弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

非公務⇒公務型の継続的不法行為における公務員の個人責任追及の可否

1.公務員の個人責任

 民間の場合、従業員が事業に関連して不法行為をした場合、不法行為をした従業員個人とその使用者とが連帯して損害賠償責任を負います。この場合、被害者は、従業員個人だけを訴えることもできれば、会社だけを訴えることもできますし、従業員個人と会社の両方を訴えることもできます。

 他方、公務員が職務に関連して不法行為をした場合、不法行為をした公務員個人は損害賠償責任を負わず、国や公共団体だけが損害賠償責任を負います。これは公務員個人には責任が発生しないとする確立した判例法理があるからです(最三小判昭30.4.19民集9-5-534、最二小判昭53.10.20民集32-7-1367等参照)。

 しかし、不法行為の被害者には公務員個人の責任を問いたいと考える方も少なくなく、個人責任を追及することの可否は、現在においても、しばしば裁判所で争われています。

 こうした状況の中、公務員の個人責任追及の可否に関し、注目すべき判断を示した裁判例が出現しました。昨日もご紹介させて頂いた仙台高判令3.11.25労働判例ジャーナル121-56損害賠償等請求事件です。何に目を引かれるのかというと、一定の特殊な条件下においてではあるものの、公務員の個人責任を認めていることです。

2.損害賠償請求事件

 本件で被告になったのは、県立高校のアーチェリー部で外部指導者をしていた方です。

 原告になったのは、中学、高校と被告からアーチェリーの指導を受けていた方です。指導に関連して「サル」呼ばわりされたり、暴行を受けたりしたことが不法行為にあたるとして、損害賠償を請求した事件です。

 原審は公務員が個人責任を負わないとの判断のもと、原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。

 本件控訴審裁判所は、中学時代の指導が公務とはいえないことに着目し、次のとおり述べて、被告(被控訴人)個人の責任を認めました。

(裁判所の判断)

「被告の暴行等は、原告が中学生時代から『イジリ』ないし『ふざけ』として反復継続して行われた一連の行為であるといえる。高校の部活動に関しては被告が公務員である外部指導者として行った行為が含まれるが、高校でも『サル』と呼ばれるようになったそもそもの原因は、被告が、原告の中学生時代からスポーツ少年団等で指導をした仲間の感覚で、『イジリ』の続きとして『サル』と呼び、それを他の部員にも教えてしまったからにすぎない。」

このようなスポーツの指導に関する継続的な『イジリ』ないし『ふざけ』としての不法行為にあたる暴行等については、高校の部活動の指導者としての行為の部分に限れば国家賠償法1条1項により公共団体が賠償責任を負う可能性があっても、そのことで被告が、行為の一部についてのみ、民法709条の不法行為による損害賠償責任を免れると解するのは、公権力の行使による被害の救済を図ることを目的とする国家賠償法の趣旨に反するといえる。

したがって、被告は、高校の部活動の指導に関する行為についても、原告の中学生時代の行為と一体のものとして、前記・・・において認定した暴行等の不法行為による損害賠償責任を負うべきである。

3.かなり特殊な事案ではあるが・・・

 公務員の個人への責任追及は尽く否定されてきた長い歴史があります。そうした経緯を踏まえると、民間時代に起点を持つ継続的不法行為という特殊な事実関係を前提とした事例判断であるとはいえ、公務員個人の責任を認めたことは極めて異例なことです。

 控訴審裁判所に用いられた「公権力の行使による被害の救済を図ることを目的とする国家賠償法の趣旨に反する」との論理が、今後どこまで広がりを見せて行くのか、裁判例の動向が注目されます。

 

部活動の外部指導者による暴行、「サル」呼ばわりするイジリの違法性

1.外部指導者・部活動指導員の問題

 学校教育法施行規則に基づいて、

「スポーツ、文化、科学等に関する教育活動(・・・教育課程として行われるものを除く)に係る技術的な指導に従事する」

方を部活動指導員といいます(学校教育法施行規則78条の2、104条1項参照)。

 部活動指導員は、従来、顧問の教諭等と連携・協力しながら部活動のコーチ等として技術的な指導を行うものと位置付けられていた「外部指導者」という仕組みを制度化したものです。部活動の競技経験のない教諭が指導にあたるという不合理や、教員の長時間労働を是正するために導入された仕組みで、従来型の「外部指導者」と共に数多くの学校で採用されています。

https://www.mext.go.jp/prev_sports/comp/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397204_006.pdf

https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-spt_sseisaku01-000009706_3.pdf

 しかし、必ずしも教育に専門性を有している人ばかりではないためか、生徒との関わり方が不適切で問題が生じることが少なくありません。近時公刊された判例集に掲載されていた仙台高判令3.11.25労働判例ジャーナル121-56損害賠償等請求事件も、そうした事件の一つでうs。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、県立高校のアーチェリー部で外部指導者をしていた方です。

 原告になったのは、中学、高校と被告からアーチェリーの指導を受けていた方です。指導に関連して「サル」呼ばわりされたり、暴行を受けたりしたことが不法行為にあたるとして、損害賠償を請求した事件です。

 原審は公務員が個人責任を負わないとの判断のもと、原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。

 本件では被告(被控訴人)の不適切行為として、次のような事実が認定されています。

(裁判所の認定した事実)

「原告は、スポーツ少年団に加入して少年団のアーチェリー指導者の1人であった被告と知合い、間もなく少年団の練習で被告の指導を受けるようになり・・・、中学2年の平成28年7月17日に〇〇運動公園で行われたdアーチェリー大会で全体の3位の成績を挙げ・・・、中学2年頃からは、少年団やスポーツクラブの練習で被告とアーチェリーの勝負をするようになり、勝負で被告に勝つこともあった・・・。」

(中略)

「被告は、原告が中学1年生であった平成27年の夏頃から、少年団での原告の行動が活発で休憩時間の友人との話もうるさかったから、原告のことを『サル』と呼ぶようになり、原告が『サル』と呼ばれるのは嫌なので止めるように求めたこともあったが、『イジリじゃん』などと笑って言ってとりあわず、『サル』と呼ぶのをやめなかった・・・。」

(中略)

「被告は、原告が中学1年生であった平成27年の秋頃から、少年団の練習で原告と会った時などの挨拶のついでに、拳で原告の腹を叩くようになった・・・。」

「また、被告は、平成28年春以降のスポーツ少年団の指導やスポーツクラブでの練習の際,原告や他の団員に話しかけるついでなどの機会に、義足や義足でない足の先で、原告の脚のすねやふくらはぎのあたりを、時にふざけるように軽く蹴るようになった・・・。原告は、笑いながらかわしたこともあったが、脚を蹴られることについて、痛いからやめてほしいと被告に言ったこともあった・・・。しかし、被告は、『イジリじゃん』などと笑って言ってとりあわず、ふざけて原告の脚を蹴ることをやめなかった。」

(中略)

「被告は、平成28年頃、スポーツ少年団で原告にアーチェリーの矢を放つ際のフォームの指導をした際、矢を構えた原告の右手に、矢を持って矢先を近づけ、右手が矢先に当たらないように打てと指導し、矢を放った後に右手が矢に当たり、原告は右手に軽い刺し傷を負うけがをした・・・。以後、原告は、被告が矢先を右手に近づける指導をすることを拒否したため、そのような指導は1回限りであった・・・。」 

(中略)

「原告は、中学3年で中学の部活動やスポーツ少年団での練習がなくなることから、高校でもアーチェリー部に入部してアーチェリーの練習を続けるため、被告が外部指導者をしているb高校に入学することとし、正式に入部する前から、被告の個人練習や部活動に参加して、アーチェリーの指導を受けるようになった。被告は、原告が高校に入学して他のアーチェリー部員らと一緒に指導するようになった際、他の部員に対し、原告のことを『こいつサルだから。何やってもいい。』と紹介し、その後の部活動の際にも、原告が嫌がっていることを知りながらも、しばしば原告を『サル』と呼び、原告は、他の部員からも『サル』と呼ばれるようになった・・・。」

「被告は、高校の部活動での指導の際にも、挨拶代わりのように拳で原告の腹を叩く、足先で原告の脚を蹴るなどの行為を続け、フォームの指導として、矢を構えた原告の右手の先に、手に持った矢の矢はず(矢先の反対側でノックともいう。)を近づけて指導することもあった・・・。」

「原告は、平成30年5月から6月頃、2回にわたり、部活動の顧問のP5教諭に対し、被告から、腹を殴られ、脚を蹴られ、『サル』と呼ばれることについて苦情を述べ、原告の申出を受けたP5教諭は、被告に対し、これらの行為をやめるよう指導したが、被告は、腹を叩く、脚を蹴るという行為はやめたものの、『サル』と呼ぶことについては、P5教諭の指導を受けても、すぐにはやめなかった・・・。」

 このような事実認定を前提に、裁判所は、次のとおり判示して70万円の慰謝料を認定しました。

(裁判所の判断)

「前記・・・の認定に係る暴行等の性質及び態様によれば、原告は、中学生時代から『サル』と呼ばれ、『サル』と呼ぶことや、拳で腹を叩く、足先ですね付近を蹴る暴行は、高校の部活動においても『イジリ』や『ふざけ』としてしつこく継続されたものであって、原告の人格を傷つける悪質な違法行為である。また、中学生時代に1回、フォームの指導として矢先を右手に近づけてけがをさせたことも、指導としての相当性の範囲を逸脱した違法行為であるといえる。

「そして、前記・・・のとおり、被告によるしつこい暴行等の『イジリ』によって、被告の指導に不信感をもった原告は、他の部員との間でも疎外感を強め、適応障害の症状で6回にわたり通院して診療を受けるほど強いストレスを受け、高校の部活動をやめて転校せざるを得なくなったものと認められ、被告の暴行等により原告が受けた精神的苦痛の積み重ねは大きく、極めて大きな結果を招いている。

「このような肉体的、精神的苦痛の積み重ねと原告に生じた重大な結果を考慮し、一方で暴行それ自体は、比較的軽いものでけがをするようなことはほとんどなかったと認められ、また原告は、アーチェリーの競技を続けて好成績を残していること等の本件の一切の事情を考慮し、慰謝料は70万円が相当と認める。」

3.イジリだから・・・では正当化されない

 被害者・被害児童の側で、やめて欲しいと伝えても、加害者・指導者の側が真面目に取り合ってくれず、加害故意が続くことは、学校でも職場でも、しばしばみられる現象です。

 しかし、イジリだからイジメではないという理屈は、加害者独自の見解であり、合理性に乏しいというほかありません。

 児童の権利擁護についての裁判所の感覚は、年々鋭くなる傾向があるように思われます。例によって慰謝料額は僅少ですが、こうした裁判例が積み重ねられることは、不法行為抑止の観点から好ましいことだと捉えられます。

 

旅費の不正受給(詐取)で懲戒解雇の効力を争うための着眼点-他の同種処分事例との均衡が鍵になる

1.金銭的な不正行為を理由とする懲戒解雇

 会社の金銭の詐取・横領を理由とする懲戒解雇は、少額であったとしても効力が認められやすい傾向にあります。第二東京弁護士会労働問題検討委員会編著『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、初版、平30〕221頁にも、

「横領・背任、取引先へのリベートや金銭の要求等の金銭的な不正行為、同僚や上司等に対するものなど職場での暴行は、職場規律違反として懲戒事由となる。金銭的な不法行為の事例では、額の多寡を問わず懲戒解雇のような重大な処分であっても有効性は肯定されやすい

と記述されています。

 そのため、金銭の詐取・横領等を理由とする懲戒解雇の効力を争えないかという相談に対しては、多くの場合、消極的な回答を述べざるを得ない実情にあります。

 しかし、近時公刊された判例集に、長期間・多数回に渡り会社から多額の金銭を詐取したにも関わらず、懲戒解雇の効力が否定された裁判例が掲載されていました。札幌高判令3.11.17労働経済判例速報2475-3 日本郵便事件です。

2.日本郵便事件

 本件で被告になったのは、郵便局を設置し、郵便の業務等を営む株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、平成22年9月以降、〇支社金融営業部営業インストラクターを務めていた方です。平成27年6月12日から平成28年12月28日までの間、約100回に渡り旅費の不正請求を行い、正当な旅費との差額計54万2400円(内2万1000円分はクオカード)を受給したとして、平成30年3月22日、被告から懲戒解雇の意思表示を受けました。これに対し、懲戒解雇の効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起しました。一審が請求を棄却したことを受け、原告側が控訴したのが本件です。

 本件の裁判所は、次のとおり述べて、懲戒解雇は無効だと判示しました。

(裁判所の判断)

控訴人と本件服務規律違反者らのうち最も重い処分である停職3か月を受けた者とを比較すると、不正請求の期間は控訴人が約1年6か月、本件服務規律違反者が約3年6か月、不正請求の回数は控訴人が100回、本件服務規律違反者が247回、非違行為による旅費の額は控訴人が194万9014円、本件服務規律違反者が41万2550円、正当な旅費との差額は控訴人が54万2400円、本件服務規律違反者が27万6820円であり、本件服務規律違反者より担当地域の広い広域インストラクターである控訴人の方が非違行為による旅費の額や正当な旅費との差額は大きいが、不正請求に及んでいた期間や回数はむしろ少ない。

控訴人は、本件非違行為の動機や不正受給した旅費等の使途について、本来宿泊費が支給されない出張時に宿泊する際の宿泊費や訪問先の郵便局社員との懇親会あるいはその二次会などの飲食代に充てたものと説明しており、非違行為1回当たりの不正受給額が5000円程度にとどまっていることなどに照らし、この説明が不合理なものとは思われない。そして、宿泊費については、控訴人が、宿泊費が支給されない出張時に疲労や翌日の予定を考慮して宿泊していたこともうかがわれるところ、これらは全くの私用で宿泊する際の宿泊費というものではない。また、懇親会等の飲食代についても、控訴人が広域インストラクターという他の局員を指導する立場にあったこと、控訴人の出張先は広範囲に及んでおり、少なくとも控訴人が出張していた当時の慣行として、訪問先の郵便局で懇親会が多く開催されることがあったことからすれば、控訴人や訪問先の郵便局社員が全くの私的な会合として懇親会を開催していたとは考え難く、インストラクターによる指導についてその効果をより高めるためのものとして、被控訴人から具体的な指示がなかったとしても、業務の延長上という意味合いを含む会合といえるのであって、本件服務規律違反者らの過剰受給額の使途とされる『郵便局へのお茶、コーヒー、菓子等の差入代及び目標達成祝品の購入代』と同趣旨の使途に充てられたものも相当程度含まれていたと考えるのが自然である。

以上のような事情等を総合すれば、本件非違行為の態様等は、本件服務規律違反者らの中で最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者と概ね同程度のものであるといえる。

「被控訴人は、懲戒解雇処分とされた控訴人を含む3名の広域インストラクターと本件服務規律違反者らとでは、非違行為の態様の悪質性、その回数、被害金額、その使途、動機等において大きな差異がある旨主張する。」

「確かに、控訴人と本件服務規律違反者らとの間で相違している点はあるものの、前記・・・のとおり、控訴人の本件非違行為は、本件服務規律違反者らの行為に比して悪質性が顕著であるとか、控訴人がもっぱら自己の利益を図るために非違行為に及んだとまではいえず、控訴人と本件服務規律違反者らとの間で、非違行為の態様等において質的に異なったり大きな差異があったりするものとは認められない。」

他方、控訴人以外の広域インストラクター2名の非違行為の内容をみると、自ら懇意にしているホテル等から未記入の領収書を入手して、これに虚偽の宿泊日数や金額を記載するなどして偽造した領収書を用いて旅費請求を行うなどしたものである上、不正受給した金額は約149万円(不正請求回数57回)ないし約223万円(不正請求回数67回)、1回当たりの不正受給額も数万円程度に達している・・・など、非違行為の態様が、控訴人と比べても格段に悪質であるといわざるを得ない。

したがって、非違行為の態様等について、控訴人と本件服務規律違反者らの中で最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者との間では大きな差異があるとはいえない一方で、控訴人と他の広域インストラクター2名との間では大きな差異があるといえるのであって、被控訴人の上記主張は理由がない。

「本件非違行為は、控訴人が、100回という非常に多数回にわたり、旅費の不正請求を繰り返したというもので、その不正受給額(クオカード代金を含む。)も合計約54万円にのぼっている上、控訴人が広域インストラクターという営業インストラクターの中でも特に模範となるべき立場にあったことなどを踏まえると、その非違の程度が軽いとはいえない。他方で、多数の営業インストラクターが控訴人と同様の不正受給を繰り返していたなど被控訴人の旅費支給事務に杜撰ともいえる面がみられることや、控訴人に懲戒歴がなく、営業成績は優秀で被控訴人に貢献してきたこと、本件非違行為を反省して始末書を提出し、利得額を全額返還していることなど酌むべき事情も認められる。」

「そして、前記・・・及び・・・・のとおり、本件非違行為の態様等は、本件服務規律違反者らの中で最も重い停職3か月の懲戒処分を受けた者と概ね同程度のものであるといえ、本件非違行為に対する懲戒処分として懲戒解雇を選択すれば、本件非違行為に係る諸事情を踏まえても、前記停職3か月の懲戒処分を受けた者との均衡も失するといわざるを得ない。

「これらを併せ考えると、本件非違行為は、雇用関係を終了させなければならないほどの非違行為とはいえず、懲戒標準・・・『服務規律違反』の9『虚偽の申告をなしあるいは故意に届出を怠る等して、諸手当、諸給与金を不正に利得し又は利得せしめた者』のうち『基本』に該当するものとして処分を決するのが相当というべきであって、懲戒解雇を選択とすることは不合理であり、かつ相当とはいえない。」

「したがって、本件懲戒解雇は、その余の手続面等について検討するまでもなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することができないものであり、懲戒権を濫用するものとして無効と認められる。

3.他の同種処分事例との均衡に着目

 上述のとおり、二審は懲戒解雇の効力を否定しました。

 この判断のポイントになったのは、他の同種処分事例との均衡です。冒頭で述べたとおり、詐取、横領等の金銭的な不正行為は少額でも懲戒解雇が有効とされる事案が多いのですが、本件では他の同種処分事例との均衡を理由に懲戒解雇の効力が否定されました。このことは行為の性質が従来の裁判例との関係で懲戒解雇に値するようなものであったとしても、同種処分事案との兼ね合いによっては懲戒解雇の効力を争う余地が生じることを示しています。

 労働者側にとって他の同種事案でどのような懲戒処分がされているのかは必ずしも十分に分かるわけではありませんが、本裁判例は詐取・横領類型の懲戒解雇の効力を争うにあたり有益な視点を提供してくれる事例として参考になります。

 

新入社員がセクハラを他の職員に相談できなかったことに合理性があると判断された例

1.長時間経過後の供述の信用性

 一般論として、長時間経過した後の供述について裁判所に信用性を認めてもらうことは必ずしも容易ではありません。

 時間が経過すると、事案の詳細を具体的に語ることができなくなります。記憶の減退によって勘違いが生じ、客観的な証拠と矛盾することを話してしまうリスクも増します。また「それまで黙っていたのに、なぜ、今更になって言い出すのか?」という供述出現の経緯の不自然さも指摘されます。こうした要因が複合的に絡み合うため、古い出来事を対象とした供述には信用性が否定されることが少なくありません。

 しかし、近時公刊された判例集に、長期間経過後のセクシュアルハラスメントに関する供述に信用性が認められた裁判例が掲載されていました。昨日、一昨日とご紹介させて頂いている横浜地判令3.10.28労働経済判例速報2475-26 医療法人社団A事件です。

2.医療法人社団A事件

 本件は日常的なセクシュアルハラスメントを理由とする普通解雇の可否が問題となった事件です。

 本件で被告になったのは、複数の診療所を経営する医療法人社団です。

 原告になったのは、診療所の開設及び運営に関わる付帯業務一般に従事し、「次長」の肩書を用いて勤務していた方です。診療所の職員らに対して常態的にセクシュアルハラスメントを行ったことなどを理由に被告から解雇されたことを受け、その効力を争い、労働契約上の地位の確認等を請求したのが本件です。

 冒頭のテーマとの関係で意味があるのは、Q6診療所の管理栄養士として勤務していたP10に対するセクシュアルハラスメントです。

 裁判所はP10との関係で、次のような事実を認定しました。

(裁判所が認定した事実)

 原告は、平成29年10月頃、Q6診療所の休憩室において、まだ入職して間もなかった管理栄養士であるP10・・・に対し、雑談後に『頑張ってね』と声を掛けながら、手の指先でその頬を触った。また、原告は、平成30年1月、P10から仕事上のミスについて報告を受けた後、同人に『頑張ってね』と言いながら、手の指先でその頬を触った。その他にも、原告は、P10が座って仕事をしている時等に、複数回、ポンとたたくようにして、同人の方や背中を手の平で触った。・・・」

「さらに、原告は、平成30年9月上旬、前日の送別会の幹事であったP10に対し、反省会と称して食事に誘い、P10を心配して付き添っていた職員が約30分で帰宅すると、他の職員が妊娠して退職したことについて、子供をつくるタイミングではないなどと述べて同職員の夫を責める話をしたり、退職したP5について、『僕はP5さんをすごく好きだった。好きというのは、セックスをしたいという意味ではない。』といったり した。そして、原告は、何歳で初めて性交し、他の男性との間で一人の女性を取り合って勝ったなどと、恋愛や性交渉に関する経験を語り、『カウンセリングは相手を好きだと思って話せ。僕もP10さんのことを口説くつもりで今話しているんだ。』と言った。・・・」

 被告法人がQ6診療所の常勤職員から原告の言動についてのヒアリングを行ったのは、平成30年10月11日から平成30年10月16日までの間とされています。そのため、平成30年9月のエピソードはともかく、平成29年10月頃・平成30年1月頃のエピソードに関しては、供述が把握されるまでの間に10か月~1年程度の時間的隔絶が生じていることになります。これは法律家的な感覚で言うと「古い」供述に属するのですが、裁判所は、次のとおり述べて、上記事実を認定する根拠となったP10の供述に信用性を認めました。

(裁判所の判断)

「P10の修験は、Q6診療所における日常的な業務の中で、原告に『頑張ってね』と声を掛けられ、頬を触られるという出来事が約3か月のうちに2回あり、肩や背中をポンとたたかれることも何度かあったというもので、原告において自己の行為が相手の女性に不快感、苦痛を与えかねないものであることについて自覚を欠き、何のためらいもなくその行為に及んでいることを示すものであるところ、P10は、これらのことを他の職員に相談できなかったのは、平成29年10月に被告に就職したばかりであり・・・、社会人になるとこれらのことは当たり前のことなのかと考えたからである旨合理的に説明し、記憶が曖昧な点は、その旨正直に述べるなどしており、証言の信用性が高い。

「したがって、平成29年秋以降における原告におけるQ8診療所及びQ6診療所の職員らに対する上記・・・の認定事実・・・の言動は、いずれも認められる。」

3.就職直後のセクハラ被害はある程度時間が経った後でも事件化できる?

 本件の裁判所は、

「就職したばかりであり・・・、社会人になるとこれらのことは当たり前のことなのかと考えたからである」

という供述経過に関する説明に合理性を認めました。

 また、記憶が減退・曖昧になっている箇所について、その旨正直に述べていることを、供述に信用性を認める根拠として指摘しました。

 本件はセクハラ被害者からの損害賠償請求事案ではありませんが、こうした論理が認められたことは意義のあることだと思います。新卒社員が入社後まもなくセクハラ被害に遭ったようなケースでは、周囲に相談していた証跡のない事案でも(問題視していたことを対外的に表示していなかった事案でも)、1年程度であれば遡って事件にすることができるかも知れません。

 

ヒアリング・弁明の場面を録音するにあたっては事前に弁護士に相談を-当方の発言内容をコントロールすることの重要性

1.録音は諸刃の剣

 労使紛争を事件化するにあたり、録音は極めて重要な証拠になります。暴言等のハラスメントは、録音がなければ立証が不可能であることが多々みられます。懲戒処分に先立つ弁明の場面を録音しておくことは、処分当時の使用者側の認識や、重視していた事情を把握することに役立ちます。

 そのため、事件化が予想される場合に、使用者側の言動を録音しておくことは、対応として決して間違ってはいません。

 しかし、録音を証拠として活用するにあたっては、先方の発言内容だけではなく、当方の発言内容も客観的・機械的に記録されてしまうという点に注意しなければなりません。録音には、当方に不利な言動、先方に有利な言動も、そのまま記録されます。また、録音機器を準備していた事実は、使用者からの発言の不意打ち性を否定する間接事実にもなります。

 録音は取扱いを誤ると、諸刃の剣にもなりかねない繊細な証拠です。近時公刊された判例集にも、こうした録音の持つ危険性が顕在化した裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、横浜地判令3.10.28労働経済判例速報2475-26 医療法人社団A事件です。

2.医療法人社団A事件

 本件は日常的なセクシュアルハラスメントを理由とする普通解雇の可否が問題となった事件です。

 本件で被告になったのは、複数の診療所を経営する医療法人社団です。

 原告になったのは、診療所の開設及び運営に関わる付帯業務一般に従事し、「次長」の肩書を用いて勤務していた方です。診療所の職員らに対して常態的にセクシュアルハラスメントを行ったことなどを理由に被告から解雇されたことを受け、その効力を争い、労働契約上の地位の確認等を請求したのが本件です。

 本件の原告の方は、セクシュアルハラスメントに関してヒアリングを受けた時の状況を録音していましたが、その際、使用者側に迎合的な回答をしていました。

 そうした録音について、裁判所は、次のような証拠評価を行いました。なお、録音が決め手になっているわけではありませんが、本件ではセクシュアルハラスメントの事実が認定され、解雇も有効と判示されています。

(裁判所の判断)

「原告は、ヒアリングの当時は、その目的を理解できず、迎合する返答をしたが、再度弁明できる機会があるからやむを得ないと考えていたのであって、本件とヒアリングにおける発言は原告の認識や記憶を正確に反映したものではない旨主張する。」

「しかし、原告はあらかじめ内密に録音準備をし、慎重な対応をして本件ヒアリングに臨んでいる上、被告代表者から、重要な話をするので録音をする旨断りを入れられ、職員からセクハラの申告があったため事実確認をする旨の説明を受けており、事務長からも、申告された原告の言動を一つずつ読み上げられたのであるから、原告は本件ヒアリングの目的や重要性を十分に理解して事情聴取に応じたものと認めるのが相当である。被告代表者が原告に再度弁明する機会を与える可能性に言及したのは事実関係の確認が一通り終わってからであると認められるのであって・・・、この点が原稿の発言に影響を及ぼしたとは認められない。」

「したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

3.使用者側の録音もあったケースではあるが・・・

 本件は使用者側にも同じ録音があったケースであり、労働者側で録音を出さないという選択肢のあった事案ではありません。

 そのため、自爆事案とは評価できないのですが、裁判所の判示は録音の両面性を理解するにあたり参考になります。

 録音は一歩間違うと当方にとって不利な結果を惹起してしまう可能性があります。したがって、録音を行うにあたっては、事前に録音現場での当方の発言内容を検討・計画しておく必要があります。これは非専門家の方が思いつきでできることではないため、労働事件に慣れた弁護士の関与の下で行うことが望ましいように思われます。

 

セクハラのヒアリングにどのように応じるべきか

1.改善の余地(改善可能性)

 規律違反行為を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、改善の余地は重要な考慮要素になります。佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁も、規律違反行為とする普通解雇の有効性について、

「その態様、程度や回数、改善の余地の有無等から、労働契約の継続が困難な受胎となっているかにより、解雇の有効性を判断することになる」

と記述しています。

 この改善の余地(改善可能性)との関係で、規律違反行為に関するヒアリングに、どのように臨むのかという問題あります。反省しているというと使用者側から嵩かかってこられかねません。しかし、反省しないという態度を貫くと、今度は改善可能性がないとして、解雇が有効になりやすくなることが懸念されます。

 そのため、規律違反行為でヒアリングを受けるにあたっては、

何を、どのように言うのか

を事前に十分に検討しておくことが重要です。近時公刊された判例集にも、そのことが分かる裁判例が掲載されていました。横浜地判令3.10.28労働経済判例速報2475-26 医療法人社団A事件です。

1.医療法人社団A事件

 本件は日常的なセクシュアルハラスメントを理由とする普通解雇の可否が問題となった事件です。

 本件で被告になったのは、複数の診療所を経営する医療法人社団です。

 原告になったのは、診療所の開設及び運営に関わる付帯業務一般に従事し、「次長」の肩書を用いて勤務していた方です。診療所の職員らに対して常態的にセクシュアルハラスメントを行ったことなどを理由に被告から解雇されたことを受け、その効力を争い、労働契約上の地位の確認等を請求したのが本件です。

 この事件の裁判所は、セクシュアルハラスメントの事実を認定したうえ、次のとおり述べて解雇の効力を維持しました。

(裁判所の判断)

「原告は、被告の管理職として、率先して職場環境を改善すべき立場にありながら、平成23年に自らセクハラと受け止められる言動をし、Q6診療所の常勤職員からの信頼を失ってその全員が退職するという事態を招いたもので、その後、被告代表者及び事務長から注意、指導を受け、自己の言動の問題点を認識し、改善する機会はあったにもかかわらず、改善するということなく、酒宴の場のみならず、業務の指導という名目で診療所内においても、女性職員らが不快、苦痛に感じるセクハラ行為を繰り返したのであるから、原告の行為は、その職責、態様等に照らして著しく不適切なものである。」

「また、原告は、平成30年に実施した本件ヒアリングの際、平成23年当時と同様に、セクハラの意図はなかったなどという弁明を繰り返し、自己の言動がセクハラに該当して不適切なことであることについての自覚を書く姿勢を示していたことからすれば、原告の言動について改善を期待することは困難というべきである。

「さらに、原告は理事長及び事務長に次ぐ管理職の立場にあり、その他の職員は医師、看護師、管理管理士であることからすると、配置転換により原告の解雇を回避する措置を講ずることも困難であると認められる。」

「そうすると、平成23年の被告代表者による注意、指導が口頭によるものにとどまっていたことや、原告が被告において長年に渡り相応の貢献をしてきたと認められることなどを考慮しても、被告が、職員への影響を考えて、原告に対し厳正な愛度で臨んだことはやむを得ないものがあると認められる。」

「以上によれば、本件解雇は、客観的に合類的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、解雇権を濫用したものとはいえず、本件解雇は有効である。」

3.不合理な弁明が普通解雇を有効とする方向で考慮された

 以上のとおり、本件の裁判所は、原告が不合理な弁明を行ったことを、改善可能性を否定する根拠として用い、普通解雇を有効だと判示しました。

 この事案からも分かるとおり、ヒアリング対応や弁明は、思いつくまま、取り敢えずしておきさえすれば良いというものではありません。

 規律違反行為で調査対象になった場合には、その時から弁護士を関与させ、訴訟を見据えたうえで、どのタイミングで何を言うのかを検討しておく必要があります。

 

やはり高かった、「過小な要求」類型のパワーハラスメント成立の壁

1.パワーハラスメントの類型-過小な要求

 このパワーハラスメントの類型の一つに、

「過小な要求」

があります。

 過小な要求とは、

「業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと」

を意味します。例えば、

管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせることや、

気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

が該当します(厚生労働省告示第5号 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針参照)。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

 以前、行き過ぎた退職勧奨と相俟って、諸規程類を書き写させることが「過小な要求」であり違法だと判示された裁判例をご紹介しました。

規則類・諸規程類を書き写させることはパワハラになるか? - 弁護士 師子角允彬のブログ

 この記事の中でも言及しましたが、やはり「過小な要求」類型のパワーハラスメントが違法だと言えるためのハードルは高かったようです。諸規定類の書き写しが違法だと判示された部分が、上級審で破棄されました。破棄した裁判例は、昨日もご紹介した、東京高判令2.10.21労働判例1260-5 東武バス日光ほか事件です。

