弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

約25年間に渡り勤務していた放射線技師に対する事務部への異動を命じる転任命令に取消を求める利益が認められた例

1.公務員に対する転任命令 民間の労働者は、使用者から配転命令を受けた場合、その効力を争って裁判所の判断を仰ぐことができます。配転は使用者に広範な裁量が与えられているため、職種限定合意が認められるようなケースを除けば、そう簡単に無効にはなり…

公務員-休暇の虚偽申請で懲戒免職となり退職手当も全部不支給になった例

1.懲戒免職と退職手当 公務員の場合、懲戒免職されると、退職手当の全額が不支給となるのが原則です。 例えば、国家公務員退職手当法12条は、 「懲戒免職等処分を受けて退職をした者」 に対し、 「一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする…

公務員-休暇の虚偽申請で懲戒免職になった例

1.休暇の虚偽申請 公務員の懲戒処分に関しては、何らかの形で非違行為の類型毎に標準的な処分量定が定められているのが普通です。 例えば、国家公務員に関しては、平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」が、非違行為毎の標準的な処分…

ブラックジョークとして笑ってすますことができるとの供述からセクハラの日常性・継続性が認められた例

1.ハラスメントの一連性・一体性 労働者が使用者に対し複数のハラスメント行為を理由として損害賠償を請求する場合、一つ一つの行為を分解して個々的に不法行為の成立を論じるのではなく、一連一体のものとして不法行為の成否を論じて欲しいという主張をす…

蒸し返し的な欠勤控除への対抗手段

1.特に問題視されることなく賃金が支払われていたのに・・・ 「ノーワーク・ノーペイの原則」というルールがあります。これは「労働者が就労していない場合には、賃金請求権は発生しない」という原則をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟…

在宅勤務者への出社命令が無効とされた例

1.今更出社したくない 新型コロナウイルスの流行以降、在宅勤務・リモート勤務が定着、一般化しています。 流行が沈静化すると共に、出社を命じる企業も増えているのですが、労働者の中からは「在宅勤務で支障なく働けていたのに、今更、通勤、出社したく…

就業規則に記載されていない勤務シフトを用いている変形労働時間制は有効か?

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

求人票と実際の労働条件が違う場合の着眼点-打ち消すものというに十分か?

1.求人票と実際の労働条件が違う 求人票に書かれている好条件に惹かれて応募したものの、実際の労働条件が違っていたという相談を受けることがあります。 こうした場合に求人票に書かれているとおりの労働条件を主張できるかというと、それは難しいのが実…

「法所定の時間外手当として支給する」と定められていた賃金項目の固定残業代としての効力が否定された例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

精神保健福祉士の職種限定契約が否定された例

1.職種限定契約 配転の効力を争う局面などにおいて、黙示的な職種限定契約の存否が問題になることがあります。「黙示的な」というのは、明示的な職種限定契約が認められる場合、そもそも使用者の側で合意と異なる仕事をさせようとしないことが多く、限定さ…

誰にでも分かる嘘程度のことで懲戒処分を科することは認められない

1.不正確な発言を捉えて揚げ足をとられたら・・・ 懲戒処分を受ける人は、処分を科されるに先立ち、何等かの理由によって使用者から目を付けられている方が多いように思います。この場合、目を付けられる⇒行動を監視される⇒粗を見つけられる⇒懲戒処分を受…

タイムカードが「ない」という主張が排斥され、文書提出命令が発令された例

1.タイムカードが「ない」という主張 残業代請求を行うにあたっては、タイムカードが重要な証拠になります。「機械的正確性があり、成立に使用者が関与していて業務関連性も明白な証拠」(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ』〔青林書院、改…

固定残業代の廃止や減額に労働者の同意等は必要にならないのか?(続)

1.固定残業代 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。残業代の支払い…

労災の保険給付の支給決定を事業主(使用者)が争うことは許されるのか?(続)

1.労災保険制度とメリット制 労働者災害補償保険法は、業務災害や通勤災害により被災した労働者に対し、手厚い保険給付を行うことを規定しています。 この保険給付を行うための費用は、原則として事業主が負担する保険料によって賄われています。事業主が…

裁判所に冗談は通じない

1.脈絡によって真逆の意味を持つ言葉 脈絡によって真逆の意味を持つ言葉があります。 例えば、「夜道は気を付けて帰れよ」という言葉があります。 塾講師が、生徒である小中学生に対し、講義終了後にこの言葉を言ったとしても、通常、それが法的に問題にな…

65歳に達する前に定年後再任用を拒否された公務員による損害賠償請求が認められた例

1.定年後再任用 民間企業は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、 ① 65歳までの定年の引き上げ、 ② 継続雇用制度の導入、 ③ 定年制の廃止、 のいずれかの措置を講じることになっています(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項…

少額の解決金支払の申出を債務承認行為と考えることができるのか?

