弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

雇止めを争いにくい職業類型-大学助教

1.雇止めに関する法規制 期間満了によって労働契約を終了させることを「雇止め」といいます。 企業は雇止めを必ずしも自由に行えるわけではありません。 有期労働契約が反復して更新されて期限の定めのない労働契約と同視される状態に至った場合や、契約更…

素人判断による交渉が勝訴の意義を損なった例

1.交渉のやり方-許される交換条件と許されない交換条件 交渉における交換条件の出し方には、許されるものと許されないものがあります。 例えば、代金を払ってくれないなら、物を引き渡さないと言って、代金の支払を求めることは、特に問題ありません。 し…

懲戒免職を依願退職にしてもらえた行政実例

1.懲戒免職が一転して依願退職となったとの報道 ネット上に、 「懲戒免職が一転、『スピーディーに辞めてもらうため』依願退職に」 という記事が掲載されていました。 記事には、 「徳島県三好市が懲戒免職処分とする予定だった職員から、退職届が提出され…

分限免職処分の適法性のチェックポイント

1.分限処分 公務の能率の維持や適性な運営の確保という目的から、職員の意に反する不利益な身分上の変動をもたらす処分を、分限処分といいます。分限処分には、降任、免職、休職、降級の4種類があります(国家公務員法78条、79条、人事院規則11-1…

離職票をもらえずに雇用保険を受給し損ねた場合、使用者に責任追及できるか?

1.雇用保険(基本手当)の仕組み 失業したときに支給される雇用保険法上の基本手当は、受給期間内の失業している日について、所定給付日数分を限度として支給されるという建付けになっています(雇用保険法20条1項)。 そのため、受給期間内に所定給付…

仕事が遅い・病院に行かない・転職しない-これらは自殺者の過失か?

1.過失相殺 民法418条は、 「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」 と規定しています。 これは債務不履行で損害賠償を請求するにあ…

不本意な退職勧奨を受けた時に行うべきこと-先ずは明確な拒否

1.退職勧奨の適否をめぐる紛争 退職勧奨を受けて傷つく人は少なくありません。しかし、退職勧奨を行うことは、それ自体が禁止されているわけではありません。行き過ぎれば違法性を帯びるというルールがとられているだけです。 それでは、退職勧奨が違法か…

賃金減額の合意の効力は結構昔のものでも争える

1.積み重なった既成事実の重み 一般論として言うと、不本意な合意を押し付けられても、時間が経つと争うことは難しくなります。不服を述べなかったという既成事実の積み重ねが、合意に納得していたという方向に、裁判所の心証を傾けさせるからです。 しか…

「日本語分かってる?」-パワーハラスメントの一例

1.職場におけるパワーハラスメント 職場におけるパワーハラスメントは、 「事業主が職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」 と定義されて…

管理監督者性と職制上の管理職概念の区別について

1.管理監督者性と職制上の管理職 管理監督者には、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。 昨日の記事でも述べたとおり、管理監督者に該当するといえるためには、 「①事業主の経営に関する決定に…

管理監督者性の考慮要素としての「権限」-企業グループ単位での考察が許されるか?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。そのため、時間外勤務をしても、管理監督者には残業代が支払われることはありません。 この管理監督者に該当するといえる…

佐々木氏が渡部氏の浮気相手を訴えたらどうなるか

1.夫の浮気相手を訴えるべき? ネット上に、 「佐々木希さんは『夫の浮気相手を訴えるべき』家族問題評論家・池内ひろ美氏が説く意義とは」 という記事が掲載されています。 https://news.yahoo.co.jp/articles/f4b57cd376c1d9c0b1df31822bcf9739baacd9b5 …

懲戒解雇になっても必ずしも退職金をもらえなくなるわけではない

1.懲戒解雇と退職金 国家公務員の場合、懲戒免職処分を受けたことは退職手当の支給制限事由とされています(国家公務員退職手当法12条1項1号参照)。 懲戒免職処分を受けた場合、基本的には退職手当は全部不支給となります。しかし、情状によっては一…

情報漏洩による企業秩序侵害の本質をどう捉えるか(情報の内容は抗弁になるのか?)

1.情報漏洩を理由とする懲戒処分 多くの企業の就業規則では、企業秘密の漏洩・情報漏洩を懲戒事由としています。 厚生労働省のモデル就業規則でも、 「正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害…

差別と合理性-合理性のある差別も許されない?

1.差別と合理性の関係 障害者基本法4条は、 「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」 と規定しています。 それでは、ここで規定されている「差別」という言葉は、具体的に何を意味…

発達障害を理由とする不合格処分が違法とされた例-国家賠償法と障害法制(〇〇基本法)との関係性

1.国家賠償請求訴訟における違法性要件と根拠規範の範囲 国家賠償法1条1項は、 「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任…

賃金減額への同意-メールの「了解です。」くらいなら覆せる可能性あり

1.賃金減額の同意 合意は、錯誤、詐欺、強迫といった問題がない限り、取り消すことができなのが原則です。 しかし、労働法の幾つかの領域においては、こうした原則的な意思表示理論が修正されています。賃金減額への同意も、そうした意思表示理論が修正さ…

親族経営の会社における給与の意義-賃金か恩恵的給付か?

