弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

「つながり」を強調する報道に慎重さが求められる理由(NGT裁判)

1.アイドルハンター?

 ネット上に、

「別件で逮捕アイドルハンター集団は無反省!? “山口真帆襲撃”中心格も暗躍か」

という記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200120-00000038-tospoweb-ent

 記事には、

「アイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー・通称ノイミー)」メンバーへの付きまとい行為で、昨年12月に男性1人が強要の疑いで警視庁駒込警察署に逮捕されていたことを『週刊文春デジタル』が報じた。さらに、この男性が元NGT48・山口真帆(24)への暴行事件に関わった“アイドルハンター集団”のメンバーだったことが判明。本紙の取材では、山口を襲った中心格のA氏が今なおハンター集団の“資金源”になり、暗躍している可能性も浮上した。

(中略)

「19日にアップされた文春デジタルによれば、熱狂的なファンX氏が昨年12月16日、メンバー1人の自宅最寄り駅で待ち伏せをし、2時間以上も付きまとい、LINEの連絡先を聞き出した。X氏は同20日に強要の疑いで逮捕。メンバーやグループへの接触をしない旨の誓約書を書き、グループへの出入り禁止処分に。年明けの1月9日に釈放されたという。」

X氏でさらに驚きなのは、一昨年12月に起きた元NGT48・山口への暴行事件にも関わっていた“アイドルハンター集団”の1人だったのだ。
「『事件では、山口を襲った主犯の男AとBが逮捕され、不起訴となっているが、Xは山口の帰宅時間をメンバーから聞き出してAらに教えた人物。事件後、近くの公園で山口らとA、Bが話し合った現場にも合流している。NGTの運営会社が設置した第三者委員会が昨年3月にまとめた「調査報告書」にもXのことは記載されている』(芸能プロ関係者)」
X氏は20代後半でA、B両氏らハンター集団とNGT以前にもさまざまなグループを標的に。アイドルと“つながり”と呼ばれる私的交流を目的に協力態勢を敷いていた。
「さらに、本紙の取材で今回の事件では山口事件の中心のA氏(暴行は否定)がX氏の“資金源”として暗躍している可能性が浮上した。

(中略)

さまざまなグループで事件や騒動を起こし、出禁処分などになりながらも、まったく反省の色がないハンター集団。『金はあるし、また別のグループに行けばいいか』ぐらいしか思っていないのかもしれない。

2.単なる非合法な個人情報売買である可能性が排除されるまでは、被告らの「つながり」に関する主張を拡散するのは控える必要があるのではないだろうか

 文中の

「X氏でさらに驚きなのは、一昨年12月に起きた元NGT48・山口への暴行事件にも関わっていた“アイドルハンター集団”の1人だったのだ。」

という書きぶりからすると、記事は、A、B、Xを等しく「アイドルハンター集団」と捉えているように思われます。

 しかし、その見方が、果たして実体と適合しているのだろうかという気がしなくもありません。記事を見ていると、AとXとの関係は、一つの目的のもと集まっている団体のメンバーというよりも、アイドルの個人情報の買主と売主に近いのではないかという疑問が生じます。

 そうだとすると、やはりNGT裁判の被告らの準備書面や陳述書に記載されている「つながり」なる事実を無批判に真に受け、これを右から左に流すように、あたかも私的交流があったかのような報道を行うことには慎重になった方がよいのではないかと思われます。所掲のような報道は、Xにアイドルの個人情報の収集・獲得能力があると宣伝するに等しい効果があるからです。

 アイドルと私的に接触できるのであれば、非合法手段を用いても構わない・高額の金銭を支払っても構わないと考える者は、一定数いるだろうと思います。一方当事者の言い分にすぎない準備書面や陳述書に記載されているレベルの「つながり」を拡散することは、そうした方に対し、「Xに資金を提供しさえすれば、アイドルと『つながり』を持つことができる」という誤ったメッセージになりかねません。

 以前、裁判中であるにも関わらず、NGT裁判の被告が動画配信したことを非典型的で訴訟に勝つための行動としては合理性がないという話をしました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/12/26/205229

 しかし、AとXとが意思を通じ、アイドルと私的交流が持てると銘打って個人情報の入手代行・販売ビジネスを展開しようとしていると仮定すると、被告が訴訟において本質的な争点にならないであろう「つながり」を虚実織り交ぜながら主張したり、動画配信などの非典型的な行動をしたりすることに合理性が出てきます。放っておくだけでマスコミが注目・拡散し、自分達の情報収集能力の宣伝を勝手にやってくれるからです。後は金銭を出してくれる顧客からのアプローチを待てばよく、炎上商法の亜種と言えるかもしれません。

 本邦の民事執行制度(判決で認められた請求権を強制的に取り立てる仕組み)の実効性は必ずしも高くはないため、AやXは「つながり」の獲得実績を宣伝することにNGT裁判で勝つ以上の意義を見出しているのかも知れません。

 NGT裁判の次回期日は1月29日とされています。

 https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/akb/1636623/

  上述は飽くまでも記事を一読して思い浮かんだ無根拠な仮説の一つでしかありませんが、少なくとも、非合法ビジネスの宣伝活動に利用されているのではないかといった懸念が払拭できるまでの間(これは杞憂ならそれに越したことはなく、杞憂であることを示すような報道がなされることを本当に期待しています)、各メディアは被告らの言葉をそのままの形で右から左に拡散することには慎重になった方がよさそうに思います。

 また、そうした個人情報の獲得・販売ビジネスにXの意図があるのであれば、反省してくれることに期待してもあまり意味がありません。グループ単位で出入り禁止にしたとしても、いたちごっこになることが目に見えているため、業界単位での対応が必要になるのだろうと思われます。