弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

芸能人の労働者性-出演機会への諾否の自由をどうみるか?

1.労働者性の判断基準 契約当事者の一方が労働者はでない場合、立場の強い側が立場の弱い側に一方的な契約条件を押し付けたとしても、両者間の法律関係は、基本的に契約書に書かれているとおりに規律されます。 立場の弱い側が、こうした状況を打開する方…

雇止め-使用者が更新年数上限を一方的に宣言しても、一度抱いた合理的期待は否定されないとされた例

1.雇止めと不更新条項 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…

パワハラ行為の防止のための教育指導や研修等が行われなかったことは処分の軽減理由になるのか?

1.公務員の分限処分 公務の能率の維持や適正な運営の確保という目的から、職員の意に反する不利益な身分上の変動をもたらす処分を、分限処分といいます。分限処分には、降任、免職、休職、降級の4種類があります(国家公務員法78条、79条、人事院規則…

公務員の分限処分-勤務実績不良の基準となる勤務実績はどのように評価されるのか?

1.公務員の分限処分-勤務実績不良 公務の能率の維持や適正な運営の確保という目的から、職員の意に反する不利益な身分上の変動をもたらす処分を、分限処分といいます。分限処分には、降任、免職、休職、降級の4種類があります(国家公務員法78条、79…

同僚からの暴行等による心理的負荷-傷害の有無はすぐ確認すること

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

就業規則の周知性の否定例-紛争が顕在化した後で写真等をとってきてもダメ

1.就業規則の周知性 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとす…

勤務先からの従業員の引き抜き、顧客への働きかけ-どこまでやったら違法になるのか?

1.引き抜き行為/旧勤務先の顧客からの受注 当事務所では、労働事件やフリーランスの働き方をめぐる事件を重点的に取り扱っています。こうした事件類型を取り扱う中で、独立・起業をめぐる相談を受けることがあります。競業をしてもいいのか/独立・起業を…

独立・起業した元従業員に対する嫌がらせ(懲戒解雇をしたという文書の配布等)が違法とされた例

1.独立・起業をめぐる紛争 当事務所では、労働事件やフリーランスの働き方をめぐる事件を重点的に取り扱っています。こうした事件類型を取り扱う中で、独立・起業をめぐる相談を受けることがあります。競業をしてもいいのか/独立・起業をした後、旧勤務先…

完全歩合制の労働者について、出勤日の減少を伴う異動が違法とされた例

1.出勤日を減らされる問題 大学教員などの特殊な業種を除き、労働者の就労請求権を一般的に肯定することは困難であるとされています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元249頁参照)。 そのため、シフト制の労働者や、完全歩合制の…

短時間労働者に配転されて健康保険の被保険者資格を喪失したことはどうやって争うのか?

1.健康保険に加入する利益 一定の要件を満たす短時間労働者は、健康保険の被保険者にはならないとされています(健康保険法3条1項9号)。 それでは、不当に出勤日や労働時間を大幅に削減され、被保険者資格を喪失した場合、労働者側は、その効力をどの…

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分は適法でも退職手当の全部不支給処分は違法とされた例(物損事故のケース)

1.飲酒運転に対する処分の厳格化とその反動 飲酒運転による凄惨な事故が相次いだ影響で、国も自治体も、公務員による飲酒運転に対しては、かなり厳しい姿勢をとっています。 自治体によっては、人身事故などの具体的被害が生じていなくても、酒気を帯びて…

長時間の残業を強いられている公立学校の教育職員(教員)は国家賠償請求ができないか?

1.公立学校の教師・教諭に残業代が支給されない問題 メディアで採り上げられるようになり、既に多くの人に知られるようになっていますが、公立学校の教師・教諭には残業代が支給されません。 給与月額の4%を基準とする教職調整額を支給される代わりに、…

公立学校の教育職員(教員)は、どのような業務で残業をしても時間外勤務手当の支給を受けられないのか?

1.公立学校の教師・教諭に残業代が支給されない問題 メディアで採り上げられるようになり、既に多くの人に知られるようになっていますが、公立学校の教師・教諭には残業代が支給されません。 給与月額の4%を基準とする教職調整額を支給される代わりに、…

会社は他社従業員に対するプレゼントの交付行為を注意指導できるか?