1.親族経営の会社で親族従業員に支払われる給与の意義 親族経営の会社においては、親族である従業員に対し、給与の名目で極めて高額の金銭が支給されていることがあります。非親族である従業員の給与額との間に、顕著な差が生じていることも珍しくありませ…

不更新条項付きの有期労働契約の雇止めが否定された例-契約書を交わした後でも不服を表明することは大事

1.不更新条項の問題 有期労働契約において、契約期間満了に際し、使用者から次期の契約更新を拒絶することを、一般に「雇止め」といいます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、第1版、平30〕3…

ハラスメントを継続的不法行為として構成する時のポイントは主観面?

1.ハラスメントを理由とする損害賠償請求 ハラスメントを理由として損害賠償を請求する時、 単発の不法行為がたくさんあるものとして構成する方法 と、 一個の継続的不法行為として構成する方法 があります。 例えば、不法行為を構成するA事実、B事実、…

名誉毀損で提訴された漫画家の方のヘッダー変更の件で思うこと

1.名誉毀損で提訴された漫画家の方に関する報道 ネット上に、 「伊藤詩織さんが提訴の漫画家、ツイッターでは自らへの『誹謗中傷』訴える ヘッダーは問題の画像」 という記事が掲載されています。 https://news.yahoo.co.jp/articles/cd133e12c421ccaed49d…

過労死の労災認定基準の時間外労働時間のカウント

1.過労死の労災認定基準 厚生労働省のパンフレットでは、「過労死」は次のとおり説明されています。 「心筋梗塞などの『心疾患』、脳梗塞などの『脳血管疾患』については、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境などの日常生活に…

フィクション(風刺画)、リツイートの権利侵害性

1.ジャーナリストによる漫画家らの提訴 ネット上に、 「伊藤詩織さん、はすみとしこさんらを提訴 『ツイッターで虚偽の内容を投稿された』」 との記事が掲載されていました。 https://news.yahoo.co.jp/articles/0f023370f34adba41267684acda4bd25c7148e57…

精神科の既往歴のない方の自殺事案-行動力を振り絞ってでも生前の状況の速やかな記録化を

1.自殺事案の労災申請の特殊性(精神障害の立証) 自殺が労災であるとして遺族が労災保険給付を受給するためには、自殺者が精神障害を発症していたことを立証する必要があります。 これは、労働者災害補償保険法12条の2の2第1項が、 「労働者が、故意…

男性差別-性犯罪の発生傾向を理由にプラットフォームから一律に男性を排除することは許されるのか?

1.男性シッターによる新規予約受付の一時停止 ネット上に、 「キッズライン、男性シッターの予約受け付けを停止 登録者の強制わいせつ事件が問題に」 という記事が掲載されていました。 https://news.yahoo.co.jp/articles/a2d5b7840a991d3a5df06abcc2989b…

退職金不支給処分・返納命令の処分事由説明書の記載を軽信するのは危険

1.処分事由の追加主張 職員に対して不利益処分が行われる場合、処分権者には「処分の事由」を記載した「説明書」を交付する義務があります(国家公務員法89条1項、地方公務員法49条1項)。 懲戒・分限などの不利益処分を受けた公務員が、不服申立を…

退職金返納命令処分を争うにあたり、懲戒免職処分の処分事由を争えるのか?

1.懲戒免職処分と退職金返納命令処分 国家公務員退職手当法12条1項1号は、 「懲戒免職等処分を受けて退職した者」 に退職金の全部又は一部を支給しない処分を行うことができるとしています。 ただ、「できる」とはいうものの、昭和60年4月30日 総…

性的指向、性自認に対する侮辱的な言動の実例

1.パワハラ防止指針 令和2年6月1日から、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)が適用されます。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ko…

企業への犯罪歴の申告義務と名の変更

1.企業から聞かれたに犯罪歴は答えなければならないのか? 企業の採用面接等で犯罪歴を聞かれた時、答えなければならないのかという論点があります。 応募者に犯罪歴がある場合、特に、それが重大であったり奇異であったりする場合、普通の企業は採用を敬…

賭け麻雀の朝日新聞記者「停職1か月」について

1.賭け麻雀の朝日新聞記者「停職1か月」 ネット上に、 「賭け麻雀の朝日新聞記者『停職1カ月』の妥当性 という記事が掲載されています。 https://news.yahoo.co.jp/articles/35d51973b42387b3ba3ffc9ffcb2c3d5f4741586?page=1 記事には、 「朝日新聞社は5…