弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の懲戒処分-情報漏洩で懲戒免職された公務員について、退職手当も全額不支給とされた例

1.退職手当支給制限処分

 懲戒免職を受けて退職した国家公務員に対しては、退職手当の全部又は一部を支給しない処分をするこことが認められています(国家公務員退職手当法12条1項)

 この条文の運用は、非違の発生を抑止するという制度目的に留意し、全部不支給が原則とされています(国家公務員退職手当法の運用方針 昭和60年4月30日 総人第261号 最終改正 令和元年9月5日閣人人第256号 参照)。

 これは国家公務員についてのルールですが、地方公務員に対しても条例等で類似するルールが定められているのが通例です。

 しかし、懲戒免職になったからといって、必ずしも退職手当の全額が不支給になるわけではありません。例えば、仙台高判令3.3.24労働判例ジャーナル112-48 福島県・県教委事件は、飲酒運転をして懲戒免職処分を受けた地方公務員の退職手当全部不支給処分の可否が問題になった事件において、

「本件運用方針は、裁判所がこれを尊重すべきものであるとはいえるが、処分行政庁の内部基準にすぎないものであるから、本件運用方針に従った処分について、その判断が重要な事実の基礎を欠くとか社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる特段の事情がない限り、裁量権の行使に逸脱又は濫用はないと直ちにいえるものではなく、当該事案の個別事情も踏まえて、裁量権の行使に逸脱又は濫用がないかを検討し判断すべきである」

と述べたうえ、全部不支給処分の取消請求を認めています。

 このように懲戒免職処分を受けた場合、退職手当は、全部不支給になる場合と、ならない場合とがあり、その分水嶺は実務家の関心事となっています。

 こうした状況のもと、懲戒免職された地方公務員について、退職手当の全額を不支給とする退職手当支給制限処分の適法性が肯定された事案が、近時公刊された判例集に掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介させて頂いた、大阪地判令3.3.29労働判例ジャーナル113-42 堺市事件です。

2.堺市事件

 本件は、選挙事務等の業務に関して取り扱っていた被告堺市の選挙有権者データを無断で持ち帰り利用したこと等を理由に、懲戒免職処分・退職手当の全額を不支給とする退職手当支給制限処分(本件支給制限処分)を受けた原告職員が、これら処分の取消を求めて裁判所に出訴した事件です。

 本件支給制限処分では、処分の理由として、

「『被処分者は、平成18年度から平成23年度において在籍していた北区選挙管理委員会事務局(北区企画総務課)において、業務上取り扱っていた選挙事務等の補助システム(以下『選挙補助システム』)を上司に無断で自宅に持ち帰り、保守作業を行うとともに、全市域の約68万人の選挙有権者データを持ち帰り、自ら改良したシステム(以下『自作システム』)の動作確認に利用していた。』(以下『処分事由〔1〕』という。)」

「『平成24年4月に公益財団法人堺市産業振興センターに異動となった後も、自宅において自作システムの改良を重ね、堺区選挙管理委員会事務局の職員を通じ、堺区の選挙システム用パソコンの空き領域に自作システムを取り込み、自作システムの動作確認を行った。』(以下『処分事由〔2〕』という。)」

「『また、平成25年8月頃から平成27年1月にかけて複数の民間企業や自治体に対し自作システムの売込みを行っていた。』(以下『処分事由〔3〕』という。)」

「『平成26年6月、被処分者は、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の事務局長から、出退勤管理業務のシステム化について依頼を受けた。システムの構築の過程で当該団体職員から従業員の個人情報を含むデータを受け取っていたが、システム稼働後も預かった個人情報を返却することなく、被処分者所有のポータブルハードディスクに保管し続けていた。』(以下『処分事由〔4〕』という。)」

「『被処分者は、平成27年4月、会計室に移動となった際、公益財団法人堺市産業振興センターの個人情報を含む業務関連データを無断で被処分者所有のポータブルハードディスクに移し、個人で契約していた民間のレンタルサーバーに保存した。その際、ポータブルハードディスク内には選挙有権者の個人情報を含む様々なデータも交じっており、これらデータが平成27年4月から6月までの間、インターネット上で閲覧可能な状態にあったもの。』(以下『処分事由〔5〕』という。)」

「『平成27年6月、市政情報課に匿名で通報があり、調査した結果、約68万人の選挙有権者の個人情報、公益財団法人堺市産業振興センターの事業に参加した方の個人情報、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の従業員の個人情報等が流出していることが判明したもの。』(以下『処分事由〔6〕』という。)」

「『また事情聴取において、明確な証言を行わず、自宅のパソコンやポータブルハードディスクのデータを消去、初期化する等、事案の全容解明に時間を要することとなったものである。』(以下『処分事由〔7〕』という。)」

が、また、勘案された内容として、

「〔1〕個人情報を含む業務データを無断で自宅に持ち帰ったこと。」

「〔2〕自宅に持ち帰った選挙補助システムを改良して自作のシステムを開発し,複数の民間企業等に対して売り込みを行ったこと。」

「〔3〕個人情報を含む業務データを、民間のレンタルサーバーに保存し、約68万人の選挙有権者の個人情報,公益財団法人堺市産業振興センターの事業に参加した方の個人情報、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の従業員の個人情報等の流出を招いたこと。」

「〔4〕事情聴取において、明確な証言を行わず、また持ち帰ったデータを消去、初期化する等、事実解明の遅延を招いたこと。」

「〔5〕上記〔1〕~〔4〕の行為により、市政に対する重大な信用失墜を招いたこと。」

が挙げられていました。

 これに対し、原告は、昭和56年4月に被告に採用されてから平成27年12月まで約30年間に渡り良好な勤務状況で勤務してきたこと等が考慮されていないとして、本件支給制限処分の適法性を争いました。

 裁判所は、次のとおり述べて、本件支給制限処分は適法だと判示しました。

(裁判所の判断)

退職手当の性格は、勤続報償的要素のほか、生活保障的要素、賃金後払い的要素が含まれると解されるものの、上記・・・で認定説示したとおり、本件懲戒免職処分の各処分事由に係る原告の非違行為の内容は悪質といわざるを得ないものであり、原告が占めていた職の職務及び責任、その勤務の状況を踏まえても、公務に対する信頼に消極的影響を及ぼし、原告の継続勤務の功を抹消するものであるといわざるを得ない。

「なお、本件退職手当条例は、国家公務員退職手当法とほぼ同様の文言を用いた規定となっているところ、国家公務員の退職手当法の運用方針においては、懲戒免職処分がされた場合、退職手当を全部不支給とすることを原則とし、例外的に退職手当一部不支給処分とすることができるとする4項目・・・を定めるが、本件は、このいずれにも該当しない。また、本件退職手当条例には、処分をする際、被処分者に対して告知・聴聞の機会を与えることを定めた規定は存しないところ・・・、原告に対して実質的な弁明の機会も与えられていたといえることは上記・・・で説示したところと同様である。

以上によれば、原告が約30年にわたり被告に勤務してきたことのほか、配属先で様々なコンピュータシステムを開発して業務の効率化に寄与してきたこと、とりわけ選挙補助システムによる予算削減を含めた功績があるといった原告の主張内容を踏まえても、退職手当の全部を不支給とした被告の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとまではいうことはできない。

「なお、原告は、被告による不適切かつ不十分な報道発表・マスコミ対応によって、被告全体としての個人情報管理が不適切であったとの世論の評価を招き、公務に対する信頼の毀損に繋がったとも主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。」

以上によれば、本件支給制限処分は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものとは認められず、同処分は違法であるとはいえない。

3.運用方針どおりにドライな判断がされた例

 本件は、仙台高判令3.3.24労働判例ジャーナル112-48 福島県・県教委事件とは異なり、運用方針どおりに、比較的あっさりと、退職手当の全額を不支給とする本件支給制限処分の適法性を肯定しました。

 また、懲戒免職処分の後に改めて弁明を徴してから行うのではなく、懲戒免職処分と同時に退職手当支給制限処分をすることを適法としました。

 福島県・県教委事件のような裁判例もあるため期待していたのですが、やはり、原則不支給の壁を崩すのは簡単ではなさそうです。

公務員の懲戒処分-弁明手続は重要な情状事実の発覚以前のもので足りるか?

1.公務員の懲戒処分

 国家公務員法にしても、地方公務員法にしても、懲戒処分を行うにあたっての手続を法定しているわけではありません。処分に際して処分事由を記載した説明書の交付が必要とされているだけです(国家公務員法89条1項、49条1項参照)。

 しかし、事前に弁明の機会を付与することが不要かというと、そこまで割り切った考え方がされているわけではありません。

 例えば、福岡高判平18.11.9労働判例956-69 熊本県教委(教員・懲戒免職処分)は、市町村立学校の教職員への懲戒免職処分の効力が問題になった事案において、

「いやしくも、懲戒処分のような不利益処分、なかんずく免職処分をする場合には、適正手続の保障に十分意を用いるべきであって、中でもその中核である弁明の機会については例外なく保障することが必要であるものというべきである。」

と判示しています。

 また、高松高判平23.5.10労働判例1029-5 高知県(酒酔い運転・懲戒免職)事件も、地方公務員への懲戒免職の可否が問題になった事案において、

「懲戒免職処分の基礎となる事実の認定に影響を及ぼし、ひいては処分の内容に影響を及ぼす相当程度の可能性があるにもかかわらず、弁明の機会を与えなかった場合には、裁量権の逸脱があるものとして当該懲戒免職処分には違法があるというべきである。」

と結果が覆る可能性があるにも関わらず弁明の機会付与をしないことは違法だと判示しています。

 こうした裁判例を踏まえ、懲戒処分が行われるにあたっては、何等かの事前手続が踏まれるのが普通です。

 しかし、手続が法定されていないためか、実務上、事情聴取と弁明の機会付与が渾然一体となった運用が行われることがあります。

 例えば、津地判令2.8.20労働判例ジャーナル105-28 津市事件は、地方公務員に対する懲戒免職処分の効力が問題となった事案において、

「原告は、被告津市の事情聴取について、不利益処分の内容や根拠法令を告知した上で行われたものではなく、処分を行うための事実調査にすぎないものであった旨主張する。しかしながら、本件においては、原告に対して、懲戒免職処分がされること等の告知はされていなかったものの、原告が懲戒処分を受け得ることを十分予測し得る状況で、弁明の機会が実質的に付与されていたといい得る程度の手続きが行われたことは上記・・・のとおりであるから、処分の内容の告知等を欠いたことは上記認定判断を左右しない。」

と判示し、不利益処分の内容や根拠法令の告知がなくても、処分の効力には特段の影響を与えないと判示しています。

 このように公務員の懲戒処分を行うにあたっての弁明手続は、かなりラフです。こうした実情を踏まえ、どこまでラフにすることが許容されるのかを注視していたところ、近時公刊された判例集に、目を引く裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、大阪地判令3.3.29労働判例ジャーナル113-42 堺市事件です。何が目を引くのかというと、弁明の手続後に重要な情状事実が発覚しているにもかかわらず、改めて弁明の機会を設けなかったことについて、問題ないと判断されている点です。

2.堺市事件

 本件は、選挙事務等の業務に関して取り扱っていた被告堺市の選挙有権者データを無断で持ち帰り利用したこと等を理由に懲戒免職処分を受けた原告職員が、その取消を求めて裁判所に出訴した事件です。

 本件で処分事由とされたのは、次の7つです。

「『被処分者は、平成18年度から平成23年度において在籍していた北区選挙管理委員会事務局(北区企画総務課)において、業務上取り扱っていた選挙事務等の補助システム(以下『選挙補助システム』)を上司に無断で自宅に持ち帰り、保守作業を行うとともに、全市域の約68万人の選挙有権者データを持ち帰り、自ら改良したシステム(以下『自作システム』)の動作確認に利用していた。』(以下『処分事由〔1〕』という。)」

「『平成24年4月に公益財団法人堺市産業振興センターに異動となった後も、自宅において自作システムの改良を重ね、堺区選挙管理委員会事務局の職員を通じ、堺区の選挙システム用パソコンの空き領域に自作システムを取り込み、自作システムの動作確認を行った。』(以下『処分事由〔2〕』という。)」

「『また、平成25年8月頃から平成27年1月にかけて複数の民間企業や自治体に対し自作システムの売込みを行っていた。』(以下『処分事由〔3〕』という。)」

「『平成26年6月、被処分者は、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の事務局長から、出退勤管理業務のシステム化について依頼を受けた。システムの構築の過程で当該団体職員から従業員の個人情報を含むデータを受け取っていたが、システム稼働後も預かった個人情報を返却することなく、被処分者所有のポータブルハードディスクに保管し続けていた。』(以下『処分事由〔4〕』という。)」

「『被処分者は、平成27年4月、会計室に移動となった際、公益財団法人堺市産業振興センターの個人情報を含む業務関連データを無断で被処分者所有のポータブルハードディスクに移し、個人で契約していた民間のレンタルサーバーに保存した。その際、ポータブルハードディスク内には選挙有権者の個人情報を含む様々なデータも交じっており、これらデータが平成27年4月から6月までの間、インターネット上で閲覧可能な状態にあったもの。』(以下『処分事由〔5〕』という。)」

「『平成27年6月、市政情報課に匿名で通報があり、調査した結果、約68万人の選挙有権者の個人情報、公益財団法人堺市産業振興センターの事業に参加した方の個人情報、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の従業員の個人情報等が流出していることが判明したもの。』(以下『処分事由〔6〕』という。)」

「『また事情聴取において、明確な証言を行わず、自宅のパソコンやポータブルハードディスクのデータを消去、初期化する等、事案の全容解明に時間を要することとなったものである。』(以下『処分事由〔7〕』という。)」

