1.経営者や上司と対立することは、それ自体が非難されるようなことなのか?
経営者や上司との対立から、解雇や雇止めに至ることは、それほど珍しいことではありません。
しかし、業務命令違反や職務怠慢がある場合はともかく、経営者や上司と異なる考え方を持ち、それを表明することは、非難されるようなことなのでしょうか?
この問題を考えるにあたり示唆を与えてくれる裁判例が、近時の判例集に掲載されていました。
広島高裁平31.4.18労働判例1204-5 学校法人梅光学院ほか(特任准教授)事件です。
2.学校法人梅幸学園ほか(特任准教授)事件
この事件で原告・控訴人になったのは、大学の特任准教授の方です。
被告・被控訴人になったのは、大学を経営する学校法人です。
平成27年4月1日、原告は被告から大学における特任准教授として1年任期で雇用されました。
被告の募集要項には、
「任期1年。ただし、更新することがある(最大2回まで最長3年まで雇用することがある)。被告法人の判断により、その後も、再度採用選考の上、雇用することがある。」
と記載されていました。
また、被告の就業規則には
「契約更新により、最初の契約の開始日から更新後の契約の終了日までの通算した契約期間が5年を超えるときは・・・有期労働契約を更新しない。」
との更新限度条項がありました。
このように有期労働契約は一定の限度で更新があり得るとされていたのですが、原告の方は、1回も契約を更新されることなく、平成28年2月24日、被告から同月3月31日をもって雇止めとなることを通知されました。
これに対して、雇止めの有効性を争い、原告の方が地位確認等を求めて被告や被告の元代表者を訴えたのが本件です。
雇止めの有効性を判断する中で、裁判所は次のように判示しています。
「控訴人が被控訴人法人の経営状況が悪化する中で、被控訴人丙川が理事等の行おうとしている改革とは別の改革案を検討し、その検討グループに控訴人が加わっていたこと、被控訴人丙川は、その検討結果に基づき、『学院長声明』として改革案を提案する状況にまで至ったが、これを表明するには至らず、改革案の提案を断念したこと、被控訴人法人が上記のとおり控訴人との更新を前提とした準備をしていたにもかかわらず、本件雇止めを行ったのは、控訴人が上記の行動を取ったことなどから理事に対決する姿勢をとったと見られたことに原因があることを認めることができる。しかし、控訴人がその当時被控訴人法人代表者であった被控訴人丙川と共に被控訴人法人の改革案を検討したこと自体を非難されるいわれはなく、また、その後に控訴人に不当な動きがあったと認められないことは、後記(3)で訂正の上引用する原判決記載のとおりであって、これらの経緯は、控訴人の契約更新の期待についての合理的な理由を消滅させる事情とはいえないし、かえって、本件雇止めが濫用的なものであることをうかがわせるものである。」
3.正解が一つでない問題に色々な考え方を持つことは悪いことではない
裁判所は、
「本件就業規則には本件更新限度条項、すなわち、有期労働契約を更新する場合、最初の契約の開始日から更新後の契約の終了日までの通算期間が5年を超えるときは、これを更新しないとされており、契約期間が5年までは更新し得ることが明記されていたものである。」
「合理的期待が高度のものである本件においては、本件募集要項の記載を根拠に、3年を超える雇用契約の継続が合理的に期待できる状態ではなかったとはいえない。」
とし、結論として平成31年3月31日(判決言渡=平成31年4月18日までなのでその直近)まで雇用契約上の権利を有する地位にあったことを認め、同日までの賃金請求を認容しました。
法人としての最終的な意思決定や、気に入らない業務命令に対し、命令違反・職務放棄といった対応をとっていたのであればともかく、ルールを逸脱することなく、自分の立場を表明したり、経営側とは異なる確度から法人の改革案を検討したりすることは、それ自体責められるようなことではありません。
1回も契約が更新されていなかったにもかかわらず、比較的思い切った判断がされているのは、原告がいわゆる仕事のできる方であった反面、非違行為とされるような事情が見当たらなかったことが影響しているのではないかと思われます。
先日も、
「上司と先輩の死因に疑問『調査主張したら解雇された』 と主張、労働審判申し立て」
との記事が掲載されていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190910-00010111-bengocom-soci
会社側は、
「明電舎は女性の上司・先輩社員が亡くなったことは認めたものの、『遺族の了解を得ていないので、詳細は控えたいが、長時間労働の事実はなかった』と回答した。」
「試用期間中の解雇という女性の主張に対しても、1年間の有期雇用で契約満了による退社だとしている。」
との見解を表明しており、現時点では労働側と会社側のどちらの言い分に理があるのかは分かりません。
しかし、記事のように会社の見解と対立的な意見・姿勢を持ったことと、労働者としての地位の喪失との結びつきが問題となる紛争は、古くから数多く存在します。
こうしたトラブルに巻き込まれそうになったとき、少なくとも法人をより良くするための案を検討しただけで非難されるようないわれはないことは、覚えておいて良いのではないかと思います。