弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

賃金を合意で減額するには、使用者の「説明」が前提となる-これから予想される労働条件の切り下げへの対応

1.「自由な意思」と合意の効力 民法上、合意は、錯誤がある、騙された、強迫されたなどといった事情でもない限り、基本的に、その効力を否定することはできません。 しかし、労働法の領域では、 「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる…

週6日・48時間勤務の労働契約の理解-固定残業代としての理解は可能か?

1.現行法上の労働時間規制 現行法上、1日の労働時間は8時間まで、1週間の労働時間は40時間までに制限されています(労働基準法32条)。これを超える所定労働時間を定めることは基本的に許容されていません。 では、こうした労働基準法の定めを無視…

和解の実体について(NGT裁判を題材に)

1.AKS側の対応の理解 先の記事で、AKS側の対応が「敗戦の弁に近い印象を受ける。」と書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/03/27/222736 新潟日報の次の記事からも、そのことは推測可能だと思います。 「訴訟でAKS側は、2…

あまりに過酷な長時間労働のもとでは、メンタルヘルス対策制度を利用できないことは過失ではない

1.メンタルヘルス対策制度を利用しなかったことと過失相殺 以前、 「若手を潰さないために-残業を命令していなくても若手が夜遅くまで残っていたら要注意」 という記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/09/15/003043 この記…

裁判の経過が教えてくれること(NGT裁判)

1.NGT裁判の弁論準備手続 ネット上に、 「NGT裁判、次回4月8日にも和解成立へ…双方が『積極的に検討』」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200327-00000076-dal-ent 記事には、和解を進めている理由として、 …

精神障害の発症を問題とする労災事件のポイント-具体的出来事の関連性

1.労災事件 労働者が労働災害により被った損害をカバーする制度には、 労基法および労災保険法に基づく労災補償制度 と、 被災労働者又はその遺族が使用者に対して行う損害賠償制度 が併存しています。 後者の損害賠償制度は、一般に労災民事訴訟(労災民…

規則違反の常態化が懲戒処分の処分量定に与える影響

1.規則違反が常態化している中で下された懲戒処分 少し前に、 「違法行為を理由に懲戒された場合、『みんなやっている。』『ここでは常態化している。』は抗弁になるか?」 という記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/03/19/…

求人票や採用時に交付される労働条件通知書は捨ててはいけない-労働条件通知書のすり替えとその救済法理

1.労働条件の明示 労働基準法15条1項は、 「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、…

出来高払制(歩合制)の労働契約と最低賃金

1.歩合制の労働契約 労働基準法27条は、 「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」 と規定しています。 こうした規定があることから分かるとおり、賃金を出来高払(…

私傷病休職からの復職にあたり配置転換を求めることはできるのか?

1.私傷病休職からの復職の可否 私傷病で一定期間就労できないことは、本来は労働契約における債務不履行であり、解雇理由になります。しかし、直ちに解雇するのは酷であることから、多くの企業では、解雇猶予の目的で私傷病休職制度が設けられています(佐…

精神的な不調があるときは、職場に明示的に相談しておいた方がいい

1.予見可能性 精神的な不調について、限界まで職場に相談しない方がいます。 事柄の性質上、職場に伝えたくないことは分かりますが、精神的な不調を感じた場合には、できるだけ早く職場に配慮を求めることをお勧めします。深刻な被害が生じることを回避す…

家族関係・親族関係が解雇の可否の判断に与える影響

1.家族関係・親族関係が解雇の可否の判断に与える影響 労使間に家族関係・親族関係がある場合、そのことは解雇の可否の判断にどのような影響を与えるのでしょうか。 労使間に家族関係・親族関係があったとしても、労働契約法上の適用除外(労働契約法22…

被害者への報復はセクハラ行為をした時の最悪手

1.ハラスメントへの対応 ハラスメントの加害者になってしまった場合、被害者には速やかに謝ってしまった方が良いと思います。軽微なハラスメント事案では、謝罪をしたことが、違法性の認定を妨げる事情として考慮されることもあります。 https://sskdlawye…

違法行為を理由に懲戒された場合、「みんなやっている。」「ここでは常態化している。」は抗弁になるか?