2.東武バス日光ほか事件

本件で被告(控訴人)になったのは、一般乗合旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社とその役職員数名です。

 原告に(被控訴人)なったのは、被告に対して正社員として入社し、路線バスの運転手として働いていた方です。男子高校生や女子高校生に対する不適切な言動を行ったことを理由に退職勧奨を受けたことなどを理由に、被告らに対して慰謝料等を請求したのが本件です。

 一審裁判所は、退職勧奨の違法性を認め、原告の請求を一部認容する判決を言い渡しました。これに対し会社側が控訴したのが本件です。

 慰謝料の発生原因として、原告は、退職勧奨に加え、運転士服務心得の筆写を命じられたことなどを主張しました。こうした指示は「過小な要求」であり、パワーハラスメントとして不法行為が成立するというのが原告の主張の骨子です。

 これについて、一審裁判所は、退職勧奨と相俟って不法行為を構成すると判示しました。しかし、二審裁判所は、次のとおり述べて、筆写を命じた行為等の違法性を否定しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、本件指示⑦(運転士服務心得の筆写と命じたこと等 括弧内筆者)が過小な要求であり、パワーハラスメントとして不法行為が成立すると主張する。」

「そこで検討するに、使用者が労働者に対してした業務上の指示・指導が、業務上の必要性・相当性を欠くなど、社会通念上許容される業務上の指示・指導の範囲を超えたものであり、これにより労働者に過重な心理的負担を与えたといえる場合には、当該指示・指導は違法なものとして不法行為に当たると解するのが相当である。」

「これを本件についてみると、前記・・・において認定・説示した事情に照らせば、控訴人会社において、被控訴人に対し、同人が惹起した苦情案件について反省を深めさせて再発防止を図るため、直ちに乗務に復帰させるのでなく、一定期間乗務をさせないで教育指導を実施することは、業務上の必要に基づく指示命令として、適法に行い得るものである。」

「そして、前記補正の上引用した認定事実によれば、控訴人会社は、被控訴人が傷病休暇明けであるという経緯を踏まえ、教育指導の開始当初は業務復帰訓練として特段の作業をさせず、その後は、運転士服務心得の部分的な閲読・筆写、過去の苦情案件に係るドライブレコーダー映像の視聴をさせながら、被控訴人に過去の苦情案件を惹起した原因について紙に記載させることを複数回繰り返したものであるが、このような行為が、前記のような教育指導の目的の範囲から逸脱するものであるとはいえない。また、前記のとおり同様の作業を複数回繰り返させたことについても、前記補正の上引用した認定事実によれば、被控訴人は、教育カリキュラム実施中の被控訴人の目付きその他の態度が良くないなどとして、改善意欲が十分でないと判断されていたこと(前記補正の上引用する認定事実・・・。被控訴人は、その後の統括会社での招致教育の際に「職場の方々をなるべく敵だと思わないよう努力します」などと感想を述べる・・・など、控訴人会社が行う指導について相当の不満や反発心を抱いていたものと推認されることも考慮すると、控訴人会社による上記判断が根拠を欠くものであったとは認められない。)や、被控訴人の記載した反省文の内容等が比較的簡単なものにとどまっており・・・、内省の深まりに疑念を生ぜしめるものであったことは否定できないことからすれば、必要性を欠くものであったとも認め難い。

「そうすると、本件指示⑦については、業務上の必要に基づく指示、指導の範囲内の行為ということができ、これをもって、過小な要求として不法行為を構成するものとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」

「これに対し、被控訴人は、本件指示⑦について、専ら被控訴人に苦痛を与えることを目的とした懲罰的な措置であるなどと主張するが、本件指示が被控訴人に対する乗務復帰に向けた教育指導として行われたものであり、業務上の必要に基づく指示、指導の範囲内のものであることは上記認定・説示のとおりであるから、上記主張は、採用できない。」

3.諸規定類の筆写に何か意味があるのか?

 就業規則や諸規程類の筆写は、しばしばハラスメントへの該当性が問題になります。

 個人的な経験の範囲で言うと、法律や規則を筆写したところで、その内容が頭に入ることはありません。私の感覚では、就業規則や諸規程類の筆写は、これと同様の行為であり、嫌がらせ以外に何の意味があるのか全く分かりません。

 しかし、存外適法とされることが多く、本件でも適法と判示されました。

 一審がこれを違法だと判示した時、活用できる裁判例が出たと思ったのですが、二審で破棄されてしまい、大変残念に思われます。