 本件で、原告は、余分事由に係る事実関係のほか、処分が行われるに至る手続経過も問題にしました。

 具体的には、

「原告は、情報流出事案に関する事実解明のためのヒアリングを受けているが、これは飽くまでも事案解明のために行われたものであって、懲戒処分に係る手続であることは告げられておらず、懲戒処分を前提として原告から弁明を聴取するための機会ではなかった。」

「また、有権者データのインターネット上への流出の可能性が初めて発覚したのは、平成27年11月23日のことであり、同データのファイルに外部(2名のIPアドレス)からアクセスがあったことが判明したのは、同年12月11日のことであった。しかし、これらの事実が判明して以降には、原告に対するヒアリングさえ行われておらず、弁明を聴取する機会は一切設けられなかった。

本件懲戒免職処分の主たる理由は、有権者データがインターネット上に流出したことにあると考えられるところ、上述のとおりそれが確認されたのは同年12月11日であり、その僅か3日後である同年14日に本件懲戒免職処分がなされている。このことからも、本件懲戒免職処分が、原告に対して弁明の機会を与えることを一切せずに拙速になされたことは明らかであり、適正な手続を欠くことは明白である。

と主張しました。

 要するに、本件懲戒免職処分の帰趨を左右するような重要な情状事実が発覚したにもかかわらず、それに対して改めて事情聴取の機会を設けることなく懲戒免職処分を強行したことは問題だということです。

 こうした問題提起に対し、裁判所は、次のとおり述べて、違法性はないと判示しました。

(裁判所の判断)

「原告は、情報流出事案に関する事案解明のためのヒアリング・事情聴取を受けているが、これらは飽くまでも事案解明のために行われたものであって、懲戒処分に係る手続であることは告げられていなかったから、懲戒処分を前提として原告から弁明を聴取するための機会ではなかった旨主張する。」

「しかしながら、本件懲戒手続条例には、懲戒処分をする際、被処分者に対して告知・聴聞の機会を与えることを定めた規定は存しない・・・。」

「また、処分行政庁は、本件懲戒免職処分をするに先立ち、被告の人事課、堺市選挙管理委員会事務局、産業振興センター及び堺市教育委員会事務局において、原告に対し、平成27年7月17日から同年10月2日までの間に、事態の進展に合わせて、多数回のヒアリングを行っている。そして、証拠・・・によれば、その内容は本件懲戒処分の各処分事由に関する事実関係や原告の認識・意見を聴き取るものであり、これに対して原告は特に制約されることなく説明していることが認められる。」

「この点、原告は、有権者データのインターネット上への流出の可能性が初めて発覚したのは、平成27年11月23日のことであり、そのファイルに外部(2名のIPアドレス)からアクセスがあったことが判明したのは、同年12月11日のことであったのに、それ以降に、原告に対するヒアリングさえ行われず、弁明を聴取する機会はなかった旨主張するが、上記・・・で認定したとおり、同年9月時点では既に有権者データ等の流出の可能性や外部の者によるアクセスが想定されている状況にあり、原告に対するヒアリングもかかる状況を前提に行われているのであるから、原告に対する弁明の機会を欠くこととなるものではない。

「以上によれば、原告に対しては、本件懲戒処分をするのに先立ち、実質的な弁明の機会も与えられていたといえ、この点に関する原告の主張は採用できない。」

3.想定されていれば、それでいいのか?

 実際に情報流出が生じたのかどうかは、本件の処分事由との関係で、かなり重要な意味を持ちます。その事実について、被処分者の認識を問う機会を改めて付与しなかったことについて、安易にすぎるのではないかという感はあります。

 しかし、上述のとおり、裁判所は、ヒアリングの際に想定されていた出来事である以上、改めて弁明の機会を設けなくても問題ないと判示しました。

 判断に疑問はあるものの、事前手続のラフさを一歩進めた裁判例が出されたことは、留意しておく必要があります。

 

情報漏洩で懲戒免職になった例

1.情報漏洩の処分量定

 公務員の懲戒処分の効力を争う事件で、情報漏洩についての処分量定が問題になることは少なくありません。しかし、対象となる情報の性質や量、実際に外部への漏洩が生じたのかなどの事実関係が多岐に渡っているため、何を・どこまでやれば・どのような処分が下るのかは、必ずしも明確に予測できるわけではありません。

 そのため、量定感覚を磨くには、公刊物で裁判例が公表されるたびに、その内容を精査し、記憶に留めておくようにするよりほかありません。近時公刊された判例集に、懲戒免職が有効とされた裁判例(大阪地判令3.3.29労働判例ジャーナル113-42 堺市事件)が掲載されていたので、備忘を兼ね、ご紹介せて頂きます。

2.堺市事件

 本件は、選挙事務等の業務に関して取り扱っていた被告堺市の選挙有権者データを無断で持ち帰り利用したこと等を理由に懲戒免職処分を受けた原告職員が、その取消を求めて裁判所に出訴した事件です。

 本件で処分事由とされたのは、次の7つです。原告は事実関係を争いましたが、結局、いずれの事実も裁判所で認定されています。

「『被処分者は、平成18年度から平成23年度において在籍していた北区選挙管理委員会事務局(北区企画総務課)において、業務上取り扱っていた選挙事務等の補助システム(以下『選挙補助システム』)を上司に無断で自宅に持ち帰り、保守作業を行うとともに、全市域の約68万人の選挙有権者データを持ち帰り、自ら改良したシステム(以下『自作システム』)の動作確認に利用していた。』(以下『処分事由〔1〕』という。)」

「『平成24年4月に公益財団法人堺市産業振興センターに異動となった後も、自宅において自作システムの改良を重ね、堺区選挙管理委員会事務局の職員を通じ、堺区の選挙システム用パソコンの空き領域に自作システムを取り込み、自作システムの動作確認を行った。』(以下『処分事由〔2〕』という。)」

「『また、平成25年8月頃から平成27年1月にかけて複数の民間企業や自治体に対し自作システムの売込みを行っていた。』(以下『処分事由〔3〕』という。)」

「『平成26年6月、被処分者は、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の事務局長から、出退勤管理業務のシステム化について依頼を受けた。システムの構築の過程で当該団体職員から従業員の個人情報を含むデータを受け取っていたが、システム稼働後も預かった個人情報を返却することなく、被処分者所有のポータブルハードディスクに保管し続けていた。』(以下『処分事由〔4〕』という。)」

「『被処分者は、平成27年4月、会計室に移動となった際、公益財団法人堺市産業振興センターの個人情報を含む業務関連データを無断で被処分者所有のポータブルハードディスクに移し、個人で契約していた民間のレンタルサーバーに保存した。その際、ポータブルハードディスク内には選挙有権者の個人情報を含む様々なデータも交じっており、これらデータが平成27年4月から6月までの間、インターネット上で閲覧可能な状態にあったもの。』(以下『処分事由〔5〕』という。)」

「『平成27年6月、市政情報課に匿名で通報があり、調査した結果、約68万人の選挙有権者の個人情報、公益財団法人堺市産業振興センターの事業に参加した方の個人情報、公益財団法人堺市教育スポーツ振興事業団の従業員の個人情報等が流出していることが判明したもの。』(以下『処分事由〔6〕』という。)」

「『また事情聴取において、明確な証言を行わず、自宅のパソコンやポータブルハードディスクのデータを消去、初期化する等、事案の全容解明に時間を要することとなったものである。』(以下『処分事由〔7〕』という。)」

 裁判所は、処分事由〔1〕~〔5〕を非違行為と認めたうえ、次のとおり判示し、懲戒免職処分を選択した被告の判断は適法であると判示しました。

(裁判所の判断)

「堺市職員の懲戒処分の基準に関する規則5条1項は

『第2条及び第3条の規定による懲戒処分(以下この条において単に『懲戒処分』という。)を行う場合において、複数の非違行為に該当するとき、虚偽の報告を行ったときその他処分を加重すべき事情があるときは、当該懲戒処分より重い懲戒処分を行うことができる。』

と定めている。」

「前述のとおり、処分事由〔1〕ないし〔5〕に係る原告の非違行為は、それぞれ、同規則2条に定められた非違行為(これに準じるものを含む。)に該当するものであるところ、処分事由〔3〕及び〔5〕は標準的な懲戒処分の種類として免職を含む同規則別表

『12 職務上知ることのできた秘密を漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせること。(免職又は停職)』

に該当し、又はこれに準ずるものである上、これらを中心に、複数の非違行為に該当するものとして加重すべき事情も認められるところである。」

「しかるところ、同規則4条は、

『前条の規定により懲戒処分を行う場合において、当該職員が行った非違行為の態様及び結果、動機、故意若しくは過失の別又は悪質性の程度、当該職員の職責、当該非違行為の前後の当該職員の態度、他の職員又は社会に与える影響その他懲戒処分の検討に当たり必要な事項を考慮し、懲戒処分の要否及び処分の内容を決定するものとする。』

として、上記・・・で述べた判断枠組みと同旨の考慮事情を定めている。」

「そこで、処分事由〔1〕ないし〔5〕に係る非違行為やこれに関連する事実である処分事由〔6〕及び〔7〕について更に検討するに、なるほど、本件では、被告において原告が個人的に開発した選挙補助システムを採用し、その後の改良作業を一時任せていたことや、産業振興センターから教育スポーツ振興事業団へ異動した原告の元上司が個人的関係から原告にシステムの開発依頼をしたことが、上記の事態に結びついた側面もあること、有権者データの流出の範囲に関し、多数の者が閲覧したような事実や悪用された事実は現在のところ確認されていないことのほか、原告は約30年以上にわたり懲戒処分等を受けることなく被告にて勤務し、その中で作成した選挙補助システムが被告に一定の利便をもたらしたといい得ること等、原告の主張する諸事情も存するところではある。

しかしながら、原告は、本件個人情報等を無断で自宅に持ち帰って長期間にわたって保有し続け、本件有権者情報を私的に行っていた自作システムの開発のために利用した上、自作システムの販売等のために、少なくとも重大な過失により、本件有権者データや本件参加者らデータ等の極めて高度かつ多量の個人情報を第三者から閲覧可能な状態にあった本件レンタルサーバー上に保管した結果、これらがインターネット上に流出する事態を招いたものである。

また、・・・原告は平成21年2月から平成24年3月31日までの間、北区における情報セキュリティに関する知識普及・啓発等の役割を担う情報化推進員に選任されていたものであり、情報セキュリティについて高い意識を持つべき立場にあったところ、長期間にわたり被告の情報セキュリティに関する諸規定に反する行動をとった上、流出の事態を招いたものであって、原告の個人情報の適切な管理に対する意識の乏しさは明らかというほかない。」

さらに、かかる事態そのものによる社会的影響は大きく、被告の調査等に係る人的物的負担及び被告に対する信頼低下等の支障も軽視できないものがある(現に本件選挙有権者データの流出に関して、被告の選挙有権者等約1000名が被告に対して損害賠償請求訴訟を提起するに至っている。)。

加えて、ポータブルディスクやパソコンの保存データ等の消去など、原告の事後の行動は、当時の原告の健康状態等を踏まえたとしても、不適切で、被告の損害を増大させたものといわざるを得ないものである。

本件は、被告の定めた懲戒処分の基準に照らし、原告の非違行為に対する懲戒処分として免職処分も検討されるべき事案であるところ、先に述べた非違行為の態様の悪質性や結果の重大性に加えて、その動機、過失の程度、事後の原告の対応状況及び社会的影響の程度等を踏まえると、処分行政庁が原告に対する懲戒処分として免職処分を選択したことが、社会通念に照らして著しく妥当を欠くものであったということはできない。

「なお、原告は、被告がヒアリングデータを隠滅しており、原告のみを非難の対象とすることで責任逃れをしており、平等原則に違反するなどと主張してもいるが、原告の上記非違行為は、原告の認識の甘さや長期間にわたる私的目的に基づく行動であるにとどまらず、自作システムの外部機関ないし業者に対する売込みや外部サーバーへのアップロードという質的に公務員の行動とは一線を画するものに至っていることによるものであって、原告の責任が最も重大であることを踏まえると、原告が主張する点は、上記認定判断を左右するものではない。」

3.懲戒歴がなく、上司からの依頼に端を発していて、顕著な悪用がなくてもダメ

 確かに、情報漏洩の人数や、その後の住民からの訴訟提起等の事実をみると、免職も当然であるかにも見えます。

 しかし、漏洩の対象は、DV被害者の住所・連絡先といった、外部への漏洩が深刻な事件に繋がりかねないような情報ではありません。クレジットカードに関する情報のように、第三者に取得されることで、経済的な実害が生じてしまう類の情報でもありません。懲戒歴がなく、元々上司からの依頼に端を発しているにもかかわらず、懲戒免職が有効というのは、やや酷な気がしないでもありません。

 とはいえ、1000人単位で集団訴訟を提起するなど、耳目を集めてしまうと(それにより公務への信頼が広く毀損されてしまうと)、やはり処分は厳しいものにならざるを得ないのかも知れません。

 いずれにせよ、本件は、情報漏洩に対する処分量定を考えるうえで、参考になる事件であるように思われます。

定期昇給に関する労使慣行の成立が認められた例

1.労使慣行の主張

 長年に渡って維持されてきた労働者にとって好ましい事実状態が使用者から変更されそうになったとき、労使慣行が成立しているという反論を提示することがあります。

 これは、

「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。」

と規定する民法92条を根拠にする主張です。一定の場合、慣習にも法的な拘束力が認められるため、慣行の成立は使用者の権限を拘束する根拠になります。

 しかし、労使慣行の成立を裁判所に認めてもらうことは、決して容易ではありません。法的な効力を獲得するに至るための要件が厳しいからです。例えば、大阪高判平5.6.25労働判例679-32 商大八戸ノ里ドライビングスクール事件は、労使慣行の成立要件について、

「民法九二条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行なわれていたこと労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要するものと解される。そして、その労使慣行が右の要件を充たし、事実たる慣習として法的効力が認められるか否かは、その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約や就業規則等との関係(当該慣行がこれらの規定に反するものか、それらを補充するものか)、当該慣行の反復継続性の程度(継続期間、時間的間隔、範囲、人数、回数・頻度)、定着の度合い、労使双方の労働協約や就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定すべきものであり、この理は、右の慣行か労使のどちらに有利であるか不利であるかを問わないものと解する。それゆえ、労働協約、就業規則等に矛盾抵触し、これによって定められた 項を改廃するのと同じ結果をもたらす労使慣行が事実たる慣習として成立するためには、その慣行が相当長期間、相当多数回にわたり広く反復継続し、かつ、右履行についての使用者の規範意識が明確であることが要求されるものといわなければならない。」

と判示しています。

 要するに、一定の事実状態が長期間続いているだけでは足りず、労使双方、特に、使用者側で規範意識を有していることが必要だと理解されています。

 しかし、規範意識のような主観的な事情の立証は、通常、困難を極めます。そのため、労使慣行の成立に関する主張は、排斥されることが少なくありません。

 こうした状況のもと、近時公刊された判例集に、労使慣行の成立が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令3.3.19労働判例ジャーナル113-60 学校法人明泉学園事件です。

2.学校法人明泉学園事件

 本件で被告になったのは、高等学校等を設置運営する学校法人です。

 原告になったのは、被告に採用され、国語科教員として勤務してきた方です。被告から雇止めにされたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起しました。

 本件では、雇止めの効力のほか、原告の賃金額をどう認定するのかも争点になりました。原告の主張は、大意、

平成10年度までには、特別の事情がない限り、全職員が毎年少なくとも1号俸ずつ提起昇給する労使慣行が成立していた、

ゆえに、被告が行った平成11年度以降の一方的な定期昇給の停止は無効である、

よって、定期昇給を前提とした賃金を支払え、

というものでした。

 被告は労使慣行の成立を争いましたが、裁判所は、次のとおり述べて、労使慣行の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「鶴川高校では、昭和54年度から平成10年度までの間、参与に就任した者、退職後に再雇用された者、55歳又は58際に達した者及び病気や産休等により長期間欠勤し又は休職した者を除き、常勤講師を含む全職員が毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給をしていた。また、前記・・・のとおり、被告は、平成3年度の就業規則46条1項で『教職員が、1年を下らない期間を良好な成績で勤務したときは、基本給を1号上位の号数に昇給させることができる。ただし、満58歳以上の教職員については、この規定を適用しない。』と規定した上で、就業規則に定める『職員が1年間良好な成績で勤務したとき』とは、昇給日現在において引き続く30日を超える欠勤中の状態でないこと、昇給日前1年間に減給以上の制裁を受けた者でないこと、昇給日前1年間の欠勤について勤勉度失点を計算した結果、失点の合計が60を超えないこと及び学長等により昇給不適の判定を受けた者でないことの各要件を全て満足する場合を指すものとして運用すると記載した本件運用基準を作成していた。そして、被告は、平成10年度までの間、本件運用基準記載の上記各要件を全て充足する限りは常勤講師を含む全職員の定期昇給を実施していたばかりでなく、被告理事長は、平成9年12月10日の団体交渉の際、本件組合に対し、平成10年度は定期昇給を認める旨回答した。

このような各事情を考慮すれば、鶴川高校においては、遅くとも平成10年度までに、常勤講師を含む全職員について、勤務形態の変更、就業規則所定の昇給停止年齢への到達、病気等による長期欠勤その他の特別の事情がない限り、毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給させることが事実として慣行になっていたことが認められ、被告の代表者理事長を含む労使双方が、同慣行を規範として意識し、これに従ってきたとみることができる。そうすると、同慣行は、遅くとも同年度の時点で、法的拘束力を有する労使慣行になっていたものというべきである。

「以上に対し、被告は、基本給の定期昇給につき労使ともに規範として認識して従ってきたことはないし、また、基本給の定期昇給は法的拘束力のある労使慣行ではないと主張するが、上記認定・説示に照らし採用しない。」

3.使用者側の規範意識の立証-運用基準への自己拘束

 上述のとおり、労使慣行の成立を立証するうえで一番の難所になるのは、使用者側の規範意識の立証です。本件では、使用者側に規範意識があったことの根拠として、自ら定めた運用基準に基づいて定期昇給を実施していたことが指摘されました。

 本件は規範意識の立証方法の一例を示すものとして、他の事案の処理にも参考になるように思われます。

 

雇止め-労働契約法19条1号類型(期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる類型)への該当性が認められた例

1.雇止めについての法規制

 有期労働契約において、契約期間満了に際し、使用者から次期の契約更新を拒絶することを「雇止め」といいます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、第1版、平30〕384頁参照)。

 有期労働契約は、契約期間の満了により終了するのが原則です。この意味において、雇止めをすることは、基本的には使用者の自由です。

 しかし、労働契約法19条は、有期労働契約の更新が反復されていて期間の定めのない契約と同視できるようになっている場合や(1号類型)、契約更新に向けた合理的期待がある場合(2号類型)には、雇止めをするにあたり、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が必要になると規定しています。客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められない場合、労働者から契約更新の申込みがなされると、使用者の承諾が擬制されます。結果、労働契約は、従前と同一の条件のもとで更新されたものとして扱われることになります。

 上述のとおり、法律で規制されている雇止めには、1号類型と2号類型と、二つの類型があります。このうち、実務上、圧倒的に多くの事案で適用されているのは2号類型です。1号類型への該当性が認められる事案は殆どありません。

 1号類型に該当するハードルの高さを象徴する近時の事案に、福岡地判令2.3.17労働判例ジャーナル99-22博報堂事件があります。本件は、昭和63年4月に新卒で入社して以降、約30年に渡り29回も雇用契約が更新されてきたという事案における雇止めの可否が問題になった事案です。この事案で、裁判所は、2号類型への該当性は認めましたが、1号類型への該当性については、

「被告は、平成25年まで、雇用契約書を交わすだけで本件雇用契約を更新してきたのであり、平成24年改正法の施行を契機として、平成25年以降は、原告に対しても最長5年ルールを適用し、毎年、契約更新通知書を原告に交付したり、面談を行うようになったものである。」

このような平成25年以降の更新の態様やそれに関わる事情等からみて、本件雇用契約を全体として見渡したとき、その全体を、期間の定めのない雇用契約と社会通念上同視できるとするには、やや困難な面があることは否めず、したがって、労働契約法19条1号に直ちには該当しないものと考えられる。

と判示し、これを否定しています。

 このように1号類型への該当性が認められることは極めて稀です。しかし、近時公刊された判例集に、この1号類型への該当性を認めた裁判例が掲載されていました。東京地判令3.3.19労働判例ジャーナル113-60 学校法人明泉学園事件です。

2.学校法人明泉学園事件

 本件は高等学校の国語科教員として勤務してきた方に対する雇止めの可否が問題になった事件です。

 原告教員の方は、平成3年3月に大学を卒業した後、平成3年4月1日から平成30年3月31日までの間、期間1年の労働契約を繰り返し更新してきました。更新回数・期間とも長期間に渡ることから、本件では労働契約法19条1号への該当性が議論の対象になりました。

 この事案で、裁判所は、次のとおり述べて、1号類型への該当性を認めました。

(裁判所の判断)

「被告は鶴川高校を設置運営する学校法人であるところ、前項(認定事実)のとおり、原告は、平成3年度以降、鶴川高校において、毎年度、週に10コマないし18コマの科目を担当するとともに、入学試験の問題作成や採点等を担当し、平成23年11月7日から平成28年3月31日までを除き、クラス担任又は副担任を務め、部活動の顧問、学校運営に関する校務、生徒募集のための活動も担当しており、被告において一貫して、恒常的・基幹的業務を務めていたといえる。また、本件労働契約の更新状況をみると、前記第2の1(前提事実)・・・のとおり、原告は、平成3年4月から平成30年3月まで合計26回の更新を経て勤続年数が27年間と長期間に及んでいた。さらに、後記・・・のとおり、鶴川高校においては、平成10年度まで、常勤講師を含む全職員について、特別の事情がない限り、毎年度少なくとも1号俸ずつ定期昇給しており、常勤講師について別紙2の給料表(2等級は37号俸まで存在する。)の2等級4号俸から毎年度1等級ずつ定期昇給するとの慣行が法的拘束力を有するものとして存在していたことからすれば、常勤講師につき短期的雇用を予定していたとはいい難い。そして、更新手続として、前記第2の1(前提事実)・・・のとおり、被告は、原告に対し、平成6年度以降、毎年度、更新前に本件応諾書及び本件念書(平成15年度まで。)に署名押印をして被告に提出するよう求め、原告は各書面に署名押印して被告に提出し、被告は、本件給与発令、本件辞令を交付するなどの措置がとられていたが、他方、本件労働契約の更新前に面談等が実施されたことはなかった。さらに、前記・・・(前提事実)・・・のとおり、平成16年度以降の本件応諾書には本件労働契約の『更新をしない場合』の具体的事由が記載されていたが、原告は、後記・・・のとおり、平成27年6月3日、同年12月24日、平成28年9月2日、訓告書の措置を受けているため、前記・・・のとおり、平成27年度、平成28年度本件不更新条項の(26)過去において懲戒処分・訓告書・注意書の措置を受けた者に当たるにもかかわらず、平成28年度、平成29年度の本件労働契約の締結に当たり、被告は、原告に対してこの点につき何らの指摘もしていないのであって、平成17年度以降の本件労働契約の更新の際、原告について本件不更新条項に当たるか否かを審査した上で本件労働契約を更新していたとはいえない。したがって、本件労働契約の更新手続は、書面の取り交わしのみで実際には実質的な審査をしていないという意味で形骸化していたと評価するほかない。

「以上のとおり、原告の携わっていた業務内容、更新の回数、雇用の通算期間、毎年度定期昇給をさせるとの法的拘束力を有する労使慣行の存在及び契約の更新手続の具体的状況に鑑みれば、前記・・・の被告の主張欄記載の被告の主張を考慮しても、本件労働契約を終了させることが期間の定めのない契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できるといえ、労契法19条1号に該当すると認めるのが相当である。

3.1号類型が認められた稀有な例

 1号類型であろうが2号類型であろうが、いずれかの類型に該当しさえすれば、雇止めにあたり客観的合理性・社会通念上の相当性が必要になるというルールが適用されます。しかし、雇止めに必要となる客観的合理性・社会通念上の相当性は相対的な概念で、1号類型に該当した方が、2号類型に該当する場合よりも、強い事情が必要になると理解されています。

 本件は1号類型への該当性が認められた稀有な例で、同種事案において1号類型への該当性を論証するにあたり参考になります。

 

事業譲渡に伴う労働条件の不利益変更に対抗するための法律構成

1.事業譲渡と労働契約

 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)を譲渡することを、事業譲渡といいます。

 ある会社が別の会社に対して事業譲渡をすることは、日常的に行われています。

 それでは、その事業の中で働いている人の労働契約は、事業譲渡に伴って、どのような影響を受けるのでしょうか?

 事業譲渡が行われていたとしても、自動的に労働契約上の使用者の地位が譲受人に承継されるわけではありません。引き続きその事業の中で働き続けるためには、譲受人との間で新たに労働契約を締結し直す必要があります。

 しかし、譲受人には、従前の通りの条件で労働契約の申込みをする義務があるわけではありません。そのため、事業譲渡の場面では、往々にして、労働条件の不利益変更の打診が伴います。

 このように労働条件の不利益変更を突き付けられた労働者は、厳しい選択を迫られます。

 これを受け入れなかった場合、労働者の労働契約は、元々の雇い主(事業の譲渡人)との間で存続します。しかし、労務の提供先となる事業そのものが消滅しているわけですから、良くて配転、悪ければ整理解雇されることになります。

 他方、これを受け入れると、当面の雇用は維持されます。しかし、労働条件は従前よりも悪化します。労働条件の不利益変更には法律や判例で一定の制限が課せられてますが(労働契約法9条、10条、最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件等参照)、事業譲渡に伴う労働条件の変更は、旧労働契約の破棄と新労働契約の締結であるため、こうした法理が直接適用されることはありません。

 それでは、事業譲渡に伴い、労働条件の切り下げられた労働契約を譲受人と新たに締結してしまった場合、もう労働者は何も言えなくなってしまうのでしょうか?

 この問題に挑んだ裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令3.3.26労働判例1245-13 ヴィディヤコーヒー事件です。

2.ヴィディヤコーヒー事件

 本件で原告になったのは、喫茶店、レストランの経営及び管理等を目的とする旧Cに採用され、その直営の店舗(本件店舗)の店長として勤務していた方です。旧Cから被告への本件店舗等の事業譲渡に伴い、平成28年8月16日付けで被告と雇用契約を締結した後も、本件店舗の店長として働いていました。

 原告と旧Cとの間の労働契約には退職金の定めがありました。しかし、被告と新たに締結した雇用契約書には、「退職金は、支給しない。」と明記されていました。

 これだけを見れば、原告が被告を退職しても、被告に対して退職金の請求をすることは認められないように思われます。旧Cを一旦退職した後で、新たに被告と退職金なしの雇用契約を締結したと理解されるからです。被告からすれば、退職金は旧Cに請求してくれという話になります。

 しかし、旧CとF(本件店舗の事業譲受会社として被告を設立した会社)との間で交わされた事業譲渡契書には、

「現在、旧Cが雇用している従業員は現在の雇用条件と同条件で旧Cがそのまま雇用し被告に出向させる。毎月の給与明細については給与日前に被告に報告する。なお、全店舗を被告に移行した時点で被告が引き継ぐこととする。(以下、この条項を『本件条項』という。)」

という付加条件がつけられていました。

 こうした付加条件を根拠に、退職金の支払義務を含め労働契約が包括的に承継されているとして、被告を退職した原告は、被告に対し、退職金の支払を求める訴えを起こしました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、退職金支払義務の承継を否定しました。

(裁判所の判断)

「原告及び補助参加人は、本件事業譲渡契約において、旧Cと従業員との雇用に関する契約内容や権利義務関係は被告が包括的に承継する旨が合意されたから、原告がこれに同意したことをもって、旧Cと原告との雇用契約とこれに基づく権利義務関係は被告に承継されたと主張し、証拠・・・中にはこれに沿う部分がある。」

「しかし、前記認定事実・・・によれば、旧CとFとの間で、本件事業譲渡契約の条件交渉の際、本件店舗等の従業員の処遇について、勤務地、給与、交通費、店舗における立場を変えずに被告が引き継ぐものの、Fにおいて退職金の定めはないことが明らかにされていたこと、Gから本件店舗等の各店長に対しても、経営者が変わっても雇用条件や地位に変更はないが退職金はなくなること、ただし旧Cの下での退職金は旧Cにおいて支払うことが説明されたこと、その上で、原告を含む本件店舗等の店長は、Fが設立した被告との間で新たに雇用契約書及び労働条件通知書を取り交わし、本件店舗等のアルバイトは、改めて被告に履歴書を提出し、被告との間で労働条件通知書を取り交わしていることが認められ、これらの事実によれば、本件事業譲渡契約において、Fは、本件店舗等の従業員が望めば、勤務地、給与、地位等の条件を変えることなく被告において雇用を維持することを約したにすぎず、被告においては退職金の定めがないこともあって、被告による雇用を望む従業員とは新たに雇用契約を締結し直すことが予定されていたものであり、原告についても、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の内容で、被告と新たな雇用契約を締結したというべきである。

「これに対し、原告及び補助参加人は、本件条項に『現在、旧Cが雇用している従業員は現在の雇用条件と同条件で旧Cがそのまま雇用し・・・全店舗を被告に移行した時点で被告が引き継ぐこととする。』とあるのは、本件事業譲渡契約後も維持された雇用契約の内容や権利義務関係を被告が引き継ぐことを意味すると主張する。」

「しかし、前記認定事実・・・によれば、旧CとFは、本件事業譲渡契約後も本件店舗等の賃貸人の承諾が得られるまで、対外的には本件店舗等の経営者は旧Cのままとし、従業員の雇い主も旧Cのままとして、賃貸人の承諾が得られた後に、被告が本件店舗等の経営を引き継ぎ、従業員の雇い主も被告とすることを合意していたものと認められ、このような事実によれば、本件条項は、上記のような取扱いについて定めたにすぎないというべきであり、被告において雇用の維持を約する以上に、旧Cにおける雇用契約を承継することまで定めたものとは解されない。」

「また、原告は、本件店舗等の従業員に対する退職金債務を被告が承継しないのであれば、その旨が明示されていてしかるべきところ、本件覚書にそのような記載はないと主張する。」

「しかし、前記認定事実・・・によれば、本件事業譲渡契約の条件交渉の際、本件店舗等の従業員が旧Cで勤務していた期間の退職金の帰趨が話題になることはなかったこと、本件覚書・・・をみても、本件事業譲渡契約における譲渡の対象は、本件店舗等の事業に関する動産、権利等の資産であり、負債は対象とされていないことが認められ、本件吸収分割契約書等・・・には、承継する負債として退職給付債務が明示されていることと対照的である。そうすると、本件覚書に退職金債務を被告が承継する旨の明示がないことは、むしろ、そのような承継の合意がないことを裏付けるというべきである。」

「さらに、原告及び補助参加人は、原告はGから、労働条件や労働者としての地位が被告にそのまま引き継がれ、退職金も被告に引き継がれ、被告を退職する際に被告から支払われるとの説明を受け、これに同意する趣旨で本件雇用契約書及び本件労働条件通知書に署名押印したにすぎず、その証拠に原告は旧Cに退職金請求をしないまま被告の下での勤務を続けたと主張し、原告はこれに沿う供述・・・をする。」

「しかし、前記認定事実・・・によれば、Gは、本件店舗等の各店長に対し、被告の下では退職金がないことを説明し、旧Cの下での退職金については被告を退職する際に旧Cが責任を持って支払う旨のMからの回答を伝え、退職金の支給はない旨が記載された雇用契約書及び労働条件通知書に署名押印を得ており、原告についても同様であったことが認められる。

「この点、前記認定事実・・・のとおり、Gは被告に転職した者であり、被告の主張に沿うGの供述の信用性は慎重に吟味する必要があるものの、退職金に関するGの説明は、被告の意向に沿う動機がないIの供述とも一致すること、とりわけIは自ら退職金の帰趨を問い合わせており、これに対する回答についての記憶も正確なものということができることにかんがみ、信用することができる。」

「また、本件店舗等の各店長といえども、旧Cの経営の内実を把握する立場にはなく、前記認定事実・・・のとおり、旧Cは本件事業譲渡契約後も被告から業務委託を受けて本件店舗等の運営を引き続き行っていたから、『今はお金がないので、被告を退職するときに責任をもって旧Cが支払う。』との説明を信じたとしても不自然とは言い難く、現にIもこの説明を信じたと供述するところである。」

「さらに、本件労働契約書や本件労働条件通知書は、いずれも一覧性のある書類であり、条項も少ない上、原告自身が空欄を埋めて完成させる形式となっており、そこに退職金の支給はない旨の記載があることに気付かないことは通常考え難く、またその記載に意味がないと考える理由もない。

「したがって、前記認定に反する原告の供述は採用できない。」

「以上によれば、旧Cと原告との雇用契約が被告に承継されたとの原告の主張は採用できず、雇用契約の承継に伴い退職金に関する権利義務関係も被告に承継されたとする原告の主張には理由がない。」

3.承継の合意よりも合理性審査の議論の方が適切

 上述のとおり、裁判所は、事業譲渡に際してG(旧Cの常務取締役)から退職金支払債務の承継がないと説明を受けていたことなどを指摘したうえ、被告が旧Cとの労働契約を承継したとの主張を排斥しました。

 しかし、このことは事業譲渡に伴う労働条件の不利益変更に対抗するための法律構成の不存在を意味するわけではありません。

 本裁判例が掲載されていた雑誌のコメント部分に、次のような論評が書かれていました。

「東京日新学園事件(さいたま地判平16.12.22労判888号13頁)は、客観的に合理的な理由を伴わずして、いわゆる全部譲渡に当たり一部の労働者の雇用関係のみが承継を排除される場合には、『当該労働者と事業譲受人との間に、労働力承継の実態に照らし合理的と認められる内容の雇用契約が締結されたのと同様の法律関係が生じるものと解するのが相当である』と判示している。また、勝英自動車学校(大船自動車興行)事件(東京高判平17.5.31労判898号16頁)は、営業譲渡に際して、譲受会社・譲渡会社が『譲渡人の下での賃金等の労働条件を相当程度下回る水準に改訂することに異議のある従業員については承継の対象から除外する』旨の合意を交わしていたところ、当該合意については、民法90条違反として無効になると判示している。」

 そして、コメントは会社分割と事業譲渡の機能的類似性に着目したうえで、会社分割に関する労働契約承継のルールを定めた労働契約承継法を事業譲渡の場合にも類推適用する可能性にも言及し、

「退職金を支払わないとする事業譲渡後の労働条件が『合理的』であるのか否か」

という問題設定の立て方をする余地があったのではないかと指摘しています。

 これは鋭い指摘であり、事業譲渡に伴い不本意な合意をしてしまった労働者の保護を考えるにあたっての有力な法律構成を示唆するものだと思います。本件でも、こうした構成で争っていれば、結論が異なっていたかも知れません。

 

指導改善研修期間の約半分を残して改善の見込みがないと意見を述べることが許されるのか?

