請負制(歩合給) 出来高払制その他の請負制とは「一定の労働給付の結果又は一定の出来高に対して賃率が決められるもの」をいいます(厚生労働省労働基準局編『労働基準法 上』〔労務行政、平成22年版、平23〕378頁)。いわゆ…

労働時間・労働日の特定がなされていたとはいえないとして、1年単位の変形労働時間制の効力が否定された例

1.1年単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的にした…

離職証明書に正しい離職理由を書かないことが不法行為に該当するとされた例

1.解雇なのに自己都合退職扱いされる 労働事件に関する相談を受けていると、 「クビ(解雇)にされたはずなのに、離職証明書、離職票上、自己都合退職したことにされている」 という悩みを寄せられることがあります。 解雇したことが助成金の返還と紐づい…

違法解雇を理由とする損害賠償請求-逸失利益として賃金6か月分の損害賠償が認められた事例

1.違法解雇の争い方 違法解雇には二通りの争い方があります。 一つは、地位確認請求と未払賃金請求を併合する方法です。解雇が違法無効である場合、労働契約上の地位は依然として存続していることになります。契約が存続しているにも関わらず労務の提供が…

解雇の事実の認定(労働者側からの解雇されたという主張に対し、使用者側から解雇していないといわれた場合)

1.解雇していないと主張する使用者 労働契約法上、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定されています(労働契約法16条)。 この条文により、解雇権…

残業代由来の役職手当に残業代の支払としての効力が認められなかった例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

管理監督者該当性-ふさわしい待遇の有無を考えるにあたり着目するのは平均額との乖離か、特定の一般従業員との乖離か?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

公立大学の理事はどのような場合に解任されるのか?

1.公立大学法人 公立大学法人という仕組みがあります。 地方独立行政法人法に基づいて設立されている一般地方独立行政法人の一種で、 「一般地方独立行政法人で第二十一条第二号に掲げる業務を行うもの」 と定義されています(地方独立行政法人法68条1…

産後休業明けに復職するにあたり、出勤日数減を提案された場合の対処法

1.求めていない業務負荷の軽減を押し付けられるマタニティハラスメント 男女雇用機会均等法9条3項は、 「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を…

刑事責任確定後も起訴休職を発令して懲戒処分を検討することが許されるのか?

1.起訴休職 「刑事事件で起訴された者をその事件が裁判所に係属する期間または判決が確定するまで休職とすること」を起訴休職といいます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第2版、令3〕540頁参照)。 起訴休職の亜種には、逮捕・勾留され…

捜査段階で釈放された後も、起訴の可能性等を考慮して休職を発令できるのか?

1.起訴休職 「刑事事件で起訴された者をその事件が裁判所に係属する期間または判決が確定するまで休職とすること」を起訴休職といいます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第2版、令3〕540頁参照)。 起訴休職の亜種には、逮捕、勾留され…

始業時刻前の朝礼開始時刻の立証-勤務開始初期段階で出勤時刻を尋ねておくことの有用性

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

終業時刻に二つのパターンがある場合の各日の終業時刻の認定-平均時刻で認定した例

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

懲戒事由ではないのに「懲罰事項になるんだよ」などと叱責する行為はパワハラか?

1.パワーハラスメント 職場におけるパワーハラスメントとは、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素を全て満たす…

賃金規程上「超過勤務等に対する割増賃金」と定められている手当について、割増賃金の支払とは認められなかった例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

タイムカードの打刻後に稼働していたことの立証が成功した例(写真撮影の有効性)

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

労働契約か否か?-雇用契約書の交付⇒業務委託契約書の交付パターンの契約の法的性質

1.労働者性が争われる事件 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式…

有期労働契約の無期労働契約への転化が認められた例

1.有期労働契約の無期労働契約への転化 民法629条1項は、 「雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場…

夜間時間帯における割増賃金算定のための賃金単価を最低賃金以下にすることを認めた例

1.泊まり勤務(夜間時間帯)の労働時間性 しばしば泊まり勤務(夜間時間帯)の労働時間性が争われることがあります。 労働者側としては、仮眠等が許容されていても、何か問題があったら即応することが義務付けられているのだから指揮命令下にあるはずだと…

グループホームの泊まり勤務(夜勤時間帯)の労働時間性が認められた例

1.不活動仮眠時間の労働時間性 不活動仮眠時間の労働時間性について、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル管理事件は、 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである…