弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

雇止め-不更新条項付きの契約書を示された時の対応(第三の方法)

1.雇止め法理 有期労働契約は、期間の満了により終了するのが原則です。 しかし、契約期間の満了時に、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認めらなければ、使用者が労働者を雇止…

退職勧奨に違法性が認められた近時の裁判例

1.退職勧奨 退職勧奨は、それ自体が許容されないわけではありません。 しかし、被勧奨者の任意の意思形成を妨げたり、名誉感情を害する言動をとったりすることは許容されていません。また、被勧奨者が二義を許さないほどはっきりと退職する意思のないこと…

規則類・諸規程類を書き写させることはパワハラになるか?

1.パワーハラスメントの類型-過小な要求 パワーハラスメント(パワハラ)とは、一般に、 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」 を意味…

残業代請求-黙示の指示が認められる要件

1.黙示の指示 残業代を請求した時に使用者側から寄せられる反論パターンの一つに、 「勝手に働いていただけだ。」 という主張があります。 確かに、使用者から明示的に残業を禁止されていた場合には、時間外労働をしたとしても、労働時間としてカウントし…

上司に変なあだ名をつけたメールを同僚に対して送信したことは、どの程度の懲戒処分に値するのか?

1.同僚間での上司の揶揄 職場の同僚と上司の悪口で盛り上がったことがある人は、決して少なくないのではないかと思います。 こうした愚痴の言い合いは、時や場所が選ばれるのが通例です。そのため、本人に発覚するケースは、それほど多くはありません。 し…

旧労働契約法20条裁判-正社員就業規則の準用規定がある場合も直律的効力は認められないのか?

1.直律的効力 労働契約法20条に、 「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合におい…

使用者(行政)による懲戒記者会見の違法性

1.提訴記者会見に対して消極的な裁判所 ジャパンビジネスラボ事件控訴審判決(東京高判令元.11.28労働判例1215-5)、三菱UFJモルガン・スタンレー事件(東京地判令2.4.3労働判例ジャーナル103-84)と、近時、提訴記者会見に対し…

個人的な付き合いを拒否している女性に個人的なメールを送ったらダメ・返信があったからといって拒否の撤回と捉えたらダメ

1.抗議や抵抗がなくてもセクハラは懲戒処分の対象になる セクハラを理由とする出勤停止処分・降格の効力が問題となった事案で、最高裁が、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間…

就業規則・懲戒処分の指針で使われている用語は、法令用語と同じ意味か?

1.法令用語には厳密な定義がある 一般の方が法律や裁判例を読みこむことが難しい理由の一つに、法令用語の難解さがあります。 法律や裁判例は日本語で書かれているため、一見すると誰でも読めそうに見えます。 しかし、各々の法令用語には、厳密な定義があ…

不正調査のための自宅待機中の賞与(勤勉手当)(公務員の場合)

1.不正調査のための自宅待機期間中の賞与(勤勉手当) 昨日、不正調査のため自宅待機を言い渡した公務員に対し、賃金を支給しないことが許されるかどうかについてのお話をさせて頂きました。 この論点について、裁判所は、いかに不正行為をめぐる社会的影…

不正調査のための自宅待機中の賃金(公務員の場合)

1.自宅待機命令 非違行為を犯した労働者に対し、使用者から、不正の全体像を調査し、適正な懲戒処分を科するまでの間、自宅での待機が命じられることがあります。 これは職務として自宅待機を命じられるものであることから、民間の場合、使用者は待機中の…

労働審判に口外禁止条項を挿入されないためには

1.労働審判と口外禁止条項 労働審判法20条は、 「労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。」(1項) 「労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡し…

密輸の量定相場(公務員の懲戒処分)

1.懲戒処分の指針 国家公務員は「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」や「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」、免職、停職、減給、戒告といった懲戒処分の対象になります(国家公務員法82条2号3号)。 しかし、「職務…

ヒヤリ・ハットの申告は解雇理由になるか

1.ヒヤリ・ハット活動 仕事をしていて、もう少しで怪我をするところだったということがあります。このヒヤっとした、あるいはハッとしたことを取り上げ、災害防止に結びつけることをヒヤリ・ハット活動といいます。 厚生労働省でも、ヒヤリ・ハット活動は…

ミスは数より質?-クビにならないために重要なのは同じ間違いを繰り返さないこと

1.能力不足解雇の予兆 能力不足・職務不適格を理由に解雇される予兆として、口頭や書面による注意・指導の機会が急に増えることが挙げられます。これは、能力不足・職務不適格を理由とする解雇が有効と認められるためには、事前の指導等によって改善の機会…

賃金から社会保険料の労働者負担分を控除してもらうことに権利性はあるだろうか?