1.期間途中での見切り

 公立学校の教員は、地方公務員ではあるものの、「教育公務員特例法」という特殊なルールが適用されます。

 その中の一つに、「指導改善研修」という仕組みがあります。

 これは、児童等に対する指導が不適切であると認定された教諭等に対し、その能力、適性等に応じて、当該指導の改善を図るために必要な事項に関する研修をいいます(教育公務員特例法25条1項)。

 指導改善研修の期間は、原則として、1年を超えない範囲で設定されます(教育公務員特例法25条2項本文)。 

 指導改善研修の実施時と終了時には、

「教育学、医学、心理学その他の児童等に対する指導に関する専門的知識を有する者及び当該任命権者の属する都道府県又は市町村の区域内に居住する保護者」

の意見を聴くことが義務付けられています(教育公務員特例法25条5項)。

 指導改善研修の終了時、任命権者は、指導改善研修を受けた者の児童等に対する指導の改善の程度に関する認定を行います(教育公務員特例法25条4項)。ここで、指導の改善が不十分でなお児童等に対する指導を適切に行うことができないと認定された教諭等は、免職その他の必要な措置を受けます(教育公務員特例法25条の2)。

 それでは、こうしたルールのもと、指導改善研修の半ばにおいて、任命権者から教育公務員特例法25条5項に基づく諮問を受けた機関が、改善の見込みがないとの意見を述べることは許容されるのでしょうか?

 半分で見切りが可能だったとすれば、当初から期間を半分にできたはずです。その意味で、半分の期間で見切りを付けることは、公務員・労働者に酷であるだけではなく、当初期間が設けられた趣旨を没却するようにも思われます。

 また、法が諮問機関の意見具申を義務付けているのは、指導改善研修の最初と最後だけでもあります。それなのに、まだ半分を残している段階において、諮問機関が見切りで「改善の見込みなし」との意見を具申することは許されるのでしょうか?
 近時公刊された判例集に、この問題が争点となった裁判例が掲載されていました。大阪地判令3.3.19労働判例ジャーナル113-46 大阪府事件です。

2.大阪府事件

 本件で原告になったのは、大阪府立高等学校の教諭として勤務していた方です。平成24年4月から12月までの間、指導改善研修を受けていたところ、8月の段階で諮問委員会(本件諮問委員会)が「改善が見込まれるとは考え難い」「分限免職の前に多色検討をjっ支することが必要」などの意見を出しました。本件委員会の意見をD管理主事を通じて伝えられた原告は、平成24年10月をもって退職する旨の退職届の提出を行いました。こうした事実関係のもと、本件諮問委員会の意見具申は、裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとして、大阪府を相手取り、国家賠償を求めて提訴しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「原告は、本件諮問委員会の意見具申は

〔1〕指導改善研修半ばにして原告につき教員として資質の改善が見込めないと断定する点、

〔2〕研修内容を見直して他職検討を組み入れるべきであると述べる点、

〔3〕他職検討について具体的な検討を行っていない点において、

諮問委員会としてなすべき義務を怠り、あるいは諮問委員会に与えられた権限を越えるものとして違法であると主張する。」

「しかし、府教委は、指導改善研修の開始時認定と終了時認定の際に、各認定を正確に行うため、教育学、医学、心理学その他の児童等に対する指導に関する専門的知識を有する者及び大阪府内に居住する保護者である者の意見を聴かなければならないところ(教特法25条の2第5項)、そのための機関として、被告は、諮問委員会を設置し、設置要綱を定めている(大阪府教育委員会規則第13号(教特法25条の2第5項及び第6項に規定する手続に関する規則)7条、『指導が不適切である』教諭等への支援及び指導に関する要綱、諮問委員会設置要綱、乙1)。そして、諮問委員会設置要綱によれば、諮問委員会は、指導が不適切である教諭等に対する具体的な対応方策について、専門的・多角的見地から検討を行い、府民に信頼される学校教育や学校運営に資することを目的として設置され、府教委の求めに応じ、指導が不適切である教諭等に対する府教委の対応案について意見を述べるものとされている。」

「このような諮問委員会の設置目的と趣旨にかんがみれば、諮問委員会には、指導改善研修の開始時認定と終了時認定の際に府教委の求めに応じて意見を述べることはもとより、指導改善研修の途中においても、府教委の求めがあれば、それまでの研修の内容と改善の程度を踏まえ、その後に予定されている研修の内容の相当性とそれによる改善の程度の見込みについて検討し、残りの研修期間における府教委の対応について意見を述べることが当然に予定されているというべきである。」

「本件において、前記認定事実によれば、本件諮問委員会は、府教委から原告の研修状況についての報告を受け、再度の指導改善研修の開始から5か月が経過した時点での研修成果にかんがみれば残り4か月間で改善が見込まれるとは考え難いところ、終了時認定の際には他職検討の結果を踏まえる必要があるとして、研修内容を変更して他職検討を組み入れる方向で検討するよう意見を述べたものであり、諮問委員会の権限と義務に反するところは何ら認められない。」

「なお、本件諮問委員会において他職検討の具体的内容までは検討されていいないものの、研修内容をどのように変更して他職検討を組み入れるかは、第一次的には府教委において検討すべき事柄であり、この検討を促す本件諮問委員会の意見具申に欠けるところはないというべきである。」

「以上によれば、本件諮問委員会の意見具申の違法をいう原告の主張はいずれの点をとっても採用の限りでない。」

3.見切りが早すぎるのではないかと思われるが・・・

 民間の場合、試用期間の半分を残した段階、あるいはPIP(Performance Improvement Program)を半分しか消化していない段階で、改善の見込みなしとして解雇を言い渡された場合、労働者側としては争える余地がある場合が多いです。

 また、法律の解釈として、最初と最後以外に意見を述べることが想定されているのかという感覚もあります。

 本件諮問委員会の判断が、本当に職権を逸脱したものではないのかは再考の余地があるように思われます。

 しかし、本件のような裁判例もあるため、指導改善研修の対象になった場合には、最初から隙を作らないよう、注意しながら取り組むことが推奨されます。