1.違法行為を理由とする懲戒 違法行為を理由に懲戒された労働者の方から、懲戒の効力を争いたいという相談を受けていると、しばしば「上司の指示だった。」「みんなやっている。」「この会社では、それが常態化しているのに、なぜ自分だけ。」といった不満…

性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益と行政措置要求の可能性

1.自認する性別に対応するトイレを使用する利益 昨年12月、身体的性別は男性であるものの、自認している性が女性である方に対し、女性用トイレの自由な使用を認めなかったことを違法だと判示した判決が言い渡され、マスコミで話題になりました(※ 表現に…

退職にあたり清算条項付きの書面を取り交わしていても、残業代を請求できる可能性はある

1.残業代請求の阻止を意図した清算条項 退職にあたり、使用者から清算条項付きの合意書の取り交わしを求められることがあります。 清算条項というのは、 「甲と乙は、本合意書に定めるほか、何らの債権債務もないことを、相互に確認する。」 といった文言…

人事評価に基づく賃金減額を伴う降格の有効性

1.人事評価(人事考課) 人事考課とは、 「企業内における労働者の職務の遂行度、業績、能力等の評価」 であるとされています(山川隆一ほか編著『労働関係訴訟Ⅰ」〔青林書院、初版、平30〕142頁参照)。 人事考課は、昇進、昇格・昇給、降格のほか、…

ハラスメントの認定と具体的状況の立証

1.ハラスメントの認定と具体的状況 暴言や権利行使を断念させるといった明らかに不適切な行為がなされているにもかかわらず、裁判所が不法行為への該当性(慰謝料の発生)を認めないことがあります。 そのような時、不法行為を認定できない理由として、し…

有期労働契約の期間途中での解雇の効力を争う地位確認訴訟では、雇止めの無効も主張しなければならない

1.有期雇用契約の期間途中での解雇 労働契約法17条1項は、 「使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を…

業務開始時刻(早出残業)の認定は厳しい

1.業務開始時刻と業務終了時刻の認定でタイムカードの打刻時刻の意味が異なる 時間外勤務手当(残業代)を請求するにあたっては、実労働時間を主張・立証する必要があります。実労働時間を主張・立証するにあたっては、各日の業務開始時刻・業務終了時刻を…

戒告・譴責の無効確認を求める訴えの利益

1.戒告・譴責 懲戒処分の類型の一つに、戒告や譴責と呼ばれているものがあります。これは、大抵の会社では、最も軽い懲戒処分として位置づけられています。 厚生労働省のモデル就業規則でも「けん責」は最も軽い懲戒処分とされていて、その内容は「始末書…

「明日から来なくていい」と言われたら、引継ぎをしないで辞めてもいい?

1.「明日から来なくていい」と引継ぎの問題 一般論として、会社はすぐに辞められるものではありません。 民法627条1項は、 「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は…

元雇用主が2000万円の相続財産分与の審判を受けた例

1.相続財産分与(特別縁故者) 一般の方にとって、あまり有名な仕組みではないように思われますが、特別縁故者(民法958条の3)という制度があります。 これは、相続人が存在しない場合に、家庭裁判所が、 「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続…

新型コロナウイルス感染(疑い)で休業させられた労働者の職場復帰の問題-職場復帰を拒否された方へ

1.新型コロナウイルス感染(疑い)での休業 ネット上に、 「新型コロナ、仕事でクラスターに巻き込まれたら労災はどうなる? 休業補償問題まとめ」 という記事が掲載されています。 記事は 「発熱が数日、続いていながら、PCR検査を受けられず、陽性か不明…

上司からのパワハラで精神科を受診する時の留意点

1.心理的負荷による精神障害の労災認定基準 心理的負荷により精神障害を発症した場合、労災認定を受けられることがあります。 労災が認められるためには、 「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。」 が必要…

改善の機会を与えたといえるには、どの程度の期間の観察が必要か?

1.勤務成績・業務遂行能力不良による解雇 勤務成績が悪いからといって、いきなりなされた解雇は、それほど簡単には有効になりません。使用者が労働者に対して事前に改善の機会を与えるべきであるとする裁判例は、決して少なくありません。 この改善の機会…

取引先の従業員にぞんざいな口をきいて軋轢を生じさせることは、パワハラには至らなくても解雇の正当性を基礎づける理由の一つになる

1.取引先からのハラスメント 今年の1月15日、 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 という文書が告示されました(厚生労働省告示第5号)。 https://www.mhlw.go.jp/hourei…

フリーランスの中には労働者性の認められる方が混ざっている

1.擬似労働者の問題 ネット上に、 「フリーランスや自営業者にも休業補償…政府が支援対象拡大へ」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200304-00050158-yom-pol 記事には、 「菅官房長官は4日午前の記者会見で、新型コ…

週刊誌のいう「事情を知る関係者」が法律を知っているとは限らない

1.不倫騒動で職場を訴えることはできるのか? ネット上に、 「不倫騒動でNHKを提訴 テレ朝『村上祐子』エリート夫の奇策」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200303-00610860-shincho-ent 記事には、 「テレビ朝…

裁判所からの和解勧試を「検討する」ことの意義(NGT裁判)

1.裁判所からの和解勧試を「検討する」ことの意義(NGT裁判) ネット上に、「NGT48裁判 地裁が和解提案 AKSは山口さん証人申請断念」との記事が掲載されていました。https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200302-00000545-san-soci 記事には、…