1.賃金全額払いの原則と社会保険料の控除 労働基準法24条1項は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚…

従業員間の男女交際を違約金で禁止することはできるのか?

1.男女交際禁止の約定 芸能事務所とアイドルとのマネジメント契約書や、クラブがホステスに対して適用している就業規則を検討していると、男女交際を禁止する条項を目にすることが少なくありません。 一般企業の就業規則に目を通している中でも、セクシュ…

解雇事件における就労意思の認定-「被告会社に戻ってまた働く気持ちはない」との法廷供述のリカバーができた例

1.解雇事件における就労意思の位置づけ 違法解雇された労働者は、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求することができます。請求認容判決が確定したら、原告となった労働者は、解雇されてから判決が確定するまでに発生した賃金を支払うよう…

セクシュアルハラスメント事案の損害賠償-慰謝料・退職を余儀なくされたことによる逸失利益の認定例

1.セクハラ事案の損害賠償 民法上の不法行為への該当性が認められる場合、セクハラの被害者は、加害者に対して損害賠償を請求することができます。 被害者が主張する典型的な損害項目に、慰謝料と逸失利益があります。 慰謝料とは精神的苦痛を慰謝するに必…

セクハラで出社できなかった期間の賃金請求が認められた事案

1.事業主の責務 事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントに係る相談の申出があった場合、 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、 速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと、 行為者に対する措置を適正に…

労働者性の検討要素としての諾否の自由-断りたくない場合も自由がないといえるのか?

1.労働者の判断基準 労働基準法上の「労働者」に該当するのか否かは、昭和60年12月19日に作成された「労働基準法研究会報告(労働基準法の『労働者』の判断基準について)」に基づいて判断されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520…

就業規則の不利益変更の無効確認請求は可能か?

1.確認の訴えの利益 就業規則の変更が無効であること(変更前の労働条件が引き続き有効であること)の確認を求める訴訟は、当然に適法となるわけではありません。それは、紛争を直接的・根本的に解決する手段とはいえないことが多いからです。 例えば、大…

中小企業退職金共済制度(中退共)等の退職金の受給妨害の不法行為該当性

1.中小企業退職金共済制度 中小企業退職金共済制度とは、独力で退職金制度を設けることが難しい中小企業について、事業主の相互共済の仕組みと国の援助によって退職金制度を設け、中小企業で働く方々の福祉の増進を図ることを目的とした制度です。 https:/…

所定賃金が一定額の深夜割増手当を含める趣旨であることが明らかな場合とは

1.所定賃金は残業代込み? 所定労働時間が深夜帯に係っているにも関わらず、労働条件通知書や労働契約書に割増賃金についての特段の言及がない場合、その趣旨はどのように理解されるのでしょうか? 労働条件通知書など契約時に示された賃金が、割増賃金を…

経営者が激情に任せて言った「ならば懲戒解雇だ。」に法的効力はあるか?

1.怒りに任せて言い渡される解雇 退職を申し出るなど、経営者の意向に沿わない言動をとったとき、突然クビを言い渡されることがあります。 本邦では、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められない解雇は効力を有しません(労働契約法16条)。そ…

セクハラについての二次証拠の証拠力

1.具体的な内容が分からないセクハラの嫌疑 使用者からセクシュアルハラスメント(セクハラ)の疑いをかけられているのに、いつ・誰に・どのようなセクハラをしたというのかを教えてもらえない-そうした相談を寄せられることがあります。 意外に思われる…

賞与の不支給への対抗手段としての損害賠償請求

1.賞与が支給されない 使用者との関係が悪化すると、賞与を支給されないという措置をとられることがあります。こうした措置が許されるのかと、労働者の方から相談を受けることは珍しくありません。 結論から言うと、賞与の不支給を争うことは、実務上困難…

休職からの復職にあたり主治医面談への協力を義務付ける就業規則の変更の効力

1.勤務先による主治医面談 休職者していた労働者が復職する時、従前の職務を通常の程度に行うことができる健康状態に復したことは、第一次的には主治医による診断書や意見書に基づいて立証するのが通例です。 この労働者側から提出された主治医診断書・意…