1.消滅時効と権利(債務)承認 債権には「消滅時効」という仕組みがあります。ごく簡単にいえば、一定期間、権利行使をしないでいると、権利自体が消滅してしまう仕組みです。 現行民法上、一般債権は「債権者が権利を行使することができることを知った時…

提訴記者会見の違法性が否定された例

1.提訴記者会見と名誉毀損 訴訟提起した事実を記者会見をして広く告知することを、一般に提訴記者会見といいます。労働事件に限った話ではありませんが、提訴記者会見をすると、名誉毀損だとして、被告側から逆に訴え返されることがあります。 提訴記者会…

固定残業代の有効性-36協定の欠缺だけでは勝てない?(Ⅱ)

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

「感染の怖れがなければ元通り業務に復帰していただきたい」と告げられた労働者はどのように対応すべきか

1.新型コロナウイルスに感染/感染が疑われた労働者の復職問題 新型コロナウイルスに感染した労働者や、感染が疑われる労働者に対し、会社が休業や自宅待機を命じることがあります。 他の従業員への感染を防ぐため、そうした措置をとること自体に特段の問…

有給休暇の申請を5営業日前に行うルールが否定され、前日夜のメールによる有給休暇の取得が認められた例

1.有給休暇の取得 有給休暇の取得に際し、就業規則で一定の予告期間を置くように求められていることがあります。 こうした就業規則の定めは、直ちに違法であると理解されているわけではありません。例えば、最一小判昭57.3.18労働判例381-20 …

特定の労働者を狙い撃ちにする就業規則の変更による労働条件の不利益変更-該当の労働者への手続保障が必要ではないか?

1.特定の労働者を狙い撃ちにする就業規則の変更 意に沿わない労働者を退職に追い込むなどの目的で、就業規則が変更されることがあります。変更に合理性がある場合、変更後の就業規則を周知させることにより、労働者の個別同意を得ることなく、労働条件を不…

配転に対する抗弁-職種限定合意の亜種:採用後、当分の間は職種限定する旨の合意

1.配転命令と職種限定合意 一般論として、配転命令には、使用者の側に広範な裁量が認められます。最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件によると、配転命令が権利濫用として無効になるのは、 ① 業務上の必要性がない場合、 ② 業務…

営業成績を算定基礎とする退職金の法的性質をどのように考えるのか

1.退職金不支給・減額条項の限定解釈 懲戒解雇など一定の事由がある場合に、就業規則等で退職金を不支給・減額支給とする条項が置かれることがあります。これを退職金不支給・減額条項といいます。 この退職金不支給・減額条項に基づいて、退職金を不支給…

通報する順番-先ず社内、次が行政機関

1.違法行為を通報する順番 勤務先の違法行為を行政機関に通報できないかという相談を受けることがあります。 行政機関への通報が許容されるための要件は公益通報者保護法等の法令に規定されています。法令に規定されている要件に合致している限り、通報す…

派遣期間満了による労働契約の終了に雇止め法理の適用が認められた例(使用者の言動による合理的期待の肯定)

1.労働者派遣契約と雇止め法理 有期労働契約は期間の満了により終了するのが原則です。 しかし、①有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と同視できるような場合や、②有期労働契約の満了時に当該有期労働契約が更新されると期待することに…

支給要件や支給基準が就業規則等で明確に定められていない中、労使慣行を根拠に退職金請求が認められた例

1.退職金の法的性質 退職金は、賃金である場合と、任意的恩恵的給付である場合とがあります。 その区別に関しては、 「支給要件や支給基準等が就業規則で定められるなどして、退職金の支給が労働契約の内容になっている場合」が賃金で、 「退職金を支給す…

例示されている考慮要素に「等」の内容を限定する意義が認められ、法人の経営危機が退職金不支給の理由にはならないとされた例

1.「等」の意味 法文や就業規則を見ていると、考慮要素が縷々列記された後に「等」で締めくくられている条文を目にすることがあります。 個人的な実務経験の範囲で言うと、この「等」の文言の中には、種々雑多な事情が含まれると理解される例が多いように…

退職届の提出が雇用契約の解約の意思表示とみることはできないとされた例

1.退職届の提出 退職届の提出は、 辞職(労働者の一方的な意思表示による労働契約の解約)、 合意退職の申込み、 のいずれかであると理解されます。 いずでれであるにせよ、一旦してしまった退職の意思表示の効力を否定できる場面は、錯誤・詐欺・強迫など…

審査部門のチェックを潜り抜けた不適切行為で懲戒処分を行えるのか?

1.不適切行為を防ぐための仕組み 組織化された企業で個々の労働者が担当している仕事は、業務フローの一部分にすぎないのが普通です。そして、大抵の組織では、個々の労働者が不適切な行為をしても、それを発見、是正する仕組みがとられています。 それで…