1.異性からのプレゼントの交付行為 個人的に見聞きする範囲内でのことではありますが、職場で異性からプレゼントを渡されることに対し迷惑だと感じている人は少なくありません。このような異性からのプレゼントの交付行為を職場に注意指導してもらうことは…

パワーハラスメントによる心理的負荷-「強」になるためのハードルの高さがうかがわれる例

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

発生機序の良く分からない疾病(化学物質過敏症)に業務起因性が認められた例

1.労災の対象となる疾病、障害 労働者災害補償保険法の保険給付は、労働基準法75条に規定されている災害補償の事由が生じた場合(業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合)に、労働者等の請求によって行われます(労働者災害補償保険法12条の8第2項参…

追い出し部屋(他の社員との接触禁止・常時カメラで撮影された事実上の個室)への配転が無効とされた例

1.追い出し部屋への配転 従業員に退職を促すことを目的として設けられたとみられる部署を称して「追い出し部屋」と言われることがあります。社会問題化すると共に、あまりにあからさまな事案は減ってきつつあるように思われますが、それでも、他の社員との…

ジョブローテーションから逸脱して唐突に事務系社員を製造部門に配置転換したことが違法とされた例

1.なかなか無効にならない配転 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものとい…

降格勧奨などの労働条件の不利益変更の慫慂は不法行為になり得るか?

1.退職勧奨の不法行為該当性 社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨が行われた場合には、労働者は使用者に対し不法行為として損害賠償を請求することができます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂…

解雇通知書を作成したのは失業保険を受給できるように便宜を図ってあげたからであるとの使用者側の主張が排斥された例

1.辞職か解雇かをめぐる紛争 労働者からの辞職の意思表示に対し、使用者はこれを受け容れなければならないほか、特段の義務を負わされているわけではありません。 しかし、使用者側から労働者を解雇するにあたっては、30日以上の予告期間が必要であると…

就業規則の変更の合理性が否定された場合、変更後に採用された労働者には新旧いずれの就業規則が適用されるのか?

1.労働契約法7条の合理性、同法10条の合理性 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定…

試用期間途中での解雇は認められるのか?

1.試用期間 長期雇用制度の下の正規従業員の採用にあたり、一定期間を試用期間として労働者の能力、適性をみることは多くの企業において行われています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕400頁)。 試用期…

名誉感情侵害・名誉教授の称号授与の可能性の回復では戒告の無効確認の訴えの利益が認められないとされた例

1.戒告・譴責の無効を確認する利益 戒告・譴責といった具体的な不利益と結びついていない軽微な懲戒処分の効力が無効であることの確認を求める事件は、「訴えの利益」が否定されることが少なくありません。 「訴えの利益」とは、裁判所に事件として取り扱…

労働者の「そのような対応であれば、スタッフは全員退職する」との発言は部門閉鎖や整理解雇の根拠になるのか?

1.労使間の話し合い 労働者と使用者との利益は必ずしも一致しているわけではありません。一致する場面もありますが、利害が鋭く衝突する場面も決して少なくありません。そのため、労使間での話し合いでは、時として激しい言葉が使われます。 典型的なのが…

障害のある労働者を整理解雇するために必要な説明の在り方-障害特性への配慮が必要

1.障害者への合理的配慮 障害者雇用促進法36条の3本文は、 「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害…

執務用椅子を撤去されたら帰っても大丈夫か?

1.ノーワーク・ノーペイか債権者(使用者)の責めによる履行不能か 最三小判昭63.3.15労働判例523-16 宝運輸事件は、 「実体法上の賃金請求権は、労務の給付と対価的関係に立ち、一般には、労働者において現実に就労することによって初めて発…

歩合給が固定額の手当と同様に扱われた例

1.名目と異なる運用 基本給、歩合給、扶養手当、役職手当、時間外勤務手当、休日勤務手当など、賃金には様々な名目のものがあります。 この賃金項目について、名目とは異なる運用がなされていることがあります。これは、しばしば固定残業代との関係で問題…

懲戒処分には至らない叱責をするにあたっても、労働者の言い分を十分に聞くことが必要とされた例

1.弁明の機会 懲戒処分を行うにあたっては、適切な手続をとることが必要です。そして、手続の中で最も重要なのは、労働者(被処分者)に弁明の機会を与えることであると理